担当者の異動を聞いてから、三日ほどが過ぎた。 佳苗はいつものように仕事を終え、雄吾のマンションへ帰ってきた。「ただいまです」「おかえり」 リビングには、コーヒーの香りが漂っている。 雄吾はネクタイを少し緩め、ソファで資料に目を通していた。「コーヒー、淹れますね」「ああ、頼む」 佳苗は慣れた手つきで二人分のコーヒーを用意する。 カップをテーブルへ置くと、雄吾は「ありがとう」と短く礼を言った。 そんな何気ない時間が、佳苗は好きだった。「今日はどうだった?」「平和でした」 佳苗は笑う。「新しい担当者さんとも電話で少しお話ししたんですけど、とても丁寧な方でした」「そうか」「前任の方とは全然雰囲気が違って、安心しました」 雄吾は静かに頷くだけだった。 佳苗はコーヒーを一口飲み、それから少しだけ考え込む。「……でも」「ん?」「少しだけ、気になることがあって」 雄吾が視線を上げる。「例の担当者さん、異動だけじゃなくて、処分も受けたって噂なんです」「そうらしいな」「私、その話を聞いてから、ずっと考えてたんです」 佳苗は自分の膝の上で手を重ねた。「もちろん、あの人がしたことは良くありません」「でも……」「何だ?」「何となく、タイミングが良すぎる気がして」 雄吾は何も言わない。「会社が調査して処分を決めるのは普通だと思うんです。でも、解決してすぐだったので……」 佳苗は雄吾を見つめた。「雄吾さん」「何だ」「何かしました?」 部屋が静かになる。 雄吾は少しだけコーヒーカップを傾け、一口飲んだ。
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