翌日の夜。 仕事を終えて帰宅した佳苗は、どこか落ち着かない気持ちを抱えていた。 昨日聞かされた話が頭から離れない。 悟が直接会いたがっている。 その言葉自体は不思議ではなかった。 むしろ予想できたことかもしれない。 問題は、その理由だった。 夕食を終えた後、佳苗は参考書を閉じた。 文字を追っていても頭に入らない。 珍しいことだった。「気になるか」 向かいで新聞を読んでいた雄吾が言う。 佳苗は苦笑した。「分かります?」「ああ」 最近はもう隠す気にもなれない。 雄吾には大抵見抜かれる。「会うつもりなのか」 静かな問いだった。 佳苗は少し考える。 そして首を横に振った。「分かりません」 それが本音だった。 会いたいわけではない。 けれど、逃げたいとも思わない。 以前の佳苗なら違っただろう。 会うのが怖かった。 顔を見るだけで苦しくなった。 でも今は違う。「何を言われるかは分かる気がするんです」 佳苗はぽつりと言った。 雄吾は黙って聞いている。「戻ってきてほしい、とか」「やり直したい、とか」「そういう話ですよね」 雄吾は否定しなかった。 それが一番可能性の高い内容なのだろう。 佳苗は窓の外へ視線を向ける。 夜の街が静かに広がっていた。「でも」 そこで言葉を切る。「聞いたところで答えは変わらないんです」 自然と口に出た。 そして、自分でも驚く。 本当にそう思っていた。 悟が謝っても。 後悔していても。 やり直したいと言っても。
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