All Chapters of すべてを失った元令嬢は世界を支配する男の愛を纏う: Chapter 31 - Chapter 40

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31.想定外

陽向side部下である新規事業部の部長に丸投げして無理やり作らせた二期目の事業計画書。あの役員会議での醜態から一か月が過ぎ、「これでなんとか形にはなった」と俺は胸を撫で下ろしていた。 だが、そんな俺を嘲笑うかのように次々と悪夢が襲いかかる。わずか二か月の間に、為替相場は一気に1ドルあたり20円も暴騰したのだ。英玲奈がこの新規事業を立ち上げた当初には想定されていなかった歴史的な為替の激動だった。為替変動の影響というものは恐ろしい。 製品の売上や契約自体が消えるわけではないが、海外から調達している部材の輸入原価だけが、タイムラグなくダイレクトに響いてくる。製品を日本で取り扱っている我々は、契約を履行すればするほど、原価率が圧迫されて会社の手元に残る利益が削り取られていくのだ。そして、まだ事業を開始して歴が浅いこの部門は、原価率上昇に耐えられるだけの利益のプールなど何もなかった。このままの状況が続けば、新規事業部は期待の事業から一転して負債を生みだすお荷物事業として冷ややかな視線を浴びることだろう。世界情勢が原因で、俺のせいではないが、赤字事業を指揮するなんてイメージが悪い。「——というわけで、南雲副社長」緊急で開催された役員会議の場で、役員が冷ややかな目線を俺に向けて放った。
last updateLast Updated : 2026-08-07
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32.打開策

陽向side「南雲副社長、例の二期目における為替対策を含めた事業計画書ですが……提出の期限を過ぎておりますが、進捗状況についてお聞かせ願いたいのですが」副社長室で書類に判を押していた俺の元にベテラン役員が強気の姿勢で俺に歩み寄ってくる。この前の役員会議で皆の前で恥を書かせたあの役員だ。「分かっている……。私は南雲グループ全体の指揮を執っていて多忙を極めているんだよ。現場の経営判断というものは、拙速に行うべきではない。為替の動向や市場のデータを慎重に見極めているところだ」「……慎重に、ですか。ですが原価の高騰は待ってくれませんよ」「そんなこと言われなくても承知している。出来たら連絡するからそれまでは何も言うな」そう言って追い払ったものの、俺は内心冷や汗でヒヤヒヤしていた。 言い訳をして時間を稼いでいたものの、当然ながら俺の頭の中に解決策など一つも浮かんでいない。為替リスクヘッジ? サプライチェーンの再構築? 専門用語を聞くだけで頭が痛くなる。(クソッ……! なんで俺がこんな苦労をしなきゃいけないんだ。英玲奈みたいに勝手に動いてくれる奴さえいれば、こんなことにはならなかったのに&hel
last updateLast Updated : 2026-08-08
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33.東洋バンク

陽向side何の具体策も打たないまま月日だけが過ぎ、新規事業部は日を追うごとに恐ろしい勢いで赤字を垂れ流し続けていた。だが、惨状はそれだけに留まらなかった。急激な円安の波と原価高騰の波及は、新規事業部だけでなく海外からの素材調達に依存していた南雲グループの他部門にもじわじわと広がり始めていたのだ。今の南雲には英玲奈のようにリスク管理を行い、調整や指揮を取ることができるほど力を持つ人間は不在だった。決算の数字が固まるにつれ、社内には重苦しい空気が立ち込めている。 南雲グループ全体が、初となる巨額の赤字へと転落しそうなのだ。「陽向君……!これは一体どういうことだ! 新規事業でグループを牽引するどころか、全社的な赤字に陥るなんて……! 役員たちや株主になんと言い訳をすればいいんだ!」あれほど俺を褒め称えていたにも関わらず、社長室で義父である厳一郎が顔を真っ赤にして怒声を上げている。俺は、役員会議で何度も言ってきた言葉を呪文のように繰り返す。「社長、お言葉ですが、今回の赤字は歴史的な円安という世界的な社会情勢が原因です。他社も同様に苦しんでいる以上、一概に解決策を取れるものではありません」「言い訳を聞いているんじゃない!南雲は新規事業の失敗で他
last updateLast Updated : 2026-08-09
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34.融資

陽向side東洋メガバンクへの五十億円に及ぶ巨額融資の申請は、第一段階である書類審査を無事に通過したという報告を受けた。その日、俺と義父と社長室で固く握手を交わし、胸を撫で下ろしていた。「よくやった、陽向君! 書類審査が通ったということは、融資が決まったも同然だ。これでしばらくは南雲の資金繰りも安定して、今まで通り資金を投入できるぞ。今回得た融資で南雲の事業を巻き返すぞ」「ええ、お父様。私を信じて任せてくださり、ありがとうございます。今回の融資で役員や株主どもにも、ぐうの音も出せない成果を示せます」あれほど社内を揺るがしていた円安の嵐も、この一か月ほどは連日のような暴騰が止まり、一定のレートで落ち着きを取り戻しつつあった。 急激な原価の高騰によって前期の決算は大きな打撃を受けたがピークを過ぎたのであれば恐れることはない。(なんだ、急激な円安のせいで決算への影響は大きかったが、今後も同じようなレートで推移するなら最初からその為替レートを前提にして予算や原価を試算し直しておけばいいだけの話だ。大したことなかったじゃないか。もう大丈夫だろう……)AIで作った適当なスライド表と、今のレートを当てはめただけの修正案があれば、危機など乗り越えられる。この時の俺は、完全に経営を舐めきっていた。そして迎えた、融資実行の最終決定が通達される日。俺と社長は社長室でソファーに腰掛けて朗報を待っていた。融資担当である東洋メガバンクの常務から連絡が入る手はずになっているのだ。「五十億が振り込まれれば、他部門の穴埋めも出来て新規事業の設備投資にも着手できる。結愛も喜ぶだろう」「はい。この新規事業は南雲の社運がかかっています。今の南雲は、二代先の後継者となる男児の誕生もして波に乗っているはずです。融資を元手にさらなる成長も期待できるでしょう」その時、静寂を破って社長のスマホの着信音が部屋中に響き渡った。「来たぞ……!」厳一郎が顔をほころばせ、勢いよく通話に切り替え、スピーカーに切り替えた。「もしもし! 南雲です! 常務、お待ちしておりましたよ!」「……南雲社長、そして陽向副社長。お世話になっております」受話器から聞こえてきた常務の声は、これまでのゴルフコンペや会食で見せていた愛想の良いトーンとは打って変わり、氷のように冷ややかに沈んでいた。 俺と社長は一瞬顔を見合
last updateLast Updated : 2026-08-10
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35.融資の裏側

英玲奈sideここ二か月の急激な円安は、株式市場全体に大きな爪痕を残していた。 特に輸入依存度の高い企業の株が容赦なく売られ、狼狽売りがさらなる売りを呼ぶ悪循環となり、相場全体が急下落へと転じていたのだ。「今は、市場がパニックを起こし、誰もが正常な判断力を失っている状態……つまり、我々にとっては願ってもいない絶好のチャンスだ。この値動きのパターンは今現在だけではなく、今後の検証データとしても大いに役立つ。引き続き注視してくれ」外出先から帰ってきた凱は、社長室に入る直前、報告にきた役員へ淡々とそう告げた。彼の言葉を聞いた私たちは、改めて気が引き締まる思いで目の前のモニターへと視線を戻し、業務へと戻った。それから五分後、凱から新たに株価動向を確認すべき企業のリストがメールで送られてきたが、 件名は『リスト追加 日本株』。不審に思いながら添付ファイルを開くと、そこには四桁の数字で構成された日本企業の銘柄コードがずらりと並んでいた。(日本株……? 送り間違えたのかしら)私の普段の管轄は国外企業であり、主にアメリカや中国の不動産分野の分析をしている。日本株のモニタリングは本来の担当外だ。疑問を抱きながらリストをスクロールしていくと、上から十三番目にその名前があった。
last updateLast Updated : 2026-08-11
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36.融資の裏側②

凱side「ああ、そうだ……あのパーティー会場で挨拶を交わした中に、東洋バンクの藤堂常務も含まれていた」俺は、あの懇親会の日のことを想いだしていた。煌びやかな会場で南雲もトップ企業の一つとして堂々と参加していたあのときの事を―――あの日、アレスファンドの社員として初めて大きなパーティー会場に立っていた英玲奈。俺は彼女から少し離れた場所に身を置き、周囲の人間たちの英玲奈に対する反応を静かに観察していた。その傍らで東洋メガバンクの融資担当常務である藤堂と挨拶を交わしていたのだ。『三越代表、相変わらずお忙しそうですね。ご活躍はかねがね耳にしておりますよ』『ありがとうございます。藤堂常務には、日頃から大変お世話になっております。……そういえば、御行が長年メインバンクを務めている南雲グループですが、少し気にかかる話を耳にしましてね』手に持ったグラスを僅かに傾け、俺が淡々と切り出すと藤堂常務は不審そうに眉をひそめた。『南雲さんですか? ……何か懸念でも? 新規事業も順調だと聞いておりますが……』『ええ。実を言えば、我が社で新たに非常に優秀な人間を迎え入れましてね。——南雲の元幹部である、南雲英玲奈です』
last updateLast Updated : 2026-08-12
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38.見切り

陽向side「——今回の新規事業における大失態、および東洋メガバンクからの融資白紙に伴う信用失墜の主因は、すべて南雲陽向副社長の独断と不適切な経営判断にある」緊急役員会の場で、義父が言い放った言葉に俺は耳を疑った。「し……社長!? 何を仰っているのですか! 事業計画の承認も、銀行への打診も、すべて社長のご了承のもとで進めてきたはずです!」「黙りなさい、陽向君」義父は眉ひとつ動かさず、氷のように冷たい視線を俺に向けた。かつて俺を「後継者」として歓迎してくれた頃の温もりなど微塵もなかった。あるのは、己の保身のために責任をすべて部下に擦り付けようとする醜く冷酷な顔だけだった。「私は君の成長を期待して権限を与えたが、君は杜撰な計画書で銀行を失望させた。君の慢心と指導力のなさが、会社をここまで追い詰めたのだ。……今後の処分と進退については、事態の収束を見てから厳しく追及させてもらう」「そんな……!」解任こそ免れたものの全責任を俺一人になすりつけようとする宣言だった。 役員たちの冷ややかな視線が一斉に俺へと突き刺さる。かつて俺を持ち上げていた幹部たちも誰一人として助け舟を出そうとはしない。「会
last updateLast Updated : 2026-08-14
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39.愛の囁き

陽向side東洋メガバンクからの追加融資拒否を口切りに、他行からの返済圧力と金利引き上げが襲いかかり、南雲グループの資金繰りは完全に底を突こうとしていた。 会社へ行けば義父・厳一郎から冷酷な視線を向けられ、家に帰れば結愛から「お金が出せないなら離婚して賠償金を払いなさい」と金切り声を浴びせられる。かつてのプライドも誇りも、何もかもが完全に粉砕された俺は、ある一つの答えにたどり着いていた。(……英玲奈だ。英玲奈しかいない……!)頭を抱える暗闇の中で脳裏に浮かんだのは、かつて俺を献身的に支え続けてくれた英玲奈の姿だった。ビジネスの商談も収支計画も、すべてを黙々と背負ってくれた英玲奈。俺のために、いつでも寄り添ってくれていた英玲奈。 どれほど都合が良いと思われようと構わない。今の俺を救い出せるのは、英玲奈だけかもしれない。翌朝、出社してくる英玲奈を待ち伏せするために俺は朝一番でアレスファンドが入居するオフィスビルのエントランスへと向かった。出勤するビジネスマンたちが行き交う中、シワだらけのスーツを着た俺は入口脇で必死に目を光らせていた。しばらくすると人混みの中から凛と佇まいで歩いてくる英玲奈の姿が視界に入った。「英玲奈……! 英玲奈ぁ!」人目も憚らず、出勤してきた社員たちの波をくぐりぬけて英玲奈の前へ躍り出た。英玲奈は驚いた顔をして目を大きく見開いている。「頼む、英玲奈! 俺を助けてくれ! 南雲が……大変なことになっているんだ!英玲奈がいなくなってから、全部がおかしくなった! 俺にはお前が必要なんだ!」周囲からざわめきと好奇の視線が注がれる。だが、今の俺にプライドなど一端も残っていなかった。俺は膝から崩れ落ち、通りかかった社員たちの目の前で、英玲奈の足元に縋り付いた。「俺はバカだった! 結愛やお義父さんの言葉に惑わされて、一番大切な英玲奈を裏切るようなことをしてしまった…… だけど、失って初めて気づいたんだ! 夜遅くまで俺のために資料を作ってくれていたことも英玲奈だ……! 俺を本当に愛して、支えてくれていたのに…… 俺に必要なのは英玲奈なんだ!」周りが見ていようが関係ない。過去の思い出を並べ立て、俺がいかに後悔し、いかに英玲奈を求めているかをなりふり構わず訴えた。大勢の前でこれほど哀れに乞えば、かつて優しかった英玲奈なら、きっと胸を痛めて手を差し伸べて
last updateLast Updated : 2026-08-15
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40.凱の提案

英玲奈side朝、会社のエントランスで出勤途中の社員たちが足を止め、遠巻きに冷ややかな視線を向けている。「俺に必要なのは英玲奈なんだ!」人目も憚らず、私に助けを求めるように懇願する陽向。シワだらけの高級スーツ、乱れた髪、そして必死さに歪んだ顔。かつて私を見下し、追いやった男の影など欠片も残っていなかった。周囲の好奇の目に晒されながら、愛だの後悔だのと並べ立てる陽向の姿を目にして、私の胸に湧き上がってきたのは、怒りでも悲しみでもなく、呆れだった。(……どこまで惨めで、どこまで自分勝手な人なのだろう)私の成果を自分の実績かのように横取りし、自身の秘書である結愛と浮気を重ねて捨てたのに、自分が窮地に陥った途端に過去を美化し、愛を求めて泣きつくだなんて……完全に心が離れてしまった男の無様な泥足掻きは、あまりにも哀れで滑稽でさえあった。「……離して。私に泣きつけば助けるとでも思っていたの? 私はもうあなたの都合のいい女なんかじゃない」「え、英玲奈……誤解だ、僕は英玲奈のことを都合のいい女だなんて一度も思っていないよ! それに……あんなことがあったけれど、真剣に英玲奈とのことも考えていたんだ。本当に英玲奈の事を愛していたんだ!」必死な
last updateLast Updated : 2026-08-16
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