All Chapters of 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています: Chapter 161 - Chapter 170

265 Chapters

土曜日の朝

 待ちに待った土曜日。 佳苗は目覚まし時計が鳴るよりも早く目を覚ました。 時計を見る。 まだ朝の六時半だった。「早すぎる……」 そう呟いて布団へ潜り直す。 けれど、一度目が覚めてしまうと眠れなかった。 結局、そのまま起き上がる。 カーテンを開けると、柔らかな朝日が部屋へ差し込んできた。 今日はよく晴れそうだ。「何を着ようかな……」 クローゼットを開ける。 ワンピースを手に取ってみる。 いや、少し気合いが入りすぎだろうか。 ブラウスとスカートも悪くない。 でも歩くならパンツスタイルの方が楽かもしれない。「うーん……」 気が付けば十分以上、服の前で悩んでいた。 以前の自分なら考えられないことだった。 誰と会うかなんて気にしたこともない。 着られれば何でもいいと思っていた。 なのに今日は違う。 少しでも、雄吾に「似合う」と思ってほしい。 そんな自分に気付き、佳苗は頬を押さえた。「私、本当に恋してるんだな……」 思わず笑みがこぼれる。 結局、淡い水色のブラウスに白いロングスカートを選んだ。 派手すぎず、普段より少しだけおしゃれ。 鏡の前で一回転してみる。「……変じゃないよね」 自分に問いかけても答えは返ってこない。 少しだけ髪を巻き、薄くリップを塗る。 それだけで普段より明るい印象になった。 時計を見ると、まだ約束の時間まで一時間以上あった。「早く準備しすぎちゃった」 苦笑しながらリビングへ向かう。 すると、キッチンにはすでに雄吾が立っていた。「おは
Read more

約束の場所

 朝食を終えたあと、佳苗は食器を片付けながら時計を見た。 約束の時間まで、あと三十分。 自然と胸が高鳴る。「先輩」「ん?」「今日は、どこへ行くんですか?」 佳苗は前にも聞いた質問を、もう一度口にした。 雄吾はネクタイを締めるような手つきで腕時計を着けながら、小さく笑う。「着けば分かる」「また秘密ですか」「秘密だ」「もう少しくらい教えてくれてもいいのに」 佳苗が少しだけ頬を膨らませると、雄吾は肩をすくめた。「その方が面白いだろ」「先輩、たまに意地悪ですよね」「そうか?」「そうです」 二人でそんなやり取りを交わしながら家を出る。 エレベーターへ乗り込み、一階へ降りる。 マンションを出ると、爽やかな風が吹き抜けた。 よく晴れた休日。 街にはどこか浮き立った空気が流れている。 駅まで歩き、電車へ乗る。 今日は休日だからか、車内には家族連れや恋人同士の姿が多かった。 佳苗は窓の外を眺めながら、小さく息を吐く。「緊張してるのか」 隣から雄吾の声がした。「え?」「落ち着かない顔してる」 佳苗は苦笑する。「分かりますか?」「ああ」「実は少しだけ」 佳苗は正直に頷いた。「何だか、朝からずっとそわそわしていて」「俺もだ」 あまりにもあっさりと言われ、佳苗は思わず雄吾を見た。「先輩も?」「ああ」 雄吾は窓の外へ視線を向けたまま頷く。「珍しいですね」「そうだな」 それ以上は何も言わない。 けれど、その横顔はどこか普段より硬く見えた。(先輩も緊張することがあるんだ……
Read more

海辺で

 潮風が、ふわりと佳苗の髪を揺らした。 駅前の賑やかな通りを抜けると、視界が一気に開ける。 青い海と、どこまでも続く水平線。 波が静かに砂浜を撫で、白い飛沫を残しては引いていく。「すごい……」 佳苗は思わず足を止めた。 写真やテレビでは何度も見たことがある景色なのに、実際に目の前へ広がる海はまったく違って見えた。 太陽の光を受けた水面は宝石のようにきらめき、吹き抜ける潮風にはほんの少しだけ塩の香りが混じっている。「綺麗ですね」 自然と笑みがこぼれる。 雄吾はそんな佳苗の横顔を見ながら、小さく頷いた。「ああ」 それ以上の言葉はない。 けれど、その視線は海ではなく、佳苗へ向けられていた。「歩くか」「はい」 二人は遊歩道をゆっくり歩き始める。 休日らしく、周囲には家族連れや恋人同士の姿が多い。 子どもたちの笑い声が風に乗って聞こえ、ベンチでは年配の夫婦が穏やかに海を眺めていた。 そんな光景を見ているだけで、心まで穏やかになっていく。「海って、不思議ですね」 佳苗がぽつりと呟く。「見ているだけで落ち着きます」「そうだな」 雄吾も静かに同意する。 しばらく言葉はなかった。 沈黙が流れる。 それなのに、気まずさは少しもない。 むしろ、この静かな時間さえ心地よく感じられた。 佳苗はふと雄吾を見上げる。 横顔はいつもと変わらず落ち着いている。 けれど、どこか考え込んでいるようにも見えた。「先輩」「ん?」「何か考え事ですか?」 雄吾は一瞬だけ佳苗を見た。「少しな」「仕事ですか?」「……いや」 短く否定する。
Read more

ずっと伝えたかった

 潮風が静かに吹き抜ける。 展望デッキの向こうでは、穏やかな波が何度も岸へ寄せては返していた。 空はどこまでも青く、遠くの水平線には白い船がゆっくりと進んでいる。 佳苗は海を眺めながら、小さく息をついた。「本当に綺麗ですね」「ああ」 雄吾は短く答える。 けれど、その視線は海ではなく佳苗へ向けられていた。 佳苗はそのことに気づかない。 風に揺れる髪を耳へ掛けながら、嬉しそうに景色を眺めている。 その横顔を見つめるだけで、胸がいっぱいになる。 どれほど、この日を待っただろう。 初めて会った日。 傷ついて、自分の価値さえ見失っていた佳苗を見た時から。 助けたいと思った。 笑ってほしいと思った。 そして気づけば、その願いは恋へ変わっていた。「佳苗」 雄吾は静かに名前を呼ぶ。「はい?」 佳苗が振り返る。 その笑顔を見た瞬間、胸が少しだけ締めつけられた。「少し、聞いてほしい」 佳苗は雄吾の表情を見て、自然と笑みを引っ込めた。「はい」 風が二人の間を吹き抜ける。 ほんの数歩しか離れていないのに、鼓動だけがやけに大きく聞こえた。「前に言ったな」 雄吾がゆっくり口を開く。「離婚が終わるまでは、余計なことは考えないようにしていたって」 佳苗は小さく頷く。「覚えています」「あれは本当だ」 雄吾は苦笑した。「正確には、考えないようにしていたんじゃない」 一度言葉を切る。「考えていても、言えなかった」 佳苗の瞳がわずかに揺れる。「お前がまだ悟の妻だったからだ」 その言葉は、静かだった。 責める響きも、焦る響きもない。 ただ、長い時間胸にしまっ
Read more

私も、ずっと

 佳苗は何も言えなかった。 目の前の雄吾が、真っ直ぐ自分を見つめている。 その瞳に迷いはない。 優しさだけではない。 決意と覚悟を持って、この言葉を伝えてくれたのだと分かった。 頬を伝う涙を拭おうとする。 けれど、次から次へと溢れてきて止まらない。「……ごめんなさい」 思わず口をついて出た言葉に、雄吾はゆっくり首を横へ振った。「謝るな」 その一言が、また涙を誘う。「だって……」 佳苗は声を震わせた。「嬉しくて……」 こんなに幸せなのに。 言葉にならない。 涙ばかりが溢れてしまう。 雄吾は急かさず、静かに待っていてくれた。 その姿が、いかにも雄吾らしかった。 返事を急かさない。 困らせない。 いつだって、自分の気持ちより佳苗の気持ちを優先してくれる。 だからこそ。 もう逃げたくないと思った。 佳苗は涙を拭い、小さく息を吸う。「先輩」「ん?」「私、この前決めたんです」 雄吾は静かに耳を傾ける。「待つだけじゃ駄目だって」 佳苗は少しだけ笑った。「先輩が伝えてくれたら、私もちゃんと自分の気持ちを伝えようって」 雄吾の目が少しだけ見開かれる。 佳苗は照れくさそうに笑いながら続けた。「私も……」 一度だけ言葉が止まる。 胸がいっぱいだった。 それでも、ちゃんと伝えたい。 この人が勇気を出してくれたのだから。「私も、先輩が好きです」 その一言を口にした瞬間、不思議なくらい心が軽くなった。「仕事が決まって嬉しかった時も」
Read more

少しだけ変わった毎日

 月曜日の朝。 目覚まし時計が鳴る少し前に、佳苗は目を覚ました。 カーテンを開けると、青空が広がっている。 昨日までの休日が夢だったように、いつもの朝が始まった。 身支度を整え、リビングへ向かう。「おはようございます」「ああ、おはよう」 キッチンから味噌汁の香りが漂ってくる。 雄吾はエプロン姿で朝食の準備をしていた。 その姿も、もうすっかり見慣れた光景になっている。「今日は私がやります」 佳苗がエプロンへ手を伸ばすと、雄吾は首を横に振った。「昨日は出掛けて疲れただろ」「でも……」「今日は俺がやる」 その言い方があまりにも雄吾らしくて、佳苗は思わず笑ってしまう。「分かりました」 二人で朝食を囲む。 味噌汁を飲み、ご飯を口へ運ぶ。 恋人になったからといって、特別な朝を迎えたわけではない。 それでも。 昨日までとは違う空気が、二人の間には流れていた。「今日は残業か」 雄吾が尋ねる。 佳苗は少し考えてから首を横へ振った。「たぶん定時で帰れると思います」「そうか」 雄吾はそれだけ言って頷く。 佳苗も、それ以上は聞かなかった。 以前なら少し物足りなく感じたかもしれない。 けれど今は、この何気ない会話が心地いい。 朝食を終え、それぞれ出掛ける準備をする。 佳苗がバッグを肩へ掛けると、雄吾もジャケットを羽織った。「じゃあ」「はい」 二人は一緒に玄関を出る。 エレベーターへ乗り、一階へ降りる。 マンションの前まで来ると、自然と足が止まった。 ここから先は、お互い別々の会社へ向かう。「行ってきます」 佳苗が笑顔で言う。
Read more

恋人としての距離

 その日の仕事は、不思議なくらい順調だった。 午前中の電話対応を終え、資料をまとめる。 午後は取引先との打ち合わせ資料を作成し、上司へ提出した。「佳苗さん」「はい」「この前よりずっと分かりやすくなったね」 上司が資料を見ながら頷く。「ありがとうございます」 自然と笑顔になる。 入社したばかりの頃は、何をするにも緊張していた。 失敗しないことばかり考えて、自分から動く余裕なんてなかった。 でも今は違う。 まだ覚えることはたくさんある。 それでも少しずつ、自分にもできることが増えてきた。 仕事が終わり、会社を出る。 夕暮れの風が心地よい。 駅へ向かう途中、商店街の八百屋が目に入った。「今日は私が作るって言っちゃったもんね」 佳苗は小さく笑う。 夕飯の献立を考えながら店先を眺める。 新じゃが。 アスパラ。 春キャベツ。 旬の野菜が並んでいる。「クリームシチューは昨日食べたし……」 雄吾は和食の方が好きだった。 そう考えると、今日は肉じゃががいいかもしれない。「おじさん、このじゃがいもください」「毎度!」 買い物袋を受け取り、佳苗は再び駅へ向かう。 恋人になって初めて作る夕飯。 そう思うだけで、少しだけ胸が弾んだ。 マンションへ帰ると、まだ雄吾は戻っていなかった。「今日は少し遅いのかな」 バッグを置き、エプロンを身につける。 野菜を切り、鍋へ入れる。 部屋へ煮物の優しい香りが広がり始めた頃、玄関のドアが開く音がした。「ただいま」 聞き慣れた声に、佳苗は顔を上げる。「おかえりなさい」 その一言を口にした瞬間、雄吾が
Read more

一緒に食べる時間

「できました」 佳苗は肉じゃがの入った器を食卓へ並べた。 湯気と一緒に、醤油とだしの優しい香りが広がる。 ほうれん草のおひたし。 豆腐とわかめの味噌汁。 炊きたてのご飯。 豪華ではない。 けれど、どこかほっとするような献立だった。「待たせました」 リビングで新聞を読んでいた雄吾が立ち上がる。「うまそうだな」「本当ですか?」「ああ」 雄吾は椅子を引きながら頷いた。「いただきます」「いただきます」 二人は手を合わせ、食事を始める。 雄吾は最初に肉じゃがを一口食べた。 ゆっくり味わうように噛みしめる。 佳苗はその様子を、少し緊張しながら見つめていた。「……どうですか?」 思わず尋ねる。 雄吾は顔を上げると、小さく笑った。「うまい」 その一言に、佳苗はほっと胸をなで下ろした。「良かった……」「何だ」「実は、恋人になってから初めて作るご飯だったので」 少し照れながら笑う。「前より緊張してたんです」「そうだったのか」 雄吾は意外そうな顔をした。「前も作ってくれてただろ」「そうなんですけど」 佳苗は箸を持ちながら首を傾げる。「あの頃とは、少しだけ気持ちが違うんです」 前は、お世話になっているから。 お礼がしたくて作っていた。 でも今は。「おいしいって言ってもらえたら嬉しいな、とか」「喜んでもらえたらいいな、とか」 佳苗は照れくさそうに笑う。「そんなことを考えながら作っていました」 雄吾は静かに佳苗を見つめた。 それから、もう一度
Read more

初めてのお願い

 夕食を終え、佳苗は食器を流しへ運んだ。「今日は私が洗います」 そう言うと、雄吾も立ち上がる。「拭くくらいは手伝う」「ありがとうございます」 二人で並んでキッチンへ立つ。 洗う人と、拭く人。 いつからか自然に決まった役割だった。 蛇口から流れる水の音だけが静かに響く。「先輩」「ん?」 佳苗はスポンジを動かしながら口を開いた。「恋人同士って、普通はどんなことをするんでしょう」 雄吾の手がぴたりと止まる。「……急だな」「すみません」 佳苗は少し照れながら笑った。「でも、少し気になってしまって」 雄吾は拭き終えた皿を食器棚へ戻しながら考え込む。「……俺にも分からん」「そうですよね」 佳苗はくすりと笑う。「先輩も初めてって言っていましたもんね」「ああ」 雄吾は苦笑する。「だから正解は分からん」 二人で顔を見合わせ、思わず笑ってしまう。 分からないことを、分からないと言い合える。 そんな時間が心地よかった。 佳苗は洗い終えた皿をすすぎながら、小さく息をつく。「私も結婚はしていましたけど……」 その言葉に、雄吾は静かに佳苗を見る。「こういう時間は、ほとんどなかったんです」 佳苗は少しだけ寂しそうに笑った。「一緒にご飯を作ったり、今日あったことを話したり」「恋人らしいことも、夫婦らしいことも、あまりしてこなかった気がします」 だから今が不思議だった。 特別なことをしているわけではない。 それでも毎日が温かい。「だから」 佳苗は照れくさそうに笑う。「
Read more

幸せな悩み

 週末。 佳苗は近所のスーパーで買い物を済ませ、両手に袋を提げてマンションへ戻ってきた。 自動ドアを抜け、エレベーターへ乗り込む。 今日は雄吾も休日だ。 せっかくだから少し手の込んだ料理を作ろうと思い、いつもより買いすぎてしまった。「重かった……」 玄関のドアを開けると、リビングから雄吾が顔を出した。「おかえり」「ただいま帰りました」 雄吾は佳苗の両手を見るなり、小さく眉を寄せた。「そんなに買ったのか」「今日はハンバーグにしようと思って」 佳苗は笑いながら袋を持ち上げる。「サラダも作りますし、デザートも買ってきちゃいました」「貸せ」「大丈夫です」「いいから」 雄吾は佳苗の返事を待たず、買い物袋を受け取った。 そのままキッチンへ運んでしまう。「もう……」 佳苗は苦笑しながら後を追った。「それくらい自分で持てますよ」「持てる持てないの話じゃない」 雄吾は袋から食材を取り出し、冷蔵庫へしまい始める。「重い思いをさせたくないだけだ」 あまりにもさらりと言われてしまい、佳苗は返事に詰まった。「ありがとうございます」 小さくお礼を言うと、雄吾は「気にするな」とだけ答えた。 それから二人で並んで昼食の準備を始める。 佳苗が玉ねぎを刻み、雄吾がじゃがいもの皮をむく。「先輩」「ん?」「いえ……雄吾さん」 呼び直すと、雄吾の手が一瞬止まった。 けれど次の瞬間には、小さく笑う。「少し慣れてきたな」「まだ緊張します」 佳苗は照れながら玉ねぎを刻み続ける。「つい『先輩』って言いそうになります」
Read more
PREV
1
...
1516171819
...
27
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status