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夏祭りの約束

Author: 影畑凛星
last update publish date: 2026-07-27 19:14:44

「やっぱり、こっちも可愛いですね」

 佳苗は紺地に朝顔の浴衣を胸元へ当てながら、鏡を覗き込んだ。

 白地の浴衣とはまた違った、大人っぽい雰囲気になる。

「うーん……」

 思わず唸る。

「決まらないか?」

 雄吾が隣へ来る。

「はい……」

 佳苗は困ったように笑った。

「どっちも素敵で」

「だったら二着買えばいい」

「だめです」

 即答だった。

「浴衣って一年に何回も着るものじゃないですし、一着で十分です」

「そういうものか」

「そういうものです」

 雄吾は少し考え込む。

 佳苗はそんな雄吾を見て、小さく吹き出した。

「何だ?」

「いえ」

「雄吾さんって、本当にお買い物の仕方が豪快だなって」

「必要なら買う」

「必要以上は買

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    『今ちょうど終わった。これから帰る』 雄吾から届いたメッセージを、佳苗は何度も読み返した。 そして、絢子からのメッセージを見る。『今から二人で何か食べに行くことにしたの』「……どういうこと?」 どちらかが嘘をついている。 そんな考えが浮かび、佳苗はすぐに打ち消した。 雄吾が嘘をつく理由などない。 だったら――。 スマートフォンが震えた。 絢子からだった。『ごめんなさい』『雄吾さん、やっぱり帰るって』「……」 続けて、もう一件。『佳苗さんが待ってるからって』 佳苗は息を吐いた。(そういうことだったんだ……) 自分がメッセージを送ったから、雄吾は予定を変えたのだろうか。 それなら、言葉が食い違っていたわけではない。 そう思ったのに。『昔なら、無理やりにでも連れていったんだけど』『今はもう、私がそこまですることじゃないものね』 また、昔。 佳苗の胸に小さな棘が刺さる。 返事をせずにいると、さらにメッセージが届いた。『佳苗さんがいてくれてよかった』『これからは雄吾さんのこと、佳苗さんがちゃんと見ていてあげてね』「……」 なぜだろう。 恋人である自分が、絢子から雄吾を任されているように感じる。 まるで今まで雄吾を支えてきたのは自分だとでも言うように。 佳苗はスマートフォンを伏せた。     ◇ 三十分ほどして、雄吾が帰宅した。「ただいま」「おかえりなさい」 佳苗は玄関へ向かう。「夕食、まだですよね?」「ああ」「すぐ用意しますね」

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  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   行かないという選択

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  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   三人の時間

     午後の仕事を終えても、佳苗の胸には小さなもやが残っていた。 美佐子と絢子。 そこへ雄吾も加わって、今頃三人で過ごしている。(別に、何もおかしくない) 雄吾は仕事が近くで終わったから、母親に呼ばれて顔を出しただけ。 絢子と二人きりでもない。 それに絢子は、自分も一緒ならよかったと言ってくれた。 頭では何度もそう考える。 それでも。 スマートフォンが震えるたび、佳苗は反射的に画面を見てしまった。 また絢子からだった。『雄吾さんも来たわ』 その下には、一枚の写真。「……」 美佐子と雄吾と絢子。 三人がテーブルを囲んでいる。 雄吾はカメラを意識していないらしく、美佐子の方を向いている。 絢子はその隣で微笑んでいた。 家族写真のようだった。『おばさまが撮ってって店員さんにお願いしたの』『昔みたいで嬉しいって』 佳苗の胸が痛む。 昔みたい。 自分と出会うよりずっと前から、この三人にはこういう時間があったのだ。『今度は佳苗さんも一緒に四人で撮りましょうね』「……はい」 誰もいないところで、佳苗は小さく返事をした。 そしてスマートフォンを伏せた。     ◇「ただいま」 夜。 玄関から雄吾の声がした。「おかえりなさい」 佳苗はいつものように迎えに出る。「今日は、お母様たちと楽しかったですか?」「ああ。少し顔を出しただけだけどな」「写真、見ました」「写真?」「三人で撮った写真です。一条さんが送ってくださって」 雄吾が眉を寄せた。「また絢子から?」「はい」「&he

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  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   偶然のランチ

     昼前。 雄吾が仕事をしていると、秘書から内線が入った。「社長、一条絢子様がお見えです」「絢子が?」「はい。榊原様からお預かりしたものをお届けに来られたとのことですが」 母から。 それなら、何となく用件は想像できた。「分かった。通してくれ」 しばらくして、絢子が紙袋を手に応接スペースへ入ってきた。「仕事中にごめんなさい、雄吾さん」「いや。母から何か頼まれたのか?」「ええ」 絢子は紙袋を差し出した。「この前、雄吾さんが探していたものが見つかったから、渡してほしいって」「ああ、これか」 中を確認し、雄吾は納得する。「わざわざ悪かったな」「ちょうど近くに用事があったから、ついでよ」 絢子はにこやかに笑った。「それじゃあ、私はこれで」「もう帰るのか?」「ええ。渡すだけだから」 絢子が立ち上がる。 雄吾は時計を見た。 もうすぐ昼休みだった。「昼は?」「まだだけど」「なら、食べていけばいい」「え?」「ちょうど俺もこれから昼にするところだ」 絢子は少し驚いたあと、困ったように笑った。「でも……やめておくわ」「どうして?」「だって」 絢子は少し迷ってから口にする。「佳苗さんに悪いもの」 雄吾の眉が寄った。「昼を食うだけだろ」「そうだけど……」「仕事の合間に飯を食うくらいで、いちいち気にする必要はない」「……そうね」 絢子は少し考えたあと、微笑んだ。「じゃあ、お言葉に甘えようかしら」「ああ」     ◇

  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   置いていかれる側

    「……今、泣いてるのか?」 低く静かな声が耳に落ちる。 その一言だけで、張り詰めていた感情が崩れそうになった。 佳苗は慌てて口元を押さえた。「な、泣いてません」『嘘が下手だな、お前は昔から』 昔から。 その言葉に、大学時代の記憶が蘇る。 榊原雄吾。 成績優秀、容姿端麗、誰にも媚びない孤高の男。 学生の頃から有名だった。 近寄りがたい人だったのに、なぜか佳苗にはよく話しかけてきた。『また他人の仕事押し付けられてるのか』『断れないのか、お前は』 呆れたように言いながら、結局いつも助けてくれた。 けれど卒業後は一度も会っていない。 それなのに、どうして今。「どうし

  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   やっと捕まえた

     恵が帰ったあとも、佳苗はしばらく動けなかった。 心臓が嫌なほど脈打っている。 あの目。 一瞬だけ見せた、冷たい視線。 前世では最後まで気づかなかった。 恵はずっと、自分から奪うことを楽しんでいたのだ。「……っ」 佳苗は唇を噛み締める。 怖い。 けれど、それ以上に悔しかった。 どうして自分は、あんな人たちのために命まで懸けてしまったのだろう。 テーブルの上に置かれた結婚写真が目に入る。 幸せそうに笑う自分。 悟の腕に寄り添って、未来を信じ切っていた頃の自分。 ――滑稽。 佳苗は震える手で写真立てを伏せた。 もう戻れない。 戻りたくもない。 今度こそ終わらせ

  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   もう騙されない

    「佳苗? 本当にどうしたんだよ」 怪訝そうな顔で、悟がこちらを見る。 その優しげな声に、佳苗は思わず身を強張らせた。 前世でも、この男はこんな顔をしていた。 穏やかで、頼れて、優しくて。 だから信じてしまったのだ。 まさか裏で妹と不倫し、自分を“代理母”として利用していたなんて、夢にも思わなかった。「顔色悪いぞ。熱でもある?」 悟が立ち上がり、額に触れようと手を伸ばしてくる。「っ……!」 佳苗は反射的にその手を振り払った。 ぱしん、と乾いた音が響く。 悟が目を見開いた。「……佳苗?」 しまった、と思った。 前世の記憶が蘇ったとはいえ、今の悟はまだ“何も知らない夫

  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   私は、代理母だった

    「……っ、はぁ……ぁっ……!」 全身を引き裂かれるような痛みに、藤倉佳苗は汗で濡れたシーツを握り締めた。 眩しい手術灯。鼻を刺す消毒液の匂い。何度も響く機械音。 苦しい。 息ができない。「もう少しです! 頑張ってください!」 医師の声が遠い。 お腹の奥が裂けるように熱い。 それでも佳苗は必死に意識を繋いだ。(赤ちゃん……) やっと会える。 悟との子供。 愛する夫との、大切な命。 その一心だけで耐えていた。 けれど次の瞬間、医師たちの声色が変わった。「血圧低下!」「出血が止まりません!」「急げ!」 視界がぐらりと揺れる。 寒い。 急激に体温が奪われていく。

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