翌週。 佳苗は出社すると、朝から慌ただしく書類を整理していた。「朝倉さん」 声を掛けられ、振り返る。「はい」 課長が数枚の書類を手に近付いてきた。「この契約書なんだけど、確認お願いできる?」「もちろんです」 佳苗は書類を受け取り、一枚ずつ目を通していく。 金額。 契約期間。 会社名。 押印欄。 添付資料。 順番に確認していくと、一か所だけ数字の記載ミスを見つけた。「課長」「ん?」「こちらですが、添付資料の金額と契約書の金額が一致していません」「あ、本当だ」 課長は驚いたように書類を見比べた。「よく気付いたね」「ありがとうございます」「このまま送るところだったよ」 課長は苦笑しながら書類を持って担当部署へ向かっていく。 その様子を見送りながら、佳苗は少しだけ嬉しくなった。 以前なら、自分にこんな仕事は任せてもらえなかった。 今は違う。 少しずつではあるけれど、信頼してもらえている。 昼休み。 休憩室でお弁当を食べていると、隣へ座った先輩が笑い掛けてきた。「朝倉さん、本当に細かいところによく気付くよね」「そんなことないですよ」「いやいや。みんな助かってる」 そう言われると照れてしまう。「ありがとうございます」「その調子なら、もっといろんな仕事も任せられそうだね」 佳苗は思わず聞き返した。「もっと、ですか?」「うん。書類管理だけじゃなくて、少しずつ担当業務が増えるかもしれないよ」 その言葉に胸が高鳴る。 もっとできることが増える。 もっと経験を積める。 それは佳苗が望んでいたことだった。 その日の帰り道。 佳苗は駅へ向かいながら、ふと自分のバッグへ視線を落とした。 中には、資格試験の参考書が入っている。 合格して終わりではない。 もっと知識を身につけたい。 もっと仕事ができるようになりたい。 そんな気持ちが、自然と湧いてきていた。(そういえば……) 雄吾は以前、言っていた。 『資格を取れば、仕事の幅も広がる』 あの時は目の前のことで精一杯だった。 でも今なら、その意味が少し分かる気がする。 自立とは、部屋を借りることだけではない。 自分でできることを増やし、自分の力で道を選べるようになること。 そんな考えが、少しずつ佳苗の中で形になり始めていた。 マンシ
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