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妻を男と間違えた夫。正体を明かして離婚する
妻を男と間違えた夫。正体を明かして離婚する
Auteur: 深夜の蝋燭

第1話

Auteur: 深夜の蝋燭
コスプレイヤーである清水明里(しみず あかり)は、松田穂花(まつだ ほのか)から、ある男性キャラクターのコスプレ依頼を受けていた。撮影のため、レストランで穂花の肩に腕を回してポーズを取っていたのだが、突然、頭からワインをかけられたのだった。

「その汚い手をどけろ!」

明里は言い返そうと思い顔を上げた。しかし、そこにあった怒りに満ちた鋭い眼光を見た瞬間、言葉を詰まらせる。

そこには、半年前から冷戦状態にある夫、清水正人(しみず まさと)の姿があったのだ。

だが今日は、二人の結婚5周年記念日だった。明里は半年もの間、ずっと正人のほうから歩み寄ってくれるのを待っていたのに。

目の前にいる怒りで我を忘れている正人を見て、明里の胸は少しざわついた。

もしかして、冷戦状態に嫌気がさしたから、こんな荒療治で自分の気を引こうとしているのか?

そう思った途端、明里は腹が立つどころか、何だか笑えてきた。ボイスチェンジャーを通して低くなった声には、少しの余裕さえ滲む。

「今日ここにわざわざ来たのは、ちゃんと話したかったから?」

しかし、明里が言い終える前に、正人は穂花を抱き寄せると、ナイフのように鋭い視線を明里に向けた。

「お前のことは半年前から知っているんだからな!ただ仕事で穂花と一緒にいると思っていたが、今のを見るに、お前は越えてはならない一線を越えてしまったようだ。

お前みたいにアニメの格好で女に取り入るようなやつが、こんな純粋な穂花に近づくなんて。そんなこと俺が許さない」

「半年」、「純粋」、「許さない」……

一つひとつの言葉が、ナイフのように鋭く明里の胸に突き刺さる。

口元の笑みは凍りつき、胸の奥から押し寄せる鈍い痛みに、呼吸すらできなくなった。

なるほど……

どうやら、正人は目の前の相手が自分の妻だとは気づいていないらしい。

しかも、穂花を困らせるストーカーだとでも思っているようだ。

……

明里は昔ながらな考えの二宮家で、9人の兄たちに囲まれて育ったためか、意地でもへこたれない、負けず嫌いな性格だった。

正人との結婚は、もともと親が決めたものだった。

だから結婚式の日、明里はウェディングドレスを着たまま逃げ出した。しかし、それも失敗に終わり、汚れたスカートで途方に暮れていた時、正人が助けに来てくれたのだった。

彼は自分のコートを脱いで明里に羽織らせてくれたどころか、膝をついて、歩き疲れた明里の足を心配そうに手当てまでしたのだった。

「こんな遠くまで来て、疲れただろ?まだ夕飯も食べていないんじゃないのか?」

その瞬間、固く閉ざされていたはずの明里の心が粉々に打ち砕かれた。

自分を待っていたのは罰だったはずなのに、与えられたのは予想外の温もりで……

それからというもの、明里は正人から離れることなど考えられなくなったのだった。

情熱的な明里と冷静な正人の結婚生活。

明里がどんなに感情的になろうと、どんなに無茶を言おうとも、正人は穏やかに受け止めてくれる。

しかし、その凪のような平穏さが、かえって正人が自分を愛していないかのように思わせた。

半年前、正人の書斎を整理していた時、明里は自分が最も気に入っているアニメキャラクターのアクリルスタンドが、彼の机に置かれていることに気づいた。

その時は、正人から自分へのプレゼントだと思い、喜びで胸が一杯になった。

しかし、正人が自分に向けたのは、初めての激昂だった。

「書斎はプライベートな空間だから、入るなと言ったよな?返せ」

明里が悲しもうとも、正人からのフォローは一切なかった。

これをきっかけに二人は冷戦状態となったのだった。

そして今、穂花が胸ポケットに入れているものこそが、まさにそのアクリススタンドだった。

この半年の間、明里はどういう流れからか、穂花とはコスプレ仲間になっていたのだ。

「かっちゃんにそんな言い方しないで!」

穂花は正人の腕の中から抜け出し、はっきりと言った。「正人さん、あなたは確かに貧しかった私を、経済的に支えてくれた。でも、私はもう大人なの。私には私の生活があるから」

そして、少し恥ずかしそうに頬を赤らめると、付け加えた。「それに、正人さんには奥さんがいるんでしょ?そんな人に、口出しなんかされたくない」

手のひらに爪を食い込ませながら、明里は正人の言葉をじっと待っていた。

「あいつとはただ婚姻関係にあるだけ」と、正人は低い声で呟き、愛おしげな目を穂花に向けた。「俺はお前の成長をずっと見てきた。お前は特別なんだよ」

その瞬間、5年という歳月が否定された気がした。

耐えきれなかった明里は思わず皮肉を漏らす。「清水社長……一人じゃ満足できないんだ?」

「黙れ!」

正人は明里の襟を掴み、拳を振り上げた。その瞳には、怒りと焦燥が渦巻いている。

結局、正人は拳を明里の横の壁に叩きつけた。

その衝撃で、拳の皮が一瞬にして剥けた。

「穂花に近づくな」正人は明里を睨みつけ、言い放つ。「次関わってみろ。容赦しないからな」

穂花が目を真っ赤にして、心配そうに正人の手を包み込んだ。

「正人さん、昔言ってたよね?今の奥さんとは、ただの政略結婚にしかすぎなくて、ビジネスの道具でしかないって。愛してないんだったら、今すぐ離婚してよ!」

明里の耳は轟音に包まれ、その場に立っているのもやっとだった。

それは、結婚式から逃げ出した本当の理由だった――あの日、自分がどれほど傷ついたか、正人は知っていたのだろうか?

それどころか、まさかそんな風に自分のことを言っていたなんて。

正人が目を閉じ、仕方なさそうに吐き捨てる。「離婚以外だったら、何でも叶えてやる。でも、離婚だけはだめだ」

冷戦状態中、明里から離婚を申し出た時も、正人に同じ言葉で冷たく断られた。

あの頃はまだ……そこには愛があるからだと思っていた。

でも自分は実のところ、夫婦の体裁を守るための道具で、愛人の当て馬として利用されていたに過ぎなかった。

なぜそんなことができたのだろう?

強く握られた拳の中で、爪が食い込み血が滲むのを明里は感じた。

その時、穂花が明里の腕に自分の腕を絡めて、正人に向かってこう言い放った。

「正人さんが離婚しないっていうなら、私はこの人と結婚するから!」

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