午後の事務所は、静かな緊張感に包まれていた。桜井唯はデスクでクライアントリストを睨み、唇をきつく結んだ。ここ数日、突然連絡が途絶えたクライアントが3件もあった。理由は曖昧で、メールにはただ「社内事情」とだけ書かれている。唯はすでに、涼の妨害だと理解していた。「負けたくない……」唯は小さく呟き、自分で直接電話をかけることにした。一番最初に連絡が途絶えたクライアントに電話をかける。すぐに担当者に電話がつながった。「桜井です。 先日のご提案についてなんですが……何か問題がありましたか?」担当者の声は少しぎこちなかった。「いえ、問題というわけではないんですが……社内で少し意見が変わりまして」唯は丁寧に、けれどはっきりと言った。「もしよろしければ、もう一度お時間をいただけませんか? ご要望に合わせて、改めて提案をさせていただきます。 私の事務所の強みを、直接お伝えしたいんです」担当者は少し迷った後、約束を取り付けてくれた。「わかりました。 来週、改めてお伺いします」電話を切った唯は、深く息を吐いた。涼の影を感じながらも、負けたくないという気持ちが、唯を強く突き動かしていた。そのとき、インターホンが鳴った。 高倉櫂が立っていた。唯はドアを開け、櫂を迎え入れた。「高倉さん、来てくれたんですね」櫂は唯の顔を見て、すぐに察した。「桜井さん、どうしました? 顔色が優れないですよ」唯は正直に話した。「クライアントから、突然連絡が途絶えました。 3件も……涼さんの妨害だと思います。 でも、負けたくないんです。 自分で直接連絡して、話を聞いてもらえるように動きました」櫂は感心したように頷いた。「よく自分で動きましたね。 それはとても大事なことです」唯は少し疲れた笑みを浮かべた。「高倉さんに頼りきりではいけないと思って…… でも、正直、不安です。 涼さんが本気で妨害を始めたら、どうなるんだろうって」不安で胸がざわついていた。涼は人脈でもお金でも、明らかに唯より上だった。もし、彼が本気で唯を潰そうとしたなら――。櫂は唯の隣に座り、静かに言った。「僕も、同じことを考えていました。 もし、どうしても話を聞いてもらえそうにない場合は、遠慮なく相談してください。 僕が裏でサポートしますから」唯は櫂の言葉に、胸がじんわりと熱くなった。
Last Updated : 2026-05-15 Read more