英玲奈side引き出しからハサミを取り出すと、微かに震える手で、刃先がファイルを傷つけないよう、細心の注意を払いながらゆっくりと刃を動かしていく。「一体、何が入っているというの……」慎重にポケットに手を入れると、中から出てきたのは一本の古いUSBメモリだった。 拾い上げ、まじまじと見つめる。もし仕事のデータをUSBに保存して残すにしても、こんな風に糊付けしていたら開くたびに手間がかかり面倒だ。それに重要な仕事のデータであればデザインファイルの背表紙へ糊付けされたポケットに隠すというのは、あまりにも不自然で異様だ。鞄からノートパソコンを取り出して、メモリをポートに差し込む。カチリと認識音が響き、画面に表示されたのは、強固なロックがかけられた特殊な暗号フォルダだった。生前、デザイナーとして服作りにすべてを捧げていた母は、お世辞にも機械に強い方ではなかった。どちらかと言えばPCの操作には疎く、母の隣にはPCではなくいつも紙と鉛筆が置かれていた。そんな母が、わざわざ専門のソフトウェアを使って暗号化されたファイルを保管している。その事実だけでも、この中にあるデータがどれほど重大なものであるかを嫌というほど想像させた。母が立ち上げた会社名や誕生日を入れてもエラーではじかれてしまう。 私は記憶を必死に手繰り寄せて、母が使用しそうなパスワードの組み合わせをいくつか打ち込んだ、その時だった。――カチリ、と軽快な音がして画面のロックが解除された。
Terakhir Diperbarui : 2026-07-10 Baca selengkapnya