歓迎会から数日後。 佳苗は会社の給湯室でコーヒーを淹れていた。 最初の頃は何をするにも緊張していたのに、今ではこうして一人で行動できるようになっている。 ほんの数週間前まで専業主婦だったとは思えない。 自分でも少し不思議だった。「佳苗さん」 後ろから声を掛けられる。 振り返ると、歓迎会で隣に座っていた女性社員だった。「お疲れさまです」「お疲れさま。仕事慣れてきた?」 そう聞かれて、佳苗は少し考える。「慣れた……と言いたいですけど、まだ半分くらいです」 正直に答えると、女性は楽しそうに笑った。「十分十分。私なんて三か月くらい毎日帰りたかったから」「三か月ですか?」「うん」 あっさり頷かれる。 その言葉に佳苗は少し安心した。 自分だけが大変なわけではないのだ。 みんな最初はそうだったのだと知るだけで気持ちが軽くなる。 午後の仕事を終え、帰宅する。 玄関を開けると、どこかほっとした。 最近は会社にも慣れてきたが、それでも家に帰ると肩の力が抜ける。「ただいまです」「ああ」 リビングから返事が聞こえる。 佳苗はコートを脱ぎながらソファへ向かった。「今日はどうだった」 最近、雄吾は必ずそう聞く。 佳苗もそれが当たり前になっていた。「今日は褒められました」 そう言うと、雄吾が顔を上げる。「ほう」「資料整理が丁寧だって」 少し照れくさい。 大したことではない。 それでも嬉しかった。 誰かに評価されることに慣れていないからかもしれない。 雄吾は小さく頷いた。「良かったな」 その言葉に佳苗は笑う。「はい」
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