夕凪はまた大きく目を見開いた。あの時、大広間はひどく混乱していた。誰かの足に偶然引っかかってしまったのだとばかり思っていた。まさか、理紗がわざと足を引っかけていたなんて……!「どうして理紗さんがそんなことをしたんですか?」夕凪にはさっぱり分からなかった。理紗の恨みを買うような覚えなど、まったくないのだ。司はさして気にも留めない様子で答えた。「俺がお前に優しくしたからだろ。女の嫉妬だよ。あいつ、事あるごとにお前を陥れようとしてたからな」事あるごとに?夕凪は思わずゾッと身震いした。では、これまでクラブで何度か嫌がらせを受けた時も、その裏には理紗が関わっていたということなのだろうか?夕凪はまったく気がついていなかった。理紗の悪意は、あまりにも巧妙に隠されていたのだ。それにしても、あまりにも馬鹿げている。自分と司がどうにかなるなんてこと、どう考えてもあり得ないのに。理紗は、いったい自分の何に嫉妬していたというのか。「だから今日から、お前が理紗の後釜に座ればいい。ついでに、安心して『若奥様』をやっていろ。俺が一生養ってやるよ」司は気前よく言い放った。理紗の件の衝撃からようやく立ち直りかけていた夕凪は、その言葉にハッと息を呑んだ。「オーナー、いったい何の冗談ですか!?私はまだ御堂さんと離婚していません。仮に離婚が成立したとしても、私はバツイチになる身ですし、前科だってあるんですよ!」夕凪は司のあまりの暴走ぶりに、気が遠くなりそうだった。司の性格はある程度分かっているつもりだった。自由奔放で、誰にも縛られない男。実の親でさえ、司には手を焼いている。けれど、どれだけ好き勝手に生きる人間だとしても、ここまでするものだろうか?これは、あまりにも騒ぎが大きすぎる。桐生グループと御堂グループ、両方の関係者全員を火あぶりにするような暴挙だ。特に桐生グループはただでは済まないはずだ。桐生会長たちがこのニュースを見たら、怒りのあまり倒れてしまうのではないか。それでも司は、ゆったりと椅子の背にもたれたまま、ニヤニヤと口元を吊り上げていた。骨の髄から滲み出るような気だるい危うさが、いつものようにその顔に張り付いている。「心配するな。俺の結婚に、親は口出しできない。むしろ、この俺がようやく結婚する気になったと知れば
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