休暇中であっても、仕事の急用が出れば由樹から連絡が来る可能性はある。マナーモードにしてあるスマホは、梨々香と由樹からの着信だけは音が鳴るように設定してある。もし、由樹が仕事の件でかけてきて、それに出たのが……三久は心臓がどきりと跳ねた。まさか、本当に由樹が来ているのだろうか。そっと血の気のない唇を噛む。顔からさらに血の気が引いていくのがわかった。看護師は、妊娠のことを彼に言わなかっただろうか。でも「家族」として手続きを受け付けた以上、体の状態について何かしらの説明をするはずだ。三久の頭の中で、わずかな希望的観測と、最悪の想定がぐるぐると回り続けた。もしかしたら、梨々香がたまたま用事で早く起きていて、連絡してきてくれたのかもしれない。震える指で、もう一度ナースコールを押した。「すみません。今、下に来てくださっている方は、鈴木という女性の方ですか?」「え?ご自分の家族のお名前がわからないんですか?」看護師は慌ただしく、事務的な声で答えた。「酒井という方です」それだけ言って、無情にも通話が切れた。三久の背中を、氷のように冷たいものが走った。酒井……彼女は迷いなく、腕に刺さった点滴のチューブを強引に引き抜いた。手の甲から、ぽたぽたと鮮血が滲み出す。鋭い痛みが走ったが、かまわずハンカチを取り出してきつく押さえ、自分の上着を掴んで個室を飛び出した。廊下に出た瞬間、通りかかった看護師が鋭い声を上げた。「早坂さん!点滴がまだ終わっていませんよ!」「急用があるので、もういいです。帰ります」三久は足元をふらつかせながら、振り返らずに言った。熱がまったく下がっていない。頭がぼんやりして、視界が揺れる。看護師が心配そうについてきた。「そんな状態でどこに行かれるんですか!万が一のことがあったらどうするんですか!」「何かあれば、すべて自己責任で構いません」三久は強引にエレベーターのボタンを押した。手の甲に当てた白いハンカチは、もうすっかり真っ赤に滲んでいた。「ご自身の体より優先することなんてありませんよ!どうしてもご用があれば、ご家族の方に代わって行っていただけばいいじゃないですか。ご自身の体と赤ちゃんの命を、そんな簡単に危険にさらさないでください!」三久は、まだ目立たない腹部にそっと手
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