昼食を終えたあと、佳苗は温かい紅茶を淹れた。 リビングの窓を少しだけ開けると、春の風がレースのカーテンを優しく揺らす。 休日の午後。 穏やかな時間が流れていた。「雄吾さん」「ん?」 ソファで新聞を読んでいた雄吾が顔を上げる。 佳苗は紅茶のカップをテーブルへ置き、自分も向かいへ腰を下ろした。「来月、資格試験なんです」「ああ」 以前から勉強していた資格だ。 仕事にも役立つ資格で、合格すれば任される仕事の幅も広がると聞いている。「最近は恋愛ばっかりで、少し勉強がおろそかになっちゃって」 佳苗は照れ笑いを浮かべた。「それは俺のせいか」「半分くらいは」 冗談交じりに言うと、雄吾も思わず笑った。「残り半分は?」「私が浮かれてるからです」 二人で笑い合う。 佳苗は紅茶を一口飲み、静かに続けた。「でも、ちゃんと合格したいんです」 その表情は、先ほどまでとは違って真剣だった。「今の会社へ入った時に決めたんです」「少しずつでも成長して、自分の力で仕事ができるようになりたいって」 恋人になれたことは嬉しい。 毎日が幸せなのも本当だ。 でも、それだけでは終わりたくない。 仕事も頑張りたい。 一人の社会人として、もっと成長したい。 そんな気持ちは、恋人になった今でも変わらなかった。 雄吾は静かに頷く。「佳苗らしいな」「そうですか?」「ああ」 雄吾は紅茶へ手を伸ばす。「お前は、自分で頑張って前へ進める人間だ」 佳苗は少しだけ目を丸くした。 そんなふうに言われたことは、これまであまりなかった。「俺が手伝えることがあるなら手伝う」 雄吾は穏やかな声で続ける。
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