コスプレイヤーである清水明里(しみず あかり)は、松田穂花(まつだ ほのか)から、ある男性キャラクターのコスプレ依頼を受けていた。撮影のため、レストランで穂花の肩に腕を回してポーズを取っていたのだが、突然、頭からワインをかけられたのだった。「その汚い手をどけろ!」明里は言い返そうと思い顔を上げた。しかし、そこにあった怒りに満ちた鋭い眼光を見た瞬間、言葉を詰まらせる。そこには、半年前から冷戦状態にある夫、清水正人(しみず まさと)の姿があったのだ。だが今日は、二人の結婚5周年記念日だった。明里は半年もの間、ずっと正人のほうから歩み寄ってくれるのを待っていたのに。目の前にいる怒りで我を忘れている正人を見て、明里の胸は少しざわついた。もしかして、冷戦状態に嫌気がさしたから、こんな荒療治で自分の気を引こうとしているのか?そう思った途端、明里は腹が立つどころか、何だか笑えてきた。ボイスチェンジャーを通して低くなった声には、少しの余裕さえ滲む。「今日ここにわざわざ来たのは、ちゃんと話したかったから?」しかし、明里が言い終える前に、正人は穂花を抱き寄せると、ナイフのように鋭い視線を明里に向けた。「お前のことは半年前から知っているんだからな!ただ仕事で穂花と一緒にいると思っていたが、今のを見るに、お前は越えてはならない一線を越えてしまったようだ。お前みたいにアニメの格好で女に取り入るようなやつが、こんな純粋な穂花に近づくなんて。そんなこと俺が許さない」「半年」、「純粋」、「許さない」……一つひとつの言葉が、ナイフのように鋭く明里の胸に突き刺さる。口元の笑みは凍りつき、胸の奥から押し寄せる鈍い痛みに、呼吸すらできなくなった。なるほど……どうやら、正人は目の前の相手が自分の妻だとは気づいていないらしい。しかも、穂花を困らせるストーカーだとでも思っているようだ。……明里は昔ながらな考えの二宮家で、9人の兄たちに囲まれて育ったためか、意地でもへこたれない、負けず嫌いな性格だった。正人との結婚は、もともと親が決めたものだった。だから結婚式の日、明里はウェディングドレスを着たまま逃げ出した。しかし、それも失敗に終わり、汚れたスカートで途方に暮れていた時、正人が助けに来てくれたのだった。彼は自分のコートを脱い
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