西戸市のお正月は、どこもかしこも華やいだ空気に包まれていた。窓の隙間からは人々の絶え間ない笑い声が流れ込み、遠くからは除夜の鐘の重々しい音が響いては消え、また静寂を震わせるように夜の底に沈んでいく。しかし、三久の部屋だけはまるで別世界だった。厚いカーテンに閉ざされた薄暗い室内には、寒々しい静寂だけが淀んでいる。あの電話が、彼女の眠気をすっかり奪い去っていた。胸の奥を刺すような鋭い痛みが、冷たい波のように押し寄せては引いていく。三久は身をすくめ、布団の奥深くへと潜り込んだ。まどろみの淵を漂っては目を覚まし、また重い倦怠感へと引きずり込まれる。そうして、長い時間をただ虚ろに過ごした。やがて、どうしようもない空腹に急かされるようにして、ようやく完全に目を覚ました。重い体を起こしたとたん、梨々香からビデオ通話の着信があった。「ちょっと、施設にいないじゃないの」画面の向こうで、自宅にいる三久を見て梨々香は丸い目をさらに見開いた。「また浅野さんに嫌味を言われたんでしょ」「違うよ。昨日、急に用事ができちゃって戻ってきただけ」そう平静を装って答えたものの、三久の心の中からは、もう児童養護施設へ戻るという選択肢は消え失せていた。「次は一人で帰らないでよね。いつもいじめられてるじゃない」気の強い梨々香を前にすれば、さすがの温子も口を噤む。だが、おとなしい三久が相手となると、とことん利用しようとしてくるのだ。三久は自嘲気味に微笑んだ。「これからは一人で行く機会もなくなるよ。仕事を辞めたら、ずっと一緒にいられるから」「そうそう、ちょうどいい物件を見つけたのよ。ほら、早く着替えてきなさい。ヘルパーさんも帰っちゃったところだし、蒼汰(そうた)と一緒に年越ししましょ」梨々香はもともと、三久を自分の家に招いて年越しをするつもりだったのだ。一方の三久は、児童養護施設に戻って温子の手伝いをするつもりでいた。それは温子のためというより、あそこにいる子供たちのために、少しでも力になりたかったからだ。でもまさか、あんなことになろうとは――部屋には見事なまでに食材がなく、近所のスーパーもシャッターを下ろしている。となれば、梨々香のところへ行くよりほかに選択肢はなかった。三久は買い置きのパンをお腹に詰め込むと、梨々香の家へと向か
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