――午後。やわらかな日差しが差し込む事務所で、桜井唯はデスクの前で深呼吸を繰り返していた。今日が、事務所オープン後初めてのクライアントとの商談の日だった。相手は地元の中規模カフェチェーンで、パッケージとメニュー表のデザインを依頼したいという。まだ小さい案件だが、唯にとっては大きな一歩だった。「大丈夫……ちゃんとやれる」唯は自分に言い聞かせ、資料をもう一度確認した。そこへ、インターホンが鳴った。高倉櫂が、控えめな笑顔で立っていた。「桜井さん、こんにちは。 今日は大事な商談の日ですよね。 少し早いですが、応援に来ました」唯はほっとした表情でドアを開けた。「高倉さん……来てくれたんですね」櫂は軽く頭を下げ、資料の入ったバッグをテーブルに置いた。「控えめに、隣のブースで待っています。 何かあったら、遠慮なく声をかけてください。個人事務所だと、無茶を言うクライアントもいますからね。今日は用心棒です」唯は少し緊張しながら頷いた。「ありがとうございます…… 心強いです」午後2時、クライアントの担当者が事務所に到着した。30代後半の女性で、親しみやすい雰囲気だった。唯は笑顔で迎え、商談を始めた。「本日はお越しいただき、ありがとうございます。 ご依頼いただいたパッケージとメニュー表について、 いくつかご提案を用意しました」商談は順調に進んだが、クライアントが少し迷っている様子が見えた。色味の方向性で少し意見が分かれたのだ。クライアントが言った。「もう少し落ち着いた印象にしたいのですが……」唯は資料をめくりながら、冷静に提案した。「では、こちらのベージュ系をベースにした案はいかがでしょうか? パステル調の明るさも少し残しつつ、全体を落ち着かせられます」クライアン
Last Updated : 2026-05-09 Read more