園内へ足を踏み入れると、色とりどりの花々が二人を迎えた。 春の植物園は思っていた以上に賑わっている。 家族連れ。 年配の夫婦。 カメラを持った人たち。 それぞれが思い思いに休日を楽しんでいた。 佳苗はゆっくり辺りを見回した。 見覚えのある景色だった。 整えられた花壇。 温室へ続く道。 池の周りに植えられた木々。「ここ……」 思わず呟く。「前に来た植物園ですよね」「ああ」 雄吾が頷いた。「覚えてたか」「覚えてますよ」 佳苗は少し笑った。 採用が決まった日。 お祝いだと言って連れて来られた場所だ。 あの頃はまだ仕事も始まっていなかった。 離婚協議も途中だった。 将来が不安で仕方なくて、それでも必死に前を向こうとしていた頃だ。「また来たかったかと思ってな」 雄吾が何気なく言う。 佳苗は目を瞬いた。 そんな理由だったのか。 少しだけ胸が温かくなる。「来たかったです」 素直に答えると、雄吾は小さく頷いた。 二人はゆっくり園内を歩く。 花壇を眺め。 温室を回り。 途中で珍しい植物の前に立ち止まる。「これ、本当に植物なんですか?」「説明にはそう書いてあるな」「信じられないんですけど」 佳苗が真顔で言うと、雄吾が小さく笑った。 本当に小さな笑みだった。 けれど佳苗は見逃さなかった。 最近気付いたことがある。 雄吾はよく笑う。 本人に自覚はないだろう。 昔からそうだったのかもしれない。 ただ。 佳苗が知らなかっただけで。
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