All Chapters of 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています: Chapter 171 - Chapter 180

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新しい目標

 昼食を終えたあと、佳苗は温かい紅茶を淹れた。 リビングの窓を少しだけ開けると、春の風がレースのカーテンを優しく揺らす。 休日の午後。 穏やかな時間が流れていた。「雄吾さん」「ん?」 ソファで新聞を読んでいた雄吾が顔を上げる。 佳苗は紅茶のカップをテーブルへ置き、自分も向かいへ腰を下ろした。「来月、資格試験なんです」「ああ」 以前から勉強していた資格だ。 仕事にも役立つ資格で、合格すれば任される仕事の幅も広がると聞いている。「最近は恋愛ばっかりで、少し勉強がおろそかになっちゃって」 佳苗は照れ笑いを浮かべた。「それは俺のせいか」「半分くらいは」 冗談交じりに言うと、雄吾も思わず笑った。「残り半分は?」「私が浮かれてるからです」 二人で笑い合う。 佳苗は紅茶を一口飲み、静かに続けた。「でも、ちゃんと合格したいんです」 その表情は、先ほどまでとは違って真剣だった。「今の会社へ入った時に決めたんです」「少しずつでも成長して、自分の力で仕事ができるようになりたいって」 恋人になれたことは嬉しい。 毎日が幸せなのも本当だ。 でも、それだけでは終わりたくない。 仕事も頑張りたい。 一人の社会人として、もっと成長したい。 そんな気持ちは、恋人になった今でも変わらなかった。 雄吾は静かに頷く。「佳苗らしいな」「そうですか?」「ああ」 雄吾は紅茶へ手を伸ばす。「お前は、自分で頑張って前へ進める人間だ」 佳苗は少しだけ目を丸くした。 そんなふうに言われたことは、これまであまりなかった。「俺が手伝えることがあるなら手伝う」 雄吾は穏やかな声で続ける。
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二人だけの勉強会

 翌週の土曜日。 佳苗は朝からリビングのテーブルへ教材を広げていた。 問題集にノート。 色分けした付箋が何枚も貼られ、試験日まであと三週間と書かれたカレンダーが横に置かれている。「よし……」 小さく気合いを入れたところで、リビングのドアが開いた。「準備はできたか」 休日らしいラフな服装の雄吾がコーヒーを片手に入ってくる。「はい!」 佳苗は元気よく頷いた。「今日は一日頑張ります!」「無理はするな」 雄吾は佳苗の向かいへ座ると、ノートパソコンを開いた。「俺も仕事を片付ける」「休日なのに、お仕事ですか?」「来週の役員会で使う資料がある」 そう言いながらパソコンへ視線を向ける。「平日に終わらせればいいんだが、今日は佳苗との約束があるからな」 佳苗は少し照れたように笑った。「私のせいで、お仕事を持ち帰らせちゃいましたね」「違う」 雄吾は首を横へ振る。「今日は仕事をするためじゃない」「え?」「佳苗の隣で勉強する約束を守るためだ」 その言葉に、佳苗は思わず笑みをこぼした。「ありがとうございます」 リビングには、ページをめくる音とキーボードを打つ音だけが静かに響き始める。 佳苗は問題集へ集中した。 計算問題を解き、法令を確認し、間違えた箇所へ赤ペンで印を付けていく。 分からないところがあるたびに参考書を開き、ノートへまとめる。 時計を見ると、一時間近く経っていた。「ふぅ……」 大きく伸びをする。 肩が少し凝っていた。「疲れたか」 パソコンから顔を上げた雄吾が尋ねる。「少しだけです」「休憩しよう」「そうですね」
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ご褒美

「今日はここまでにするか」 壁掛け時計を見上げた雄吾が、パソコンを閉じた。 時刻は午後四時を少し回ったところだった。 佳苗も問題集から顔を上げ、大きく伸びをする。「思ったより進みました」 ノートには新しい書き込みが増え、問題集にも丸印が並んでいる。 間違えた問題はまだある。 けれど、一週間前より確実に解ける問題が増えていた。「お疲れさま」 雄吾が紅茶のカップを差し出す。「ありがとうございます」 温かなカップを両手で包むと、じんわりと疲れがほどけていくようだった。 しばらく二人で静かに紅茶を飲む。 穏やかな時間だった。「雄吾さん」「ん?」「付き合ってくださって、ありがとうございました」 佳苗は嬉しそうに微笑む。「一人だったら、途中で休憩ばっかりしていたと思います」「そうか?」「絶対そうです」 佳苗は笑いながら頷く。「雄吾さんが頑張ってるから、私も頑張ろうって思えました」 雄吾は少し照れたように視線を逸らした。「役に立ったならよかった」「すごく役に立ちました」 佳苗はノートを閉じる。「来週もお願いします」「ああ」 その返事を聞いて、佳苗は満足そうに笑った。 すると雄吾が立ち上がる。「少し出掛けるか」「え?」 佳苗は首を傾げた。「買い物ですか?」「いや」 雄吾は時計を見ながらジャケットを羽織る。「勉強を頑張ったご褒美だ」「ご褒美?」「甘いものでも食べに行こう」 その言葉に、佳苗は目を丸くした。「でも、そんな……」「嫌か?」「嫌じゃありません!」 思
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洋菓子店へ

 駅前の人混みを抜けると、雄吾は一軒の洋菓子店の前で足を止めた。 ガラス張りの店内には色とりどりのケーキが並び、甘い香りがふんわりと漂っている。「ここですか?」「ああ」 雄吾は店のドアを開けた。「前から気になっていた店なんだ」「そうだったんですね」 二人は店員に案内され、窓際の席へ座る。 ショーケースを見ているだけで気分が弾む。「どれも美味しそう……」 佳苗は思わず小さく呟いた。 苺のショートケーキ。 モンブラン。 季節限定のタルト。 どれも綺麗で、なかなか決められない。「好きなのを頼め」「でも、迷います」 佳苗は困ったように笑う。「こういう時って、全部食べたくなっちゃいますよね」「なら二つ頼むか」「そんなに食べられません」 佳苗は思わず吹き出した。「雄吾さん、たまに豪快ですよね」「そうか?」「そうですよ」 結局、佳苗は苺のタルトを、雄吾はチーズケーキを注文した。 飲み物は二人ともホットコーヒー。 しばらくすると、店員が皿を運んできた。「わあ……」 佳苗は目を輝かせる。 真っ赤な苺がたっぷりと並び、艶やかなゼリーが光を受けてきらきらと輝いていた。「食べるのがもったいないくらいです」「そう言いながら食べるんだろ」「もちろんです」 佳苗はフォークを手に取り、小さく切り分けて口へ運ぶ。 甘酸っぱい苺と、なめらかなクリーム。 さくさくとしたタルト生地。「美味しい……!」 思わず頬が緩む。 その様子を見ていた雄吾も、自然と笑みを浮かべた。「そんなに美味いか」
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未来の約束

 店を出ると、空はすっかり夕暮れ色に染まっていた。 西の空へ沈みかけた太陽が街を柔らかな橙色に包み込み、昼間とは違う穏やかな空気が流れている。 二人は並んで歩き始めた。 自然と、手を繋いだまま。 少し前までは、それだけで緊張していたのに。 今はその温もりが当たり前のように心地よかった。「今日はありがとうございました」 佳苗が歩きながら微笑む。「勉強もできましたし、ご褒美までいただいてしまって」「頑張ったのは佳苗だからな」 雄吾は穏やかに答えた。「俺は隣にいただけだ」「そんなことありません」 佳苗は首を横に振る。「一人だったら、きっと途中で集中力が切れていました。」「雄吾さんがいたから最後まで頑張れたんです」 雄吾は少し照れたように笑う。「それなら、また付き合う」「本当ですか?」「ああ」 佳苗の表情がぱっと明るくなる。「ありがとうございます」 二人はゆっくりと駅へ向かって歩いた。 休日の夕方。 行き交う人々もどこか穏やかな表情を浮かべている。 家族連れ。 恋人同士。 買い物帰りらしい夫婦。 そんな人たちを見ながら、佳苗はふと足を止めた。「どうした」「いえ……」 佳苗は少しだけ恥ずかしそうに笑った。「こうして歩いていると、不思議だなって思って」「何がだ」「少し前まで、一人になるしかないと思っていたんです」 離婚が決まった頃。 住む場所も、仕事も、将来も何も決まっていなかった。 毎日が不安で。 眠れない夜もあった。「でも今は」 佳苗は繋いだ手へ視線を落とす。「こうして隣に雄吾さんがいてくれる。」
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それぞれの日常

 休日が終わると、また新しい一週間が始まった。 佳苗はいつもの時間に目を覚まし、朝食の準備をする。 味噌汁の鍋へ火をかけ、ご飯をよそう。 以前は雄吾が用意してくれることの方が多かったが、最近は「今日は私が作ります」と言うことが増えた。「おはようございます」 寝室から出てきた雄吾が、眠そうな目をこすりながら椅子へ腰を下ろす。「おはよう、佳苗」 自然に名前を呼ばれる。 たったそれだけのことなのに、胸が少しだけ温かくなる。「今日は鮭です」「うまそうだな」 食卓へ並んだ朝食を見て、雄吾が穏やかに微笑んだ。 二人で「いただきます」と手を合わせる。 食事をしながら、その日の予定を確認する。「今日は少し帰りが遅くなる」 雄吾が味噌汁を飲みながら言った。「取引先との会食ですか?」「ああ」「分かりました」 佳苗は頷く。「じゃあ、私は先に食べていますね」「悪いな」「いいえ」 佳苗は笑った。「お仕事ですから」 以前なら、その一言だけで終わっていただろう。 けれど今は違う。「終わったら連絡ください」 佳苗が続ける。「夜食くらいなら作れますし」 雄吾は一瞬だけ目を丸くした。 それから、優しく微笑む。「ああ」「ありがとう」 その何気ないやり取りが、恋人になった今の日常だった。 朝食を終え、それぞれ身支度を整える。 マンションのエントランスまでは一緒。 そこで自然と足を止めた。「行ってきます」 佳苗が笑顔で言う。「ああ、行ってらっしゃい」 雄吾も穏やかに頷く。 二人は別々の方向へ歩き始めた。 佳苗は駅へ。
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届いた封筒

 午後三時過ぎ。 佳苗はコピー機の前で書類を整理していた。「これで全部かな……」 確認しながら資料をホチキスで留める。 最近は仕事にも少しずつ慣れ、以前より余裕を持って動けるようになっていた。 デスクへ戻ると、スマートフォンが小さく震えた。 昼休みに届いていたメールの通知だった。 差出人は、三浦法律事務所。 件名には、『離婚手続き関係書類送付のご連絡』と書かれている。 佳苗は仕事の手を止めないようにしながら、本文へ目を通した。『本日、離婚手続きに関する関係書類を郵送いたしました。 お手元へ届きましたら、ご確認をお願いいたします。 これにて本件はすべて終了となります。 長い間、本当にお疲れさまでした。 三浦』 その短い文章を読み終えた佳苗は、静かに画面を閉じた。 ――終わったんだ。 離婚協議。 調停。 たくさんの書類。 何度も眠れない夜を過ごした日々。 そのすべてが、ようやく過去になる。「佳苗さん?」 同僚に呼ばれ、佳苗は我に返った。「はい!」「この資料お願い」「あ、はい!」 佳苗は笑顔で資料を受け取る。 もう仕事中に涙を流すことはなかった。 今の自分には、守りたい毎日がある。 仕事を終え、マンションへ戻る。 エントランスへ入ると、佳苗はふと思い出したように足を止めた。「そういえば……」 三浦から、今日発送したとメールが届いていた。 もしかすると、もう届いているかもしれない。 集合ポストを開ける。 一通の角形封筒が目に入った。 三浦法律事務所の名前が印刷されている。「届いたんだ&
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新しい思い出

 翌日の夜。 佳苗は食器を片付けながら、小さく息をついた。 食卓には夕食の名残が残っている。 今日の献立は鯖の味噌煮と、ひじきの煮物、それにほうれん草のおひたし。 最近はスーパーへ行くたびに、「今日は何を作ったら雄吾さんが喜んでくれるかな」 そう考えながら献立を決めるのが、佳苗のささやかな楽しみになっていた。「今日も美味しかった」 ソファへ腰を下ろした雄吾が穏やかに言う。「ありがとうございます」 佳苗は嬉しそうに笑った。 以前なら、「お世辞ですよね」と照れてしまっていたかもしれない。 でも今は違う。 雄吾は思ってもいないことを口にする人ではない。 だから素直に「ありがとう」と言えるようになった。 食器を洗い終え、佳苗もソファへ腰を下ろす。 テレビでは旅番組が流れていた。 初夏の高原。 一面に咲く花畑。 画面いっぱいに広がる景色へ、佳苗は思わず見入ってしまう。「綺麗……」「ああ」 雄吾もテレビへ目を向けた。「行ってみたいです」 佳苗がぽつりと呟く。「こういうところ」 その言葉に、雄吾は佳苗を見る。「旅行か」「はい」 佳苗は少し照れながら笑う。「旅行へ行ったことがないわけじゃないんです」 一度言葉を区切る。「でも、仕事の都合で予定が変わったり、急に予定がなくなったりすることも多くて……」 新婚旅行もした。 何度か遠出もした。 けれど、思い出すのは予定どおりにいかなかった記憶ばかりだった。 旅行先で何を見たのか。 何を食べたのか。 そんなことよりも、悟が仕事の電話ばかり気にしていた姿の方が強く残っている。
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春の知らせ

 月曜日の朝。 佳苗はいつものように出勤し、デスクでパソコンを立ち上げた。「おはようございます」「おはよう」 社内へ朝の挨拶が飛び交う。 コーヒーの香りが漂い始める頃、総務部から社内メールが届いた。『辞令のお知らせ』 佳苗は何気なくメールを開く。 そこには、人事異動や組織変更についての案内が並んでいた。「もうそんな時期なんだ……」 思わず呟く。 春は出会いと別れの季節。 部署異動や転勤も珍しくない。 佳苗には直接関係のない内容だったが、同期や先輩たちがざわつき始める。「課長が異動だって」「えっ、本当?」「来月から新しい部長が来るらしいよ」 あちこちでそんな会話が聞こえてきた。 佳苗も資料をまとめながら耳を傾ける。 会社という場所は、人が変われば雰囲気も変わる。 自分も少し前までは、新しい環境へ飛び込むことが怖くて仕方がなかった。 でも今は違う。 変化を受け入れ、前へ進んでいこうと思える。「佳苗さん」 上司がデスクへやって来た。「少しいい?」「はい」 会議室へ案内され、佳苗は椅子へ腰を下ろす。 何か失敗をしただろうか。 少しだけ緊張する。 すると上司は笑顔で口を開いた。「そんなに構えなくて大丈夫」「はい……」「実はね」 机の上へ一枚の書類を置く。「入社して半年になるでしょう?」 佳苗は頷いた。 気が付けば、もうそんなに時間が経っていた。 毎日が慌ただしく過ぎていき、あまり意識したことはなかった。「試用期間の評価が出たの」 佳苗は思わず背筋を伸ばす。「結果だけ先に言
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報告

 定時のチャイムが鳴ると同時に、佳苗はパソコンを閉じた。 今日は珍しく仕事が予定どおり終わった。 バッグを肩に掛け、会社を出る。 駅へ向かう足取りは自然と軽くなっていた。(早く話したいな) 今日あった出来事を。 評価してもらえたことを。 誰より先に伝えたい相手がいる。 そんなことが、佳苗には少し照れくさくて、でも嬉しかった。 マンションへ戻ると、エントランスの照明が柔らかく足元を照らしていた。 エレベーターで部屋へ上がり、鍵を開ける。「ただいま帰りました」「おかえり」 リビングから雄吾が顔を上げる。 今日は珍しく、佳苗の方が少し早かったらしい。 ネクタイを緩めた雄吾は、ソファで資料へ目を通していた。「今日は早かったんだな」「はい」 佳苗は靴を脱ぎながら笑う。「雄吾さんもですか?」「今日は会議が早く終わった」「そうだったんですね」 佳苗はバッグを置くと、嬉しそうに雄吾の前へ座った。 何かを話したくて仕方がない顔をしている。 そんな佳苗を見て、雄吾は小さく笑った。「何かあったな」「分かります?」「その顔を見ればな」 佳苗は少し照れながら頷いた。「今日、上司に呼ばれたんです」 雄吾の表情が少しだけ引き締まる。「何かあったのか」「最初は私もそう思いました」 佳苗は苦笑した。「何か失敗したのかなって」「でも違ったんです」 一呼吸置いてから、嬉しそうに続ける。「試用期間の評価のお話でした」「ほう」「すごく良い評価をいただけたんです」 雄吾は一瞬驚いたような顔をしたあと、ゆっくりと笑みを浮かべた。「そうか」 その穏
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