澪の足が止まる。 夜風が二人の間を静かに吹き抜けた。「……美羽ちゃんの、ことなんだけど……」 拓真は言いにくそうに視線を伏せる。 ここで話すべきか。 迷いがなかったと言えば嘘になる。 けれど――。「澪には、知っておいてほしい」 その声は真剣だった。澪の表情が強張る。しっかりと体を拓真の方に向けて向き合った。「美羽が……どうしたの?」 拓真は小さく息を吐いた。「最近、様子がおかしい」「様子……?」「あいつ、この前の華道展のあとから、神宮寺さんのことをやたら気にするようになった」 澪は思わず眉を寄せる。 展覧会の日。 美羽は確かに会場へ来ていた。 綾人に突然触れようとして、澪が間に入って止めた日だ。忘れることなんてできない。「神宮寺さんのこと、結構調べてるみたいで……」 チラリと見たスマホの検索履歴。 華道になんて興味がないのに、家に増えていく華道の雑誌。「最初は興味本位かと思ってた」 拓真は苦く笑う。「でも違う。美羽ちゃん……何か考えてる」 澪の胸が小さくざわついた。「この前も言ってただろ。『拓真さんを返してあげる』って」 その言葉を聞いた瞬間、澪の脳裏にあの日の美羽の笑顔がよみがえる。 無邪気で。けれど、どこか底知れなかった笑み。「正直、あのときは意味が分からなかった。あの後、俺、家に帰ってからも言われたんだ。『お互い、欲しいものを取り返そう』って」 拓真は苦しそうに続ける。「今なら分かる。あいつは、最初から俺のことが好きだったわけじゃない」 その先を口にするのをためらう。けれど、もう隠す必要はなかった。「……美羽ちゃんの目的は、澪の大切な人を奪うことだ」 静かな夜に、その言葉だけが重く落ちた。「そんな……」 澪は思わず息を呑む。「どうして……?」「理由は分からない。でも、純粋な恋心なんかじゃない」 拓真は自嘲するように笑う。「俺は、一度それを見誤った」 美羽の涙。 甘える声。 守ってあげたくなるような仕草。 全部、本物だと思っていた。 だから気づけなかった。「もう同じ失敗はしたくない」 拓真は真っ直ぐ澪を見た。「だから伝えたかった。」「……」「もし何かあったら、一人で抱え込むな。神宮寺さんを信じろ」 その言葉に、澪は目を見開いた。 まさか拓真の口から、そんな言
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