婚礼まであと二週間。それなのに……私は婚約者が別の女と妊娠を祝う瞬間を見てしまった。***「英玲奈(えれな)様、あちらのお席に行ってはなりません!」煌びやかな夜景が見渡せるホテルの最上階レストラン。ホテルのスタッフが青ざめた顔で私を必死に止めようとしている。その手を振り払い、ハイヒールの音をカツカツと冷徹に響かせながら近づいていく。(やっぱりここにいたのね……)婚約者の城之内陽向(じょうのうちひなた)と秘書の橘結愛(たちばなゆあ)が楽しそうに笑っている。二人とも目の前の相手に夢中で私の存在に気づいていないようだ。陽向がこの店で一番高価なシャンパンを掲げたウエイターに目配せをすると、 スポンッ、とコルクの抜けた音が響き、黄金の泡がグラスの中で湧き上がっていた。「妊娠おめでとう。結愛に子どもが出来たなんて嬉しいよ」「陽向、ありがとう。お腹の子、あなたに似てくれたらいいな……」「そんなことないさ。結愛に似たって絶対に可愛らしい子になる」結愛が愛おしそうにお腹を撫でると、陽向も目を細めて嬉しそうに微笑んでいる。幸せに満ちた二人とは対照的に、あまりの衝撃に心が急速に凍っていく。(……今、子どもって言ったわよね?それに、互いに似ればいいって……浮気だけじゃなく子どもまで作ったの?)「……でも陽向、本当に結婚しちゃうの?いつも陽向のことを支えているのは誰だと思っているのよ?」不機嫌そうに呟く結愛に、陽向は『拗ねている姿も可愛いよ』とでも言うように結愛の手をそっと握った。「分かっている。僕の心にいるのは結愛だけだ。いつも支えてくれてありがとう」今、確かに陽向は『結愛』の名前を口にした。(支えてくれてありがとう?あなたの社内での地位を上げるために、私がどれだけ尽くしてきたと思っているのよ?今まで何度もあなたの代わりに事業計画を立てて商談をまとめたのに、実績はすべて横取りしていったじゃない……それに結愛って、なんで秘書のことを下の名前で呼んでいるのよ……!)これ以上の戯言なんて時間の無駄だ。雰囲気をぶち壊すように低く落ち着いた声をかけた。「……なんだか楽しそうね、こんなところで何をしているのかしら?」「英玲奈……っ!? なぜここに……」結愛は驚きで目を見開いていたが、陽向は一瞬動揺したもののすぐにいつもの表情に戻すと、呆れたようにため息をついた
最後更新 : 2026-06-25 閱讀更多