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次の約束

Author: 影畑凛星
last update publish date: 2026-10-07 08:03:50

 水族館から帰った翌日。

 佳苗は昼休みにスマートフォンを開き、昨日撮った写真を見返していた。

 大きな水槽、ペンギン、色鮮やかな魚。

 その中に一枚だけ、雄吾の写真がある。

 佳苗が何気なく撮ったもので、雄吾は水槽の前でこちらを見ていた。

「榊原さん、楽しそうですね」

 声をかけられて顔を上げると、高瀬が近くに立っていた。

「あ、お疲れさまです」

「昨日どこか行ったんですか?」

「夫と水族館に行ってきました」

「いいですね。休日らしい」

「はい。久しぶりに一日遊びました」

 答えながら、佳苗は自然と笑っていた。

「じゃあ、午後もよろしくお願いします」

「はい」

 それだけで高瀬は離れていく。

 佳苗は再び画面へ目を落とした。

 少し前なら、家に帰ってから雄吾に「高瀬課長に水族館のこと聞かれたよ」と報告していたかもしれない。

 けれど、さすがにこれは言わなくてもいいだろう。

 別に隠すことでもない。

 単に、雄吾をからかうためだけに高瀬の名前を出すのは、そろそろやめようと思った。

     ◇

 その夜。

「雄吾、これ」

 夕食のあと、佳苗は昨日買ったペンを指した。

 雄吾の胸ポケッ
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     旅行の日は、思ったより早くやってきた。 土曜日の朝、佳苗は小さな旅行バッグを持って玄関へ向かった。「これくらいでいいかな」「一泊だろ。十分だ」「忘れ物しても知らないよ?」「現地で買えばいい」「雄吾はそう言うと思った」 結局、行き先を決めたのは雄吾だった。 都心から車で二時間ほど。山あいにある温泉地だという。「宿は?」「着いてからのお楽しみ」「またそれ?」「部屋に露天風呂があるところ、って希望は聞いた」「じゃあ期待していいんだ」「ああ」 助手席に座りながら、佳苗は笑った。     ◇ 途中で昼食を取り、温泉街へ着いたのは午後三時前だった。 車窓から古い旅館や土産物店が見える。「あとで歩きたい」「いいぞ」「温泉まんじゅうも食べたい」「夕飯食えなくなるぞ」「一個くらい平気」 そんな話をしているうちに、車が一軒の旅館へ入っていく。 派手ではないが、門をくぐった先には手入れされた庭が広がっていた。「ここ?」「ああ」 案内された部屋へ入った佳苗は、思わず足を止めた。 広い和洋室の向こうに、小さな庭と露天風呂が見える。「すごい……」「気に入ったか?」「うん。でも、これ絶対高いでしょう」「また値段を気にしてるのか」「するよ」「俺が泊まりたくて選んだんだからいいだろ」 そう言われてしまえば、それ以上は何も言えない。 佳苗は窓際まで歩き、外を覗いた。「本当に二人だけで入れるんだ」「そのための部屋風呂だろ」「そうだけど」 そこでようやく、自分の言葉の意味に気づいた。 夫婦なのだから、別におかし

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     水族館から帰った翌日。 佳苗は昼休みにスマートフォンを開き、昨日撮った写真を見返していた。 大きな水槽、ペンギン、色鮮やかな魚。 その中に一枚だけ、雄吾の写真がある。 佳苗が何気なく撮ったもので、雄吾は水槽の前でこちらを見ていた。「榊原さん、楽しそうですね」 声をかけられて顔を上げると、高瀬が近くに立っていた。「あ、お疲れさまです」「昨日どこか行ったんですか?」「夫と水族館に行ってきました」「いいですね。休日らしい」「はい。久しぶりに一日遊びました」 答えながら、佳苗は自然と笑っていた。「じゃあ、午後もよろしくお願いします」「はい」 それだけで高瀬は離れていく。 佳苗は再び画面へ目を落とした。 少し前なら、家に帰ってから雄吾に「高瀬課長に水族館のこと聞かれたよ」と報告していたかもしれない。 けれど、さすがにこれは言わなくてもいいだろう。 別に隠すことでもない。 単に、雄吾をからかうためだけに高瀬の名前を出すのは、そろそろやめようと思った。     ◇ その夜。「雄吾、これ」 夕食のあと、佳苗は昨日買ったペンを指した。 雄吾の胸ポケットに挿さっている。「今日使ったの?」「ああ」「本当に会社に持っていったんだ」「使うって言っただろ」「そうだけど」 佳苗はなんとなく嬉しくなって、そのペンを眺めた。「会社の人に何か言われなかった?」「部下に珍しいって言われた」「何て答えたの?」「妻にもらったって」「……普通に言ったんだ」「隠す理由がないだろ」 雄吾にとっては当たり前らしい。 佳苗は少し照れながら、隣へ座った。「そういえば、次のデートは?」「もう考えてる」「早い!」「お前が楽しみにしてるって言ったからな」「どこ?」「まだ決めてない」「考えてるだけ?」「ああ」 雄吾はスマートフォンを取り出した。「泊まりでもいいか?」「え?」「次の土日。予定は?」 突然話の規模が大きくなった。「ちょっと待って」 佳苗も予定表を確認する。「今のところ何もないけど……旅行するの?」「近場で一泊くらいならいいだろ」「いいけど、急だね」「最近、まともに二人で出かけてなかったからな」 その言葉に、佳苗は少し考えた。 確かに結婚してから、生活そのものはずっと一緒にある。 朝起きて、仕

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     土曜日。 佳苗は朝から、何を着ていくかで少し迷っていた。 雄吾から聞いているのは、昼前に出ることと、あまり歩きにくい靴はやめておけということだけだ。「これなら大丈夫かな」 結局、きれいめのワンピースに小さなバッグを合わせた。 部屋を出ると、待っていた雄吾が佳苗を見る。「それで行くのか?」「うん。変?」「いや。似合ってる」「じゃあいいけど……本当にどこに行くの?」「着けば分かる」 今日まで行き先を教える気はないらしい。     ◇ 車を降りた佳苗は、目の前のホテルを見上げた。「……ここ?」「ああ」 都心でも名の知られた高級ホテルだった。 エントランスを抜けた先には広々としたロビーがあり、大きな花が飾られている。 周囲を行き交う客も、どこか余裕のある雰囲気だ。「雄吾」「何だ?」「普通の服でいいって言ったよね?」「普通だろ」「私にとっては普通だけど!」 思わず自分のワンピースを見下ろす。 別に浮いてはいない。周囲にも同じような服装の女性はいる。 それでも、先にこのホテルだと知っていたら、もう少し悩んでいたと思う。「似合ってるから問題ない」「そういう問題じゃないんだけど……」「行くぞ」 雄吾はまったく気にした様子もなく歩き出した。 案内されたのは、上階のラウンジだった。 窓際の席から街を一望できる。「もしかして、ここでご飯?」「アフタヌーンティー」「えっ」 佳苗はメニューを開き、並んでいる写真に目を輝かせた。 季節の果物を使ったケーキやタルト、小さなサンドイッチ。 可愛い。

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  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   置いていかれる側

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  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   もう騙されない

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  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   私は、代理母だった

    「……っ、はぁ……ぁっ……!」 全身を引き裂かれるような痛みに、藤倉佳苗は汗で濡れたシーツを握り締めた。 眩しい手術灯。鼻を刺す消毒液の匂い。何度も響く機械音。 苦しい。 息ができない。「もう少しです! 頑張ってください!」 医師の声が遠い。 お腹の奥が裂けるように熱い。 それでも佳苗は必死に意識を繋いだ。(赤ちゃん……) やっと会える。 悟との子供。 愛する夫との、大切な命。 その一心だけで耐えていた。 けれど次の瞬間、医師たちの声色が変わった。「血圧低下!」「出血が止まりません!」「急げ!」 視界がぐらりと揺れる。 寒い。 急激に体温が奪われていく。

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