個展の開催が正式に決まってから数日後。 澪は綾人とともに、小さなギャラリーを訪れていた。 街の一角に佇む木造の建物。 白い壁には蔦が優しく絡み、小さな庭には季節の花が風に揺れている。「まぁ、来てくださったんですね」 扉を開けると、穏やかな笑顔の女性が出迎えてくれた。 ワークショップで出会った、あの白髪の女性。「本日はよろしくお願いいたします」 澪が深く頭を下げると、女性も嬉しそうに微笑む。「こちらこそ。ずっと楽しみにしていました」 ギャラリーの中は木の温もりに包まれていた。 大きな展示会場ではない。 けれど、その分、一輪一輪の花をゆっくり眺められるような、優しい空間だった。「こちらで十五点ほど展示していただければと思っています」 オーナーは壁や展示台を指差しながら説明していく。 澪は真剣な表情で頷き、一つひとつ確認していった。「そして、もしよろしければ、今回の個展にテーマを付けていただけませんか?」 オーナーは優しく笑う。「テーマ……ですか?」「ええ。作品を見に来てくださる方へ、白石先生が一番届けたい想いです」 その言葉に、澪は少し考え込んだ。 届けたい想い。 今、自分が一番伝えたいもの。 すぐには答えが見つからなかった。「急がなくても大丈夫ですよ」 オーナーは湯呑みにお茶を注ぎながら柔らかく笑う。「花は不思議ですから。無理に言葉を探さなくても、その方らしい答えを運んできてくれます」「……はい」 澪も自然と笑みを返した。 ◇ 打ち合わせを終えた帰り道。 ゆっくりと並んで、紅葉に満ちた並木道を歩く。「テーマ、難しいですね」 澪が小さく笑う。「まだ全然思い浮かばなくて」 綾人は前を向いたまま答えた。「難しく考えるな」「え?」「お前が今、一番伝えたいことでいい。前の展覧会のときも、そうだっただろ」 綾人からは余計な説明もアドバイスもない。 けれど、その言葉は澪の胸へ静かに落ちていく。(そっか。私が、一番伝えたいこと……) 答えはまだ見つからないままだけれど、不思議と不安はなくなった。 澪は神宮寺家の屋敷までの道を歩きながら、小さく世界を見渡した。 ◇ その夜。自室の机に向かった澪は、一冊のノートを開いた。 白紙のページに思いつく言葉を書いていく。『季節』『笑
اقرأ المزيد