英玲奈side「南雲の株を全て売り渡す?……そんなこと出来るわけないだろう……!」震える声で叫ぶように反論する陽向に、凱は冷たく鋭い視線を突き付ける。それだけで陽向は情けなく後ずさりし、今にも尻もちをついてしまいそうなくらいに縮み上がっていた。「……そうだよな。お前は所詮、社長の南雲厳一郎の都合のいい駒でしかないもんな。お前のところの社長は、お前のことを信用も認めてもいない。ただ何でも言うことを聞く、頭はよくないが家柄だけはある人間が欲しかっただけだ。どうせそのうち責任を取れとでも言って、お前の実家に金銭を要求するんじゃないのか?」「……そ、そんなわけないだろう! 俺は、南雲の後継者として選ばれて結婚したんだぞ! その俺が利用されているだと……? いい加減にしろっ……!」「それなら、なぜ株式を売り渡すことが出来ない? 後継者になるお前なら、それくらいの決断は出来るんじゃないのか?」「……き、急に言われても返答できるわけがないと言っているんだ! 全株式にどれだけの資産価値があると思っている! まったく話にならない……帰る!」逃げるようにして早足でオフィスを後にしていく陽向の背中を、凱は呆れたような顔で、つまらなさそうに見送っていた。「お前の元婚約者は、プライドだけは高い無能なお坊ちゃまか。よくあんな男と結婚する気になったな」「……そんな言い方しないでよ。私だって好きで婚約したわけじゃないわ。でも……あなたの言う通りね。あんな男と結婚しなくて、本当によかった」本心から出た私の言葉に、凱はふっと口元をゆるめた。「そうだな。そのおかげでお前は俺と結婚することが出来たんだからな。婚約破棄して正解だったろう?」「はっ……? 何言ってるのよ」凱はそれだけ言い残すと、私に背を向けてすっとオフィスへと向かって歩き出した。 一歩前を歩く凱の背中を追いかけながら、私はふと、凱のワイシャツの襟元に目を奪われた。いつも綺麗に整っているはずの首元がほんの少しだけ汗ばみ、肌に生地が張り付いている。(……え?)違和感を覚えて胸が高鳴った。 陽向に絡まれている時は余裕がなくて気づかなかったけれど、凱はいつも専属の運転手に車で送り迎えをされ、役員専用の地下駐車場から直接エレベーターでオフィスへ向かうはずだ。社員が行き交う一階の正面エントランスに顔を出すことなんて絶対にあ
آخر تحديث : 2026-08-18 اقرأ المزيد