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41.独占欲

英玲奈side「南雲の株を全て売り渡す?……そんなこと出来るわけないだろう……!」震える声で叫ぶように反論する陽向に、凱は冷たく鋭い視線を突き付ける。それだけで陽向は情けなく後ずさりし、今にも尻もちをついてしまいそうなくらいに縮み上がっていた。「……そうだよな。お前は所詮、社長の南雲厳一郎の都合のいい駒でしかないもんな。お前のところの社長は、お前のことを信用も認めてもいない。ただ何でも言うことを聞く、頭はよくないが家柄だけはある人間が欲しかっただけだ。どうせそのうち責任を取れとでも言って、お前の実家に金銭を要求するんじゃないのか?」「……そ、そんなわけないだろう! 俺は、南雲の後継者として選ばれて結婚したんだぞ! その俺が利用されているだと……? いい加減にしろっ……!」「それなら、なぜ株式を売り渡すことが出来ない? 後継者になるお前なら、それくらいの決断は出来るんじゃないのか?」「……き、急に言われても返答できるわけがないと言っているんだ! 全株式にどれだけの資産価値があると思っている! まったく話にならない……帰る!」逃げるようにして早足でオフィスを後にしていく陽向の背中を、凱は呆れたような顔で、つまらなさそうに見送っていた。「お前の元婚約者は、プライドだけは高い無能なお坊ちゃまか。よくあんな男と結婚する気になったな」「……そんな言い方しないでよ。私だって好きで婚約したわけじゃないわ。でも……あなたの言う通りね。あんな男と結婚しなくて、本当によかった」本心から出た私の言葉に、凱はふっと口元をゆるめた。「そうだな。そのおかげでお前は俺と結婚することが出来たんだからな。婚約破棄して正解だったろう?」「はっ……? 何言ってるのよ」凱はそれだけ言い残すと、私に背を向けてすっとオフィスへと向かって歩き出した。 一歩前を歩く凱の背中を追いかけながら、私はふと、凱のワイシャツの襟元に目を奪われた。いつも綺麗に整っているはずの首元がほんの少しだけ汗ばみ、肌に生地が張り付いている。(……え?)違和感を覚えて胸が高鳴った。 陽向に絡まれている時は余裕がなくて気づかなかったけれど、凱はいつも専属の運転手に車で送り迎えをされ、役員専用の地下駐車場から直接エレベーターでオフィスへ向かうはずだ。社員が行き交う一階の正面エントランスに顔を出すことなんて絶対にあ
last updateآخر تحديث : 2026-08-18
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42.一発逆転

陽向side「……くそっ! あいつら……絶対に許さないからな……!」南雲家へ戻る車中、ハンドルの裏側を拳で何度も叩きつける。三越から受けた屈辱が、脳裏で何度も激しく再生される。「あいつ、馬鹿にしやがって……『南雲を救う唯一の方法は、保有株式をすべて破格値で譲り渡すことだ』だと?おまけに俺が社長の駒だって?そんなわけない。俺は利用されているんじゃなくて、社長と一緒に利用する側の人間なんだ。英玲奈だって俺のために動いてくれていた。俺は支配する側だぞ……」大勢の前で俺のことを馬鹿にして、あれでは恥を晒しに行ったようなものだ。(三越のやつ絶対に許さない……! 英玲奈も三越も、俺を馬鹿にしたことを後悔させてやる……!)具体的な打開策など何一つなかったが、復讐心が激しく燃え上がる。英玲奈と三越だけでなく融資の責任を俺に擦り付けた義父も、事態が明るみになった途端に手のひらを返したように俺に離婚を匂わせて脅してくる結愛も許せなかった。(みんなこぞって俺のことを馬鹿にしたり裏切りやがって……何か一発逆転できるような方法はないのか、もしそうなったら義父だろうが関係ない。実質的な権威を俺が手に入れて南雲を奪い取ってやる……)
last updateآخر تحديث : 2026-08-20
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43.母の闘い

英玲奈side都心の高層ビルに位置するアレスファンドのオフィスでは、静寂の中である作戦が着々と進行していた。いくつものモニターが並ぶデスクの前に座り、刻一刻と変動する株式市場のチャートとあるデータを鋭い視線で張り付くように凝視する。画面上で点滅する数字の羅列は、私にとって南雲グループの生命維持装置の心電図のように見えていた。「順調のようだな」背後から静かな靴音が近づいてくる。その声だけで、振り返らなくても誰が来たかはすぐに分かった。 凱はゆっくりと歩み寄り、私の肩越しにモニターへ映し出されるデータの遷移を見つめた。「南雲グループの浮動株、それに創業家以外の主要株主が持っているポートフォリオの抽出、すべて完了したわ。……予定通り、市場で段階的な買い集めを始める」キーボードを素早く叩くと、モニター上に私が事前に組んでおいた複雑な取引アルゴリズムが起動した。画面のあちこちで緑色のデータが急速に走り始める。「単一の名義や大口の注文で買い進めたら、南雲側に早期に察知されて買収防衛策を発動される危険がある。……だから、アレスファンドが傘下に置いている海外ファンドや、複数の中小投資法人を併用する。小口注文に徹底的に分散させて、市場から静かに株式を吸い上げていくわ」これこそが、凱と私が緻密な市場分析と南雲の財務構造の裏をかいて構築した「ステルス買収」だった。 東洋メガバンクの融資白紙化によって南雲グループの経営状
last updateآخر تحديث : 2026-08-21
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44.禁じ手

厳一郎side「……そこをなんとか! 長年の付き合いじゃないですか! 今後何かあったらその時は我々も力になりますから……!」\社長室のデスクで受話器を握りしめる私の声は、惨めに掠れていた。 だが、スピーカー越しに聞こえてくる知人の金融機関幹部の声は、氷のように冷ややかだった。「南雲さん、申し訳ないがいくら言われても無理なものは無理だ。メインバンクの東洋メガバンクでさえ手を引いた案件に、うちが首を突っ込むなんてとてもできない。……それに、言っちゃ悪いが、最近の南雲は悪い噂が立ちすぎている。もう潮時じゃないのかな」「待ってくれ! まだ……っ!」ツーツーという非情な切断音が室内に空しく響く。激しい苛立ちとともに受話器をデスクへ叩きつけた。卓上の高級なペン立てが倒れ、万年筆が床へ散乱する。(——腹立たしい! どいつもこいつも、我が南雲グループの威光に群がっていただけのハイエナどもめ……!)東洋メガバンクから突きつけられていた最終猶予の期限が、刻一刻と近づいている。これまで築き上げてきた政財界との太いパイプを頼り、頭を下げて旧知の投資家や取引先を駆け回ったが、返ってくるのは冷笑と拒絶だけだった。このままでは資金が完全にショートし、南雲グループは不渡りを連発して不条理な倒産を迎えることになる。長年かけて拡大してきたこの城が、灰燼に帰してしまうのだ。「……くそっ、使えない奴らばかりだ!」
last updateآخر تحديث : 2026-08-22
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46.秘密のデータ

英玲奈side熱もすっかり下がり体調を取り戻した私は、アレスファンドのオフィスで再び南雲買収計画の詰めの作業に没頭していた。同居を提案された翌日、凱から「体調が万全になるまで休むのが社長命令だ」と言われ、一日自宅で大人しく寝ていることになった。言われた通りにベッドで横になっていたのだが、驚いたのはその迅速すぎる手際だ。私が寝ているわずか数時間の間に、私の家にあった荷物はすべて業者によって凱のマンションへと運び出されていたのだ。彼の圧倒的な行動力と強引さには、驚きと戸惑いを隠せずにいた。だが、いざ同居を始めてみると、生活の空気感はオフィスにいる時と何ひとつ変わらない。4LDKの広いマンション内で寝室は当然のように別々。お互いに自室で大半の時間を過ごしている。また、夜は互いに外食で済ませることも多く、凱の仕事の帰りも遅いため、家で顔を合わせる機会すらほとんどない。朝、起きてリビングで鉢合わせる時には、すでにお互いが完璧に身支度を済ませたスーツ姿だった。凱に何かを期待していたわけでも意識してほしかったわけでもない。それなのに、自分ばかりが過剰に緊張して身構えていたのだと思うと、なんだか無性に気恥ずかしかった。 オフィスで二人きりになる時間もあるのだが、凱は同居のことなどまったく気にする様子もなくただ淡々と目の前の膨大な案件に集中している。(同居って聞いて戸惑って一人でドキドキしていたけれど……意識していたのって、もしかして私だけ……?)そんなある日のことだった。社長室で凱や他の役員と打ち合わせを
last updateآخر تحديث : 2026-08-24
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47.秘密のデータ②

英玲奈side静まり返った社長室に私の引きつった声が虚しく響く。凱のPCに格納されている未分類のアーカイブ。そこに入っていたのは、市場分析のデータや資料ではなく、南雲に関する個人的な資料の山だった。病で亡くなった私の母の生前の行動記録、そして入退院や手術歴も記載した医療データまである。母がいつ、どこの病院でどんな治療や手術を受けていたのか日付順に整然とファイルされていた。(どうして……? 凱がどうして、母の医療記録を持っているの……?)混乱で頭がどうにかなりそうになりながら、指先が震えながらも吸い寄せられるようにファイルを一つ一つ開いていく。 次に現れたのは、南雲一族の家系図だった。家系図には、父と母の名前の間に『T』の線が引いてあり、その下に私の名前が書かれている。驚くのは、まだ結婚しておらず南雲家の人間ではなかったはずの陽向も私の横に名を連ねていたことだ。しかし、次のファイルでは私の名前は消え、代わりに私の名前が書かれていた場所に結愛の名前と写真が上書きされている。家系図と同じファイル内に個人の経歴が細かく記載されており、その情報量は個人ではとても掴みきれるものではなかった。(探偵でも雇って南雲の人間たちを調べさせたのかしら……凱はどうしてここまで南雲に興味を持っているとい
last updateآخر تحديث : 2026-08-25
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49.結愛の襲来

英玲奈side凱のPCで見た南雲に関する資料の数々。自分さえ知らなかった隠された闇と、自らの手でサーバーから消去したプログラムのコードが、瞳の裏に残像となって焼き付いて離れない。(もう誰も信じない……。最終的に信じられるのは自分だけってことね……)モヤモヤした気持ちを少しでも払拭したくて、いつもより早い時間にオフィスを出た。ビルを抜けると辺りはまだ明るい。高層ビルの隙間から少しだけ見えている夕焼けのオレンジ色に染まった空を眺めながらあてもなく歩き出したその時だった。「あら……もう帰るの? こんなに早く帰れるなんてアレスファンドは、余裕なのね。それとも仕事ができる人のところに案件が集まって暇な人は暇なのかしら……?」背後から響く、聞き覚えのある不快な声と人を小馬鹿にするようなふてぶてしい口調。 嫌な予感に顔をしかめながら振り返ると、そこには嘲笑うように口元を歪めた結愛が立っていた。最初から待ち伏せていたかのようなタイミングと、何か悪いことでも企んでいるような悪意に満ちた表情。結愛は強引に距離を詰めるとこちらの腕をぎゅっと掴んできた。その肌が触れた瞬間、鳥肌が立つような強い嫌悪感が一気に跳ね上がる。「……なんであなたがここにいるのよ? 飲食店も買い物をするところもない、こんなオフィス街に何の用があるっていうの?」
last updateآخر تحديث : 2026-08-27
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