جميع فصول : الفصل -الفصل 220

260 فصول

道の駅

 道の駅の駐車場へ車を止めると、佳苗は窓の外を見て目を輝かせた。「思っていたより大きいですね」「ああ」 雄吾はエンジンを切りながら頷く。「休日は結構人も来るらしい」 二人は車を降り、建物へ向かう。 入口では地元の野菜や果物が所狭しと並べられていた。「わぁ……」 佳苗は思わず足を止める。「安いですね」 新鮮なアスパラガス。 大きなトマト。 朝採れと書かれたレタス。 どれも都内で見るより少し安く、みずみずしい。「見ているだけでも楽しいです」 佳苗は一つひとつ手に取りながら笑う。「こういうところが好きなんだな」 雄吾が少し感心したように言う。「はい」 佳苗は迷わず頷いた。「旅行先のスーパーとか市場とかも好きなんです」「その土地ならではの食材があったりして」「なるほど」 雄吾は納得したように笑う。「俺は土産物ばかり見ていた」「じゃあ、今日は両方見ましょう」 佳苗が嬉しそうに提案する。 二人は野菜売り場を一通り見て回ったあと、土産物売り場へ移動した。 地元のお菓子やジャム、調味料が並んでいる。「これ、美味しそうですね」 佳苗は小瓶に入った果物のジャムを手に取った。「朝食のヨーグルトに入っていた果物、この辺りで採れたものなんですね」「気に入ったなら買うか」「でも……」 佳苗は値札を見て少し迷う。「家にもジャムがありますし」「使い切ってからでもいいかなって」 そう言って棚へ戻した。 雄吾はその様子を見て、小さく笑う。「佳苗らしいな」「え?」「欲しいから買う、じゃなくて、ちゃん
اقرأ المزيد

帰る場所

 道の駅をあとにすると、車は再び高速道路へ入った。 助手席の佳苗は、膝の上へ小さな紙袋を抱えている。 中には買ったばかりのりんごジュースと、旅館で気に入ったお菓子が入っていた。「結局、お土産も買っちゃいましたね」 佳苗が少し照れくさそうに笑う。「あれくらいならいいだろう」 雄吾は前を向いたまま答えた。「思い出にもなる」「そうですね」 佳苗は紙袋を見つめながら微笑んだ。 買ったものは多くない。 けれど、見るたびにこの旅行を思い出せる気がした。 高速道路は行きよりも少し車が多かった。 とはいえ、大きな渋滞はない。 車内には穏やかな音楽が流れ、静かな時間が続いていた。「眠かったら寝ていいぞ」 雄吾が言う。「運転、疲れてませんか?」「大丈夫だ」 佳苗は少し迷ったあと、小さく首を振る。「せっかくなので、起きています」「景色も見たいですし」 窓の外を見ると、少しずつ山並みが遠ざかり、見慣れた街並みが増えてきた。「もう帰ってきたんですね」「あっという間だったな」「はい」 佳苗は頷く。「もっと長くいたいって思っていましたけど……」 一拍置いて、柔らかく笑った。「でも、帰る場所があるから、旅行も楽しいのかもしれませんね」 雄吾は一瞬だけ佳苗を見た。「帰る場所?」「はい」 佳苗は窓の外へ視線を向けたまま続ける。「旅行って、もちろん旅先も楽しいですけど……」「『帰ろう』って思える場所があるから、安心して出掛けられるんだなって」 その言葉に、雄吾は静かに頷いた。「ああ」 短い返事だった。 けれど、その声はどこか優しか
اقرأ المزيد

日常へ

 マンションへ着いたのは、夕方近くだった。 雄吾が車を駐車場へ入れると、佳苗は窓の外を見ながらほっと息をつく。「帰ってきましたね」「ああ」 エンジンが止まり、静けさが車内を包む。 二人は荷物を降ろし、エレベーターへ向かった。「ただいま」 玄関のドアを開けた佳苗が、小さく呟く。 誰もいないはずなのに、自然と口をついて出た言葉だった。 そのあとから入ってきた雄吾が、少し笑う。「おかえり」 佳苗は振り返り、照れくさそうに笑った。「そう言ってもらえると、本当に帰ってきたって感じがします」「そういうものだ」 雄吾は荷物を床へ置きながら答えた。 旅行へ出る前と変わらない部屋。 見慣れたソファ。 いつものダイニング。 たった一泊留守にしただけなのに、どこか懐かしく感じる。「少し片付けますね」 佳苗はボストンバッグを開き、洗濯物を取り出していく。「今日のうちに分けておけば楽なので」「今日はいい」 雄吾が穏やかに言った。「疲れてるだろう」「でも……」「洗濯くらい明日でも間に合う」 佳苗は少し考えてから、小さく笑った。「そうですね」「今日はゆっくりします」 以前の自分なら、帰ってきた勢いで全部終わらせようとしていただろう。 でも今は違う。 明日に回してもいいことは、明日に回す。 そんな余裕も少しずつ持てるようになっていた。「そうだ」 佳苗は道の駅で買った紙袋を開く。「りんごジュース、飲みませんか?」「ああ」 二人分のグラスへ注ぐと、淡い黄金色のジュースが光を受けてきらめいた。「いただきます」 一口飲む。「やっ
اقرأ المزيد

小さな違和感

 旅行から数日後。 佳苗はいつものように仕事を終え、会社を出た。 夕暮れの駅前は、仕事帰りの人たちで賑わっている。 スーパーへ立ち寄り、夕食の材料を買う。 冷蔵庫の中身を思い浮かべながら売り場を歩くのも、すっかり習慣になっていた。「今日はお魚にしようかな」 鮮魚コーナーで切り身を選び、野菜も買い物かごへ入れる。 レジを済ませ、店を出た時だった。 駅前の不動産会社の前を通りかかる。 店頭には、賃貸物件の情報が並んでいた。『駅徒歩五分』『1K』『女性に人気』 佳苗は何気なく足を止める。「……」 特別な理由はなかった。 本当に、何となく目に留まっただけだった。 ガラス越しに並ぶ間取り図を眺める。「このくらいの広さなんだ」 家賃。 間取り。 築年数。 一つひとつを見比べていると、不思議な気持ちになった。(私、一人だったら……) その考えが頭をよぎった瞬間、佳苗ははっと我に返る。「何考えてるんだろう」 小さく苦笑し、その場を離れた。 別に今すぐ引っ越したいわけではない。 雄吾との生活に不満があるわけでもない。 むしろ毎日が幸せだった。 それなのに。 資格を取って。 仕事にも少し慣れて。 貯金も少しずつ増えてきた。 そんな今だからこそ、「一人でも生活できるだろうか」という考えが、ふと頭をよぎったのだ。 マンションへ戻ると、雄吾はまだ帰っていなかった。「ただいま帰りました」 返事のない部屋でエプロンを身につける。 魚を焼き、味噌汁を作る。 手はいつもどおり動いている。 それでも、不動産会社の
اقرأ المزيد

ひとりでできること

 翌日の昼休み。 佳苗は社員食堂で昼食を食べ終えると、温かいお茶を飲みながら窓の外を眺めていた。 昨日、不動産会社の前で足を止めたことが、まだ心に残っている。(どうして気になったんだろう) 自分でも答えは分かっていた。 雄吾から離れたいわけではない。 そうではなく――。「佳苗さん?」 同期が隣へ腰を下ろした。「珍しくぼーっとしてるね」「え?」 佳苗は慌てて笑顔を作る。「そんなことないですよ」「仕事で何かあった?」「いえ、大丈夫です」 本当に仕事は順調だった。 人間関係も悪くない。 だからこそ、今の自分には少しだけ余裕が生まれていた。 その余裕が、新しいことを考えさせるのかもしれない。 午後の仕事を終え、佳苗は会社を出た。 今日はスーパーへ寄らず、そのまま駅へ向かう。 昨日見掛けた不動産会社の前を通ると、また自然と足が止まった。「……」 ガラス越しに貼られた間取り図を見る。 ワンルーム。 1K。 1DK。 それぞれの家賃や設備が書かれている。(高いなあ) 今の佳苗の給料でも、決して払えない金額ではない。 けれど、家賃だけでは済まない。 光熱費。 通信費。 食費。 生活用品。 頭の中で自然と計算を始めていた。「……やっぱり大変そう」 思わず苦笑する。 現実は甘くない。 それでも。(前なら、『無理』って思って終わりだった) 今は違う。 「どうしたらできるだろう」と考えている自分がいる。 その小さな変化に、自分でも驚いていた。
اقرأ المزيد

新しい目標

 週末の朝。 佳苗はいつものように早く目を覚ました。 カーテンを開けると、柔らかな陽射しが部屋へ差し込む。「いい天気ですね」 小さく呟いてから、朝食の支度を始める。 トーストを焼き、サラダを盛り付ける。 コーヒーの香りが部屋へ広がる頃、雄吾も起きてきた。「おはよう」「おはようございます」 二人で向かい合って朝食を食べ始める。「今日は何か予定あるか?」 雄吾がコーヒーを飲みながら尋ねた。「午後にスーパーへ行こうと思っています」 佳苗は答える。「冷蔵庫が少し寂しくなってきたので」「それくらいか?」「はい」 穏やかな休日。 以前なら、それだけで十分幸せだった。 もちろん今も幸せだ。 けれど最近は、その先のことを考える時間が増えていた。 朝食を終え、佳苗は家計簿を開く。 先月までの貯金額。 今月の収入予定。 資格手当も含めた給与。 一つずつ数字を追っていく。(少しずつだけど、増えてる) 焦る必要はない。 でも、このまま働き続ければ、もっと貯金はできる。 そう考えると、自然と口元が緩んだ。「何かいいことでもあったか?」 新聞を読んでいた雄吾が顔を上げる。「いえ」 佳苗は家計簿を閉じて微笑んだ。「少し安心しただけです」「安心?」「ちゃんと貯金できているなって」 雄吾は頷いた。「計画どおりか」「はい」 佳苗は素直に頷く。「少し前までは、毎月生活するだけで精一杯でした」「でも今は、将来のために貯金もできています」 その言葉に、雄吾は穏やかに笑った。「頑張ってきた証拠だな」 佳苗は照れくさそうに笑い返す。「そう言っていただけると嬉しいです」 昼前になり、佳苗はスーパーへ出掛ける準備を始めた。「何か買ってきましょうか?」「牛乳だけ頼む」「分かりました」 エコバッグを持ち、玄関を出る。 駅前まで歩く道は、旅行へ行く前と何も変わらない。 けれど、佳苗の気持ちは少しずつ変わっていた。 仕事にも慣れた。 資格も取った。 貯金も増えてきた。 次は何を目標にしよう。 そんなことを考えながら歩いていると、不動産会社の前を通り掛かる。 昨日までなら立ち止まっていた。 けれど今日は、そのまま通り過ぎた。(まだ早い) そう思ったからだ。 勢いで決めることではない。 もっと準備を
اقرأ المزيد

積み重ねたもの

 週明けの朝。 佳苗はいつもの時間に会社へ着き、自分のデスクへ向かった。「おはようございます」「おはようございます」 挨拶を交わし、パソコンの電源を入れる。 今日も一日が始まる。 朝一番のメールを確認し、スケジュールを見直していると、課長が声を掛けてきた。「佳苗さん、少しいいかな」「はい」 会議室へ呼ばれ、佳苗は少し緊張した面持ちで席に着く。「そんなに構えなくて大丈夫」 課長は笑いながら資料を開いた。「来月から、大口取引先の契約書や請求関係の事務を担当してもらおうと思っている」「私が……ですか?」「ああ」 課長は頷いた。「もちろん最初は先輩と一緒だ。少しずつ覚えてもらえればいい」「資格も取ってくれたし、仕事も丁寧だから安心して任せられると思ってね」 思いがけない言葉に、佳苗は目を丸くした。「ありがとうございます」「まだ勉強中ですが、一生懸命頑張ります」「その気持ちがあれば十分だよ」「最初は先輩がフォローするから、焦らなくて大丈夫」「はい」 佳苗は力強く頷いた。 会議室を出ると、佳苗は胸に手を当てる。(私が……) 以前の自分なら、そんな大切な業務を任されるとは思ってもみなかった。 失敗ばかりしないように。 迷惑を掛けないように。 それだけで精一杯だった。 でも今は違う。 期待してもらえている。 必要とされている。 そのことが、何より嬉しかった。 昼休み。 同期から「おめでとう」と声を掛けられ、少し照れながら笑う。「まだ決まったばかりだから」「でも、佳苗さんなら大丈夫だよ」「書類もすごく丁寧だし、
اقرأ المزيد

少しずつ前へ

 翌日の朝。 佳苗は少し早めに会社へ着くと、昨日課長から渡された資料をもう一度開いた。 大口取引先の契約書作成の流れ。 請求書発行のスケジュール。 社内での確認手順。「覚えることが多いなあ……」 思わず小さく呟く。 もちろん、一度に全部任されるわけではない。 最初は先輩と一緒だ。 それでも、責任のある仕事だということは十分に伝わってきた。「おはよう、佳苗さん」 資料に目を通していると、先輩社員が声を掛けてきた。「おはようございます」「もう読んでるの?」「少しでも頭に入れておきたくて」 そう答えると、先輩は優しく笑った。「真面目だね」「でも、最初から全部覚えようとしなくても大丈夫だよ」「実際にやりながら覚えることの方が多いから」「はい」 佳苗は安心したように笑った。 午前中は通常業務をこなし、午後になると先輩が声を掛けてくる。「少し時間ある?」「はい」「今度担当する会社の請求書なんだけど、一緒に作ってみようか」「ありがとうございます」 佳苗は隣に座り、画面を見つめる。「この会社は締め日が月末じゃないから、ここだけ注意ね」「なるほど……」「契約内容によって請求のタイミングも変わるから、必ず契約書と照らし合わせるの」 先輩は一つひとつ丁寧に説明してくれる。 佳苗はメモを取りながら何度も頷いた。 分からないところはその場で質問する。 以前なら、質問をすることさえ遠慮していたかもしれない。 けれど今は違う。 分からないまま進める方が迷惑を掛けると知っている。 だから素直に聞けた。「飲み込み早いね」 先輩が笑う。
اقرأ المزيد

頑張る理由

 その週も、佳苗は忙しく過ごしていた。 午前中は通常業務。 午後は先輩について新しい業務を教わる。 一日の終わりには頭がいっぱいになるほど覚えることがあった。「佳苗さん、この請求書なんだけど」「はい」「数字、一度確認してみて」 先輩から書類を受け取り、佳苗は契約書と見比べながら一つずつ確認していく。 金額。 請求日。 取引先名。 どれも間違いがないよう慎重に目を通す。「……大丈夫だと思います」「うん、正解」 先輩は満足そうに頷いた。「確認も丁寧だね」「ありがとうございます」 佳苗はほっと胸をなで下ろす。 まだ一人では任せてもらえない。 それでも、少しずつできることが増えている実感があった。 仕事を終えた帰り道。 駅まで歩きながら、佳苗はスマートフォンで給与明細のアプリを開いた。 資格手当が加わった給与。 そこへ来月からは担当業務が増えることで、評価にもつながるかもしれない。 もちろん、すぐに給料が大きく上がるわけではない。 それでも――。(ちゃんと積み重なってる) そう思えた。 以前は毎日を乗り切るだけで精一杯だった。 けれど今は、数か月先、一年先を考えられる。 その変化が嬉しかった。 帰宅すると、雄吾はまだ仕事中だった。 今日は少し帰りが遅くなると連絡が入っている。 佳苗は夕食の準備を済ませると、家計簿を開いた。 今月の収入。 生活費。 貯金額。 一つずつ数字を書き込んでいく。 少しずつ増えていく残高を見て、自然と笑みがこぼれた。(まだまだだけど) 大きな金額ではない。 それでも、自分が
اقرأ المزيد

自分のために

 翌日の昼休み。 佳苗は社員食堂の窓際の席で昼食を終えると、温かいお茶を飲みながら手帳を開いた。 仕事の予定を書き込んでいるページの後ろには、家計簿とは別に、簡単な目標を書き留めるページがある。 資格試験の勉強をしていた頃に作ったものだ。 そのページをめくる。「次の目標……」 小さく呟きながら、ペンを持った。 何を書こうか迷う。 資格は取れた。 仕事にも少しずつ慣れてきた。 新しい業務も任せてもらえることになった。 だからこそ、次に目指すものが欲しかった。 しばらく考えたあと、佳苗はゆっくりと文字を書く。『一年後、一人で生活できるくらいの貯金をする』 書き終えた文字を見つめる。 それは、「すぐに一人暮らしをする」という意味ではない。 もし必要になった時、自分の力で生活を始められるだけの準備をしておきたい。 そんな目標だった。「佳苗さん」 同期に声を掛けられ、佳苗は慌てて手帳を閉じる。「午後から会議室使うらしいよ」「ありがとう」 午後の仕事が始まる。 請求書の作成補助や契約書の確認を進めながら、佳苗は昨日教わった内容を一つひとつ思い出していた。「ここ、確認お願いします」 先輩へ書類を渡す。 先輩は目を通し、すぐに笑顔になった。「うん、大丈夫」「修正なしでいいよ」「本当ですか?」「ちゃんと確認できてる」 その一言が嬉しかった。 まだ小さなことかもしれない。 でも、自分で作成した書類がそのまま通るようになったことは、確かな成長だった。 仕事を終えて帰宅すると、雄吾はリビングで資料を読んでいた。「ただいま帰りました」「おかえり」 佳苗は荷物を置き、エプロンを身
اقرأ المزيد
السابق
1
...
2021222324
...
26
امسح الكود للقراءة على التطبيق
DMCA.com Protection Status