月曜日の朝、佳苗が出社すると、部署内がいつもより少し騒がしかった。「今日から新しい課長が来るんですよね」 隣の席の同僚が、パソコンを立ち上げながら話しかけてきた。「そういえば、今日でしたね」「本社から来るらしいですよ。結構仕事ができる人だとか」 佳苗も異動の話は聞いていたが、詳しいことまでは知らなかった。 ほどなくして朝礼が始まり、部長が一人の男性を連れてきた。「本日付で着任した高瀬課長です」「高瀬です。よろしくお願いします」 三十代後半くらいだろうか。すらりと背が高く、落ち着いた雰囲気の男性だった。 高瀬は簡単に自己紹介を済ませると、部署全体を見渡した。「まずは皆さんの仕事を把握したいと思っています。今までのやり方を急に変えるつもりはありませんので、いろいろ教えてください」 穏やかな口調だった。 もっとも、新しい上司がどんな人物なのかは、一緒に仕事をしてみなければ分からない。 佳苗はそう考えながら、自分の席へ戻った。 ◇ 午前中、高瀬は部署内を回り、担当者から業務内容の説明を受けていた。 佳苗の順番が来たのは、昼休みの少し前だった。「榊原さんは、請求書の照合と契約関係の事務を担当されているんですね」「はい。ほかに月次の集計資料も作成しています」「少し見せてもらってもいいですか?」「もちろんです」 佳苗は管理している資料を開き、処理の流れを説明した。 高瀬は途中で何度か質問したものの、話を遮ることなく最後まで聞いていた。「なるほど。こちらの確認表も榊原さんが?」「はい。以前、発注金額と請求金額に食い違いがあったので、確認項目を追加しました」「ああ、その件は引き継ぎ資料にもありました。十万円の差額を発見されたんですよね」「そうです」「これなら担当者が変わっても確認できますね。よく整理されていると思います」
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