「今日から、少し仕事が変わる」 九条さんに、そう告げられた。 完全に経理へ入るわけじゃない。営業後の売上照合。領収控えの整理。送り表との突き合わせ。日次の簡易確認。その手伝いから始まる、という話だった。 私は説明を聞きながら、店の構造を頭に入れていた。金庫の位置。事務机の配置。保管箱がどこにあるか。まだ金庫そのものに触る権限はない。でも、誰が何を持って入り、何を持って出るかは見える。その位置に私は立たされた。 「日次確認のやり方は、こいつが教える」 九条さんが会計担当のスタッフを示した。例の売上を抜いていた件で残った人ではない。別の若いスタッフだ。けれど、彼も面白くなさそうな顔をしていた。新人同然の女に数字を触らせることへの警戒が、態度に出ていた。 歓迎されていない。それは、すぐにわかった。 会社でも同じだった。便利に使われながら、輪の中には入れてもらえない。給湯室で私が来ると会話が止まる、あの感じ。慣れている。慣れてしまった自分が少し嫌だった。 でも、見ているうちに、別のことに気づいた。 綾月のバックオフィスは、思ったより人間頼みだった。高級店なのに。誰がいつ何を直したのか。それがどこにも残っていない。全部、その場の記憶で回している。修正履歴がない。属人的すぎる。 つまり、誰かが抜こうと思えば、いくらでも抜ける。記録が残らないから、後から辿れない。先日の売上の傷も、たぶんこの穴を使っていた。傷の手口より、傷ができる土壌の方が問題だった。 会社なら、ありえない。けれど、ここではそれが当たり前らしい。 私は、指摘を飲み込んだ。 まだ早い。最初は覚える側に徹する。出しゃばって嫌われ
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