Share

親友との会話

Author: 影畑凛星
last update publish date: 2026-04-18 17:29:37

唯はカフェの扉を押し開けた。

柔らかなドアベルの音が響く。

足取りは軽かった。

窓際の席で手を振っているのは、大学時代からの親友・美咲だった。

 

「唯!  久しぶりー! 」

美咲は急に抱き着いてくる。

そんなところも昔と変わっていなくて懐かしかった。

「もう、三年ぶり? 結婚してからは全然会えなくて寂しかったよ」  

唯はいつものように柔らかな笑みを浮かべ、美咲の背中を優しく叩いた。  

「ごめんね、美咲。涼さんの仕事が忙しくて、私も家のこととかで……」

「そうなんだ、まあ家も広そうだもんね」

美咲は冗談めかして言った。

くすくすと二人で笑いあってから、向かい合って座った。

店内は午後の柔らかな日差しが差し込み、観葉植物の緑が落ち着いた雰囲気を演出している。

唯は今日も完璧に身支度を整えていた。

淡いベージュ
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 冷徹CEOとの離婚後、私は夫の忠実な部下と恋に落ちた   仕事ではなく

    高倉には。ちゃんと休んでほしい。唯はスマホを見つめながら、そう思った。自分でも不思議だった。記事のことも気になる。記者のことも終わっていない。それなのに。今は高倉の方が気になってしまう。『そう言っていただけると、少し気が楽になります』その一文が頭から離れない。高倉にも。疲れることがある。当たり前のことなのに。なぜか今まで考えたことがなかった。「重症だね」美咲がぽつりと言う。唯は反射的に顔を上げた。「違う」「何が?」「別にそういうんじゃないから」美咲は何も言わない。ただ。優しい目で見ている。その視線に居心地が悪くなって。唯は仕事へ戻ろうとした。そのとき。スマホが震える。高倉だった。唯の心臓が小さく跳ねる。最近はもう。この反応を隠せなくなっていた。画面を開く。そこには少し長めの文章が表示されていた。『突然すみません』唯は首を傾げる。高倉にしては珍しい書き出しだった。続きを読む。『記事の件が落ち着いたら』そこで一度文章が切れている。唯は続きを読む。そして。そのまま固まった。『今度は仕事ではなく、お時間をいただけませんか』胸が大きく跳ねる。唯は何度も読み返した。仕事ではなく。仕事ではなく。その言葉だけが頭の中で繰り返される。高倉は今までずっと仕事を理由にしてきた。相談。打ち合わせ。報告。全部そうだった。けれど今回は違う。

  • 冷徹CEOとの離婚後、私は夫の忠実な部下と恋に落ちた   少しだけ心配

    けれど。胸の奥では。小さな期待が生まれ始めていた。唯はスマホを見つめる。『桜井さんにそう言っていただけると嬉しいです』何度読んでも。意味は変わらない。それなのに。読むたびに胸が落ち着かなくなる。何か返事をしなければ。そう思う。けれど。何を書けばいいのかわからない。『ありがとうございます』も違う気がする。『そんなことないです』も違う。そもそも。どうしてこんなに悩んでいるのだろう。仕事の連絡なら。もっと簡単に返せるのに。「まだ悩んでるの?」美咲が呆れた声を出す。唯は慌ててスマホを隠した。「悩んでない」「五分くらい同じ画面見てるけど」図星だった。唯はぐったりと机へ突っ伏した。すると。美咲が面白そうに笑う。「そんなに嬉しかったんだ」「違う」「じゃあ何でそんな顔してるの」唯は返事ができなかった。嬉しかった。それは事実だ。だから困っている。結局。唯は短く打ち込む。『ありがとうございます』それだけ。本当はもっと色々考えていたのに。送れたのはそれだけだった。送信ボタンを押す。しばらくして返信が届く。『こちらこそ、ありがとうございます』高倉らしい返事だった。唯は少しだけ笑う。そのとき。続けてメッセージが届いた。『今日は少し早く帰れそうです』そこまでは、さっきと同じだった。だが。次の一文を読んで、唯は目を瞬かせる。『実は少し疲れてい

  • 冷徹CEOとの離婚後、私は夫の忠実な部下と恋に落ちた   気づいてしまう前に

    自分は今。高倉のことを考えて笑っている。その事実に。胸が小さく揺れた。唯は慌ててスマホを伏せる。まるで。自分自身に見つかってはいけない秘密を隠すように。「どうしたの?」美咲が聞く。「何でもない」「その顔で?」全く説得力がなかったらしい。唯は視線を逸らした。そのまま仕事へ戻ろうとする。けれど。無理だった。高倉から届いたメッセージが頭から離れない。『今日は定時で帰れそうです』本当にただの報告だ。それなのに。なぜ自分へ送ったのだろう。以前なら。こんな連絡はなかった。仕事の話だけ。必要なことだけ。それが高倉だったはずだ。唯は小さく息を吐く。考えすぎだ。そう思う。けれど。考えてしまう。そのとき。スマホが再び震えた。唯は反射的に画面を見た。また高倉だった。さすがに驚く。今日はどうしたのだろう。メッセージを開く。そこには短く書かれていた。『失礼しました』唯は目を瞬かせる。続きが届く。『仕事の報告をする必要はありませんでした』唯は思わず吹き出した。どうやら送ったあとで気づいたらしい。確かに。定時で帰れることは業務連絡ではない。「何?」美咲が聞いてくる。「高倉さん、自分で送っておいて反省してる」「何それ」美咲も笑い出す。唯は画面を見つめた。律儀というか。真面目というか。高倉らしい。唯は少し考える。

  • 冷徹CEOとの離婚後、私は夫の忠実な部下と恋に落ちた   いつもの連絡

    その事実を認めるのが。どうしようもなく恥ずかしかった。唯はパソコンへ向き直る。仕事をしよう。今はそれが先だ。そう思う。だが。画面を見ても頭へ入ってこない。美咲の言葉が離れなかった。『会いたくない人の連絡は待たないよ』本当にそうなのだろうか。唯は小さく息を吐く。考えたくない。けれど。考えてしまう。そのとき。スマホが震えた。唯の肩がぴくりと揺れる。反射的に画面を見る。そして。今度こそ。高倉からだった。唯は思わず固まる。美咲が横から覗き込んだ。「来たじゃん」「覗かないで」慌ててスマホを隠す。けれど。耳まで熱くなっている自覚があった。唯は画面を開く。『お疲れさまです』短い文章だった。続きがある。『先ほどの件ですが』唯は自然と表情を引き締めた。仕事の話だ。そう思う。『週刊プライム側からのメールは削除せず保存してください』『今後の対応で必要になる可能性があります』やはり仕事だった。唯はほっとしたような。少しだけ残念なような。自分でもよくわからない気持ちになる。『わかりました』返信する。すると。すぐに既読がついた。今日は本当に忙しいのだろうか。それとも。たまたまなのだろうか。そんなことを考えていると。返信が届く。『ありがとうございます』いつもの高倉だった。律儀で。真面目で。少しだけ堅い。

  • 冷徹CEOとの離婚後、私は夫の忠実な部下と恋に落ちた   会いたい理由

    そこには。高倉とのトーク画面が表示されたままだった。唯は慌てるようにスマホを伏せる。まるで見られてはいけないものを見られた気分だった。「いやいや」美咲が呆れたように言う。「その反応がもう答えでしょ」「違うから」「違わない」即答だった。唯は反論しようとして。結局、何も言えなくなる。最近ずっとこうだ。美咲に何か言われるたびに否定する。けれど。そのたびに言葉が弱くなっている気がする。仕事へ戻ろう。そう思ってパソコンへ向かう。だが。集中できない。高倉との電話を思い出してしまう。『ご心配いただき、ありがとうございます』あの声。少しだけ笑った声。そして。『その言葉は、そのままお返しします』唯は小さく息を吐いた。本当にだめだ。こんな状態では仕事にならない。そのとき。事務所の電話が鳴る。唯は反射的に受話器を取った。取引先からの確認連絡だった。十分ほどで通話は終わる。仕事の話をしている間だけは余計なことを考えずに済んだ。だが。受話器を置いた途端。また頭の中へ高倉が戻ってくる。「重症だね」美咲がぽつりと言った。「聞こえてるから」「聞こえるように言った」全く悪びれていない。唯はため息を吐く。すると。美咲が少し真面目な顔になった。「ねえ」「何?」「唯さ」美咲は少し考えるように言葉を選んだ。「高倉さんに会いたい?」唯は固まった。会いたい。その言葉は予想以上に破壊力があった。好きかどうか。そう聞かれるより。ずっと。胸の奥へ刺さる。会いたい。そう思っているだろうか。唯は考える。昨日。高倉が事務所へ来た。帰るとき。少し寂しかった。今日も。電話を切ったあと。もう少し話したいと思った。朝の連絡が嬉しかった。昼の連絡も。気づけば。連絡を待っている自分がいる。そこまで考えて。唯は慌てて思考を止めた。「……わからない」それが精一杯だった。美咲は優しく笑う。「そっか」からかう様子はなかった。むしろ。どこか安心したようにも見える。「でもね」美咲が続ける。「会いたくない人の連絡は待たないよ」唯は何も言えなかった。図星だったからだ。そのとき。スマホが震える。唯の心臓が跳ねる。思わず画面を見る。そして。自分でも驚く。無意識だった。送

  • 冷徹CEOとの離婚後、私は夫の忠実な部下と恋に落ちた   頼ってほしい

    メールを転送してから十分も経たないうちに。高倉から返信が届いた。『転送ありがとうございます』まず最初に礼が書かれている。唯は思わず小さく笑った。こういうところは本当に変わらない。どんなときでも礼を欠かさない。その下へ視線を移す。『返信はしないでください』『今後、週刊プライムからの連絡はすべて保管をお願いします』『こちらで対応します』簡潔だった。けれど。迷いのない文章だった。唯は画面を見つめる。こちらで対応します。最近何度も聞いている言葉だ。それなのに。読むたびに少し安心してしまう。そのとき。スマホが震えた。今度はメッセージではなく着信だった。唯は思わず目を見開く。高倉からだった。「え?」美咲も気づいたらしい。「電話?」唯は頷く。そして慌てて通話ボタンを押した。「もしもし」『お忙しいところ申し訳ありません』落ち着いた声が耳へ届く。それだけで。胸の奥が少しだけ落ち着く。自分でも不思議だった。『メールの件ですが』すぐに本題へ入る。仕事の話だ。それなのに。なぜか少しだけ残念に思ってしまう。唯はそんな自分へ呆れた。『今後、同じような連絡が増える可能性があります』「はい」『取材依頼だけならまだ対応しやすいのですが』そこで高倉の声が少し低くなる。『周囲への聞き込みが始まるかもしれません』唯は表情を引き締めた。「美咲にも?」『可能性はあります』隣で聞いていた美咲が顔をしかめる。「うわあ&he

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status