ホテルスタッフは無線機へ手を伸ばした。「警備をお願いします。ホテル正面階段でトラブルが発生しました」 その声を聞いた瞬間だった。「や……! 本当に違うんです!」 美羽の表情が大きく歪み、必死に首を振る。「私は本当に、お姉ちゃんを助けようとして――」「白石美羽」 綾人が静かに遮る。「それが本当なら、警備に好きだけ話せ」 その一言で、美羽の顔色はみるみる青くなっていく。いつものように自分を擁護してくれる人はいないのか、と周りを見回すが、美羽を見つめる瞳はどれも冷たいものばかりだった。 ◇ 澪はその場へ立ったまま、小さく震えていた。 今になって足から力が抜けていく。 もし綾人が間に合わなかったら。 もし、あの腕が届かなかったら。 そう考えた瞬間、全身がぞくりと震えた。「澪」 綾人のその声は、先ほどまで美羽に向けられていたものとは違って柔らかかった。「そこに座れ」「……でも」「いいから」 短く言うと、綾人は澪の体を支えながら、ゆっくりと階段に座らせた。 綾人は数段下がった場所にしゃがみ込み、澪の足元を見る。「足を見せてみろ」「は、はい……」 澪は少し戸惑いながら足を差し出した。片方のパンプスは階段の途中に落ちたままだ。差し出した澪の足は細かく震えている。綾人は、その足首にそっと触れると、軽く掌で包むように撫でた。「痛くないか」 綾人の体温が、冷えた足をじんわりと温めてくれる。「……はい」「捻ってもいないな」 澪は小さく頷き返した。「大丈夫です」と呟くように返された言葉を聞いて、綾人は、ようやく安心したように息を吐いた。「よかった」 そう綾人の肩の力が微かに抜けたのが分かった瞬間、澪の目から、一滴、涙が零れ落ち、頬を伝った。涙が、ぽつりと膝の上で握った手の上に落ちる。「……っ」 怖かった。 今さら、その感情が押し寄せてくる。「澪」 綾人はそっと手を伸ばし、澪の頬を伝う涙を拭う。「綾人くん……」 澪は、震える声で綾人の名前を呼ぶ。 綾人は何も言わず立ち上がると、澪の肩へ自分のジャケットを掛け、抱き締めた。 震える体を隠すように。 初めて出会った日の、あの雨の中のように――。「もう大丈夫だ」 綾人は、澪の背中に回した腕に力を込めた。強く、けれど、大切なものを壊さないように。「
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