その頃、下の階の応接間では、クリスカさんと父『七見 士郎』が正対して紅茶を前に、当事者抜きで談笑をしていました。 暖色の落ち着いた照明に彩られる静かな高級感を放つ一室。革張りのアンティーク調のソファーにクリスカさんは座り、秘書も兼ねる壮年の使用人がすかさず紅茶を注いでテーブルに出します。 「こちらへいらっしゃるとお電話で頂いた時は驚きましたが、光莉と一緒だったとは」 「あの子とは偶々よ。高速列車のホームで声も漏らさずに泣いているのだもの。気になるじゃない?」 「娘がお見苦しい場面を。その寛大な慈悲に感謝を申し上げます」 座ったまま一礼し、士郎はティーカップを取りました。澄んだ茜色のフレーバーティーは柑橘系の爽やかな香りを部屋に漂わせていて、クリスカさんも釣られて紅茶に口をつけました。 「先ほどの様子を見るに、道中数々のご無礼があったと見受けられるのですが、どうかお許し願いたい」 カタンとティーカップが受け皿に置かれて、クリスカさんはキョトンと士郎を見つめました。身震いして小さく笑ったのはその直後の事です。まるで思い違いを面白がっているように顔を背けて、堪えるように丸めた身体を真正面に直します。 「無礼なんてとんでもない。突然連れ出したのは私ですし、名乗らなかったのは事実。顔が本家の使用人に空似していたから、躊躇ったというのもあるのだけど」 「左様でございますか」 力強い視線がクリスカさんから返り、士郎もホッとした様子で肩の力を少しだけ抜きました。 「無礼と言えば、あなた達の方がよっぽど目に余るわ」 それを悟ってか、クリスカさんの放った一言が二人の空気を凍らせます。 「……僭越ながら、理由をお伺いしても?」 「光莉の瞳、死んでいたわ。あそこまで娘を放置するなんて、常軌を逸している、としか言えないもの」 「事情を伺われたのですね」 「数多の星が輝く空の下で洗いざらい、ね」 「追い出され続ければ、傷だらけにもなりましょう。身の程を知り、大人になればいずれ自ずと道を開いてくれると、信じて好きなようにさせてはいましたが」 刹那、クリスカさんの表情が強張りました。 「大人になる——ね。フフッ」 「何かございますか?」 「そしたら私は、まだ子供と言うことになるわよ?」 「クリスカ様が子供?」
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