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第6話

مؤلف: 深夜の蝋燭
買い物から戻った明里の気分は、珍しく晴れやかだった。

鼻歌まじりに花に水をやっていると、正人が渋い顔をしていた時のことを思い出し、つい口元が綻ぶ。

「人を馬鹿にすることが、そんなに楽しいか?」

突然、背後から冷ややかな声が響いた。正人が大股で歩み寄ってきて、明里の手からじょうろを乱暴に奪い取った。

取っ手が手に当たった拍子で皮がむけ、ひりひりと痛む。

正人の目には激しい怒りが渦巻き、声には隠そうともしない非難の色が滲んでいた。

「わざわざ俺を店に呼んだのも、穂花が馬鹿にされる様子を見たかったからだろ?明里、こんな幼稚なことはもうやめろ。もう穂花を追い詰めないでやってくれ」

明里は血が滲む傷口を押さえ、一言ずつ丁寧に言った。

「彼女が囲まれてたから、あなたに教えてあげたの。あの女子大生達は、私が呼んだわけじゃないから」

それは本当だった。

自分自身を傷つけるような真似ではあるが、わざわざ正人にメッセージを送ったのは、正人が本当に穂花のためなら全てを捨てられるのか、もう一度確かめたかったからなのだ。

かつて自分が集中治療室に入った時、あるいは恵が亡くなった時のように。

残念なことに、答えは相変わらず残酷だった。

「そんな偶然があるはずないだろ?」正人は聞く耳を持たず、声を荒らげた。「大学は、今じゃ穂花の話で持ちきりらしい。プライドの高い穂花がそんな屈辱に耐えられるわけがない。もし穂花が、良からぬことを考えたら……」

正人は明里に一歩詰め寄り、威圧的に見下ろす。「お前には何でもあるだろ?

二宮家の資産、清水夫人という肩書き、誰もが羨む資産……なんで、全てを持ってるお前が、わざわざ何もない穂花と争う必要があるんだ?」

明里は正人を見つめ、ひどく滑稽な気持ちになった。

確かに、傍から見れば自分は全てを持っているように見えるだろう。誰もが羨む家柄に生まれ、兄弟は多く、光り輝く結婚と順風満帆なキャリア。

だが、明里だけが知っていた。

親にとって、自分は都合のいい道具でしかなく、兄弟からは目の敵にされ、結婚は形だけ。キャリアだって、不眠不休で働いて、数え切れないほどの困難を乗り越えて自らの手で掴み取ったものに過ぎない。

本当は、何も持っていないのだ。

無意識に指先を満開の赤い薔薇に伸ばす。刺が指を突きさし、小さな赤い血の雫が落ちた。

その何気ない動作が、正人の逆鱗に触れたらしい。

彼の瞳の奥で理性が弾け飛び、感情を露わにした。

「まだ間違いを認めないのか!」

正人は手にしていたじょうろを、思いっきり地面に叩きつけた。

それからは、まるで何かに憑りつかれたように庭を荒らし、薔薇を蹴り倒しては、二人で力を合わせて作った木製の花棚を石で打ち砕いた。

ここにある花や木々は、結婚後に二人で植えたものだったのに。

かつて、正人は優しく明里の肩を抱き、芽吹いたばかりの蕾を見て言っていた。「人を愛するって言うのは、花を愛でるのと同じようなものだ。だから、ここが満開になる時には、お前の生活も幸せで溢れているだろう」

花棚の下でプロポーズされた時も、正人は真剣な顔で言った。「子供に愛について聞かれたら、この絡まり合うつるを指差して、『離れないことが愛なんだよ』って教えるつもりだ」

一緒に2株の薔薇を植えた時だって、明里の手を握りながら誓ってくれた。「一生一緒だ。この花のように、ずっと並んで歩んでいこう」

その甘い囁きは、まだ耳に残っている。

しかし、目の前の男は、自らの手ですべてを壊していた。

つるは引きちぎられ、花びらが舞い散り、花壇は倒壊し、砂ぼこりがまっている。

あんなに生き生きとして愛で満ちていた庭が、一瞬で荒野と化した。

明里は呆然と立ち尽くし、目の前の惨状を見つめた。

そして、自分にしか聞こえない声で、そっと呟く。

「壊してくれよかったかもしれない……出て行く時の未練がなくなったから」

……

この一件を境に、二人はかつてないほどの、冷戦状態に陥った。

正人は家に帰ってこなくなった。

夜、明里は眠れぬ時間を過ごしながら、隣の枕に視線を向けた。頭には、穂花と正人が過ごす光景ばかりが浮かぶ。

穂花に世話を焼き、不安がっていないか気遣い、子供のような独占欲を振りまいているのだろうか?

かつて自分が一度も受けたことのない愛は、惜しみなく他人に与えられている。

子供の頃、父は兄たちばかり飴をやり、自分には包み紙のゴミだけを与えたように。

そして、今では正人こそが、最後の飴を奪う存在となった。

憎しみが胸の奥で渦巻き、息苦しくなってくる。

明里は書斎に向かい、ウェディングフォトを取り外した。写真の二人は完璧に笑っているけれど、そこには何の感情も浮かんでいない。

クローゼットの奥から引っ張り出したウェディングドレスは埃を被っている。結婚式から逃げ出し、狼狽していた時に着ていたもの。

婚姻届を提出した日に、二人で書き記した未来への希望は、引き出しの中にしまわれていて、どれももう叶うことはないのだろう。

あれほど大事にしていた思い出。しかし、今では滑稽でしかならない。

明里はそれらをすべて抱え庭に出ると、火をつけた。

ウェディングフォトも、ウェディングドレスも、書類も全て燃え、真っ黒な灰となって舞い上がる。この悲惨な結婚生活のように。

その時、インターホンが鳴った。

穂花の探るような声がする。「正人さん、いる?」

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