All Chapters of 星間覇道 ― 銀河最大の内乱 ―: Chapter 91 - Chapter 99

99 Chapters

第91話……凱旋

――聖帝国暦六四五年十二月下旬。 戦艦ハヌマーンに率いられた大公国軍艦隊は、大公国首都星クラウゼンの衛星軌道上へ到達した。 帰還した艦隊は、勝者の列というにはあまりにも傷ついていた。 外装甲を失った艦。片舷を焼かれた巡洋艦。推進機を応急修理だけで動かしている駆逐艦。 艦列の中には、曳航されるだけの鹵獲艦や、白い識別灯を灯した病院船も混じっていた。 惑星への着陸は、まず病院船に優先して許可された。 重傷者を運ぶ医療シャトルが、次々にクラウゼンの大気圏へ降下していく。 宇宙港の収容能力には限りがあったため、多くの艦艇の乗員は、専用シャトルに分乗して地表へ降り立った。 彼らを最初に待っていたのは、戦勝の歓呼ではなかった。 戦没者への追悼式典である。 首都中央広場には、黒い布で覆われた祭壇が設けられていた。 そこには、サーペント要塞解放戦、惑星ペルーン攻略戦、小惑星帯艦隊決戦で命を落とした兵士たちの名が刻まれている。 その中でも、ひときわ大きく扱われた名があった。 カタコン中将。 かつて帝国軍の将でありながら大公国へ身を寄せ、老兵と傷病兵を率いて惑星ペルーン攻略戦に加わった男である。 彼は地下要塞の最終攻撃で、ノーム人部隊の先頭に立った。 銃を握ることすら許されなかった者たちを兵士として扱い、自らの階級章も勲章も捨て、彼らの前を歩いた。 そして敵の集中射撃を浴び、帰らぬ人となった。 カタコンは二階級特進を受け、上級大将として埋葬された。 葬儀には、多くのノーム人が参列した。 エジルもその一人だった。彼は祭壇の前で膝をつき、棺へ向かって震える声を漏らした。「……将軍」 それ以上の言葉は続かなかった。 周囲では、老兵たちが帽子を取り、黙って頭を垂れている。 ノーム人の中には、声を殺して泣く者もいた。 彼らにとってカタコンは、ただの将軍ではなかった。 初めて、自分たちを戦場の荷物ではなく、兵士として扱った人間だった。 だからこそ、その死は重かった。――葬儀の三日後。 首都クラウゼンは一転して、戦勝式典の熱気に包まれた。 大通りには軍用車両が並び、帰還兵たちが市民の歓呼を浴びながら進んだ。 沿道のビルには大公国旗が掲げられ、窓や屋上からは色鮮やかなテープが舞った。 花束が投げ込まれ、子供たちが手を振り、着飾った娘たち
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第92話……大公の遺言

 大公は、片膝をつくユリウスを見下ろし、静かに告げた。「余の後は、エリザベートの子を後継ぎに据えようと思う」「……は?」 ユリウスは思わず顔を上げた。 病室に、気まずい沈黙が落ちる。 エリザベートは、大公の公妾である。大公が溺愛している女であり、その寵愛ぶりは宮廷中に知られていた。 だが、問題はそこではない。 エリザベートは懐妊していると聞いている。 けれど、その子はまだ生まれてすらいないのだ。「お待ちください。エリザベート様のお子は、まだ……」「分かっておる」 大公は遮るように言った。「まだ生まれておらぬ。男児か女児かも分からぬ。だが、それでも余は、その子を後継ぎに据えたい」 書記官と側近たちが、目を白黒させていた。 無理もない。 大公には子が多い。 中でも長子カスパルは、地方貴族や大商人たちから広く支持を集めていた。 派手さはないが、実務に通じ、利権の調整もうまい。大公国の次代を担う者として、すでに多くの者が彼を見ている。 その流れを覆すのは、至難の業だった。 しかも、エリザベートへの寵愛は常軌を逸している。正妃よりも大きな館を与え、湯水のように金を使わせ、宮廷内の人事にまで彼女の意向を反映させていると噂されていた。 ここでエリザベートの子を後継者に据えるなどと言えば、宮廷は割れる。 議会も割れる。 大公国そのものが、割れるかもしれない。「余の願いを通すのは難しい。それは分かっておる」 大公は苦しげに息を吐いた。「だが、侯爵が支持してくれるならば、この願いは叶うやもしれぬ。そなたは今や、サーペント解放の英雄だ。軍も民も、そなたの言葉を無視できぬ」「しかし、それは……」 ユリウスは言葉を詰まらせた。 これは単なる願いではない。 危険な後継者争いへの加担である。 大公は病床で身を起こそうとした。侍従が慌てて支えようとするが、大公はそれを手で制した。「頼む」 かすれた声だった。 大公は、病の身でできる限りの礼を尽くし、ユリウスの手を取った。「この通りだ。余の最後の願いと思ってくれ」 ユリウスは、その手を振りほどくことができなかった。 先に無理を言ったのは、自分である。 ノーム人の待遇改善など、大公国の根幹に触れる難題だった。 鉱山貴族も、工業商会も、地方領主も反発する。 大公はその提案書に
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第93話……内乱勃発

 ユリウスは軍服に着替え、出仕の用意を整えていた。 この日は軍中枢の会議が予定されている。軍服姿で館を出ることに、不自然な点はなかった。「旦那様、お電話がかかっております」 玄関へ向かおうとしたところで、メイドが控えめに声をかけてきた。「ん? 執務室のモニターへつないでくれ」 ユリウスは足を止め、執務室へ戻った。 通信画面に現れたのは、パウルス元帥だった。「パウルス閣下、おはようございます」 ユリウスは普段通り穏やかに挨拶した。 だが、画面の向こうのパウルスの表情は硬かった。「侯爵殿。大公閣下の件は、すでにお聞き及びかと思う」「はい」「それについてだ。カスパル殿下に与する勢力が、侯爵殿を暗殺しようとしている、との密告があった」 ユリウスの顔から、血の気が引いた。 パウルスは続ける。「至急、本日の会議は欠席されよ。そして、ご領地へ戻られるがよかろう」「……ありがとうございます。しかし閣下は、なぜ私にそのことを?」 先日のノーム人待遇改善新法により、ユリウスの政治的立場は、大公国の主流派から強く敵視されているはずだった。 にもかかわらず、軍の重鎮であるパウルスは、こうして警告を送ってくれている。 パウルスは、わずかに目を伏せた。「私も、侯爵殿の政策には反対だ。あの法が大公国に混乱をもたらす可能性は高い」「はい」「だが、軍は君に救われ過ぎた」 その一言は重かった。「サーペント要塞解放。第二総軍撃破。多くの将兵が、君の判断で命を拾った。軍上層部の多くも、侯爵殿を政敵とは見ても、敵として殺したいとは思っておらぬはずだ」「……ありがたいことです」「軍政局の特殊車両を、密かに迎えへ出している。その車に乗れば、軍の第二宇宙港まで運ばれる。脱出用シャトルも手配済みだ」 ユリウスは、画面へ向かって深く敬礼した。「元帥閣下。この御恩は忘れません」「生き延びよ、侯爵殿」「はい」 通信は切れた。 一瞬の静寂。 次の瞬間、ユリウスは扉へ向かって叫んだ。「グレゴール! 逃げるぞ!」「はい!」 老臣グレゴールは、すでに異変を察していたのか、外套を手に駆け寄ってきた。 ユリウスはメイド長を呼び出し、館の者たちへ手早く指示を出した。重要書類の処理。 使用人の避難。外部からの問い合わせへの対応。可能な限り短く、必要なことだけを
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第94話……金印の少女

 雨は、夜の森を黒く塗りつぶしていた。 ツーシームは泥に足を取られながら、ビッグベアの腕を必死に支えていた。 普段なら大岩のように頼もしい男の体が、今はひどく重い。 だが、彼の傷はすべてツーシームを救い出すために作ったものであった。「もう少しだ。あそこに納屋がある」 ツーシームは自分に言い聞かせるように呟いた。 追手の怒号は、少しずつ遠ざかっている。 だが安心はできなかった。 森の中では音が狂う。 近いはずの声が遠く聞こえ、遠いはずの足音がすぐ背後にあるように感じられる。 朽ちかけた納屋の扉を押し開けると、かびた干し草の匂いが鼻を突いた。 中には古びた農具と、形が崩れた樽が積まれているだけだった。「入って。早く」 ツーシームはビッグベアを干し草の上へ座らせ、扉を内側から閉ざした。 隙間だらけの板壁から、青白い月光が細く差し込んでいる。 ビッグベアは苦しげに息を吐いた。「お嬢……俺は、もう……」「黙って」 ツーシームは彼の傷口を押さえた。 掌にぬるい血が広がる。 何度も戦場をくぐり抜けてきた彼女でさえ、その量には顔をしかめた。「この程度で死ぬわけないでしょ。あんた、熊みたいに頑丈なのが取り柄じゃない」「へっ……熊は熊でも、穴だらけじゃあな」「笑えない」 ツーシームは短く言い、懐から布を引き裂いて傷に巻きつけた。 だが布はすぐに赤く染まった。 ビッグベアは彼女の手首を弱々しく掴んだ。 その指には、まだ信じがたいほどの力が残っていた。「船長。最後に聞いてくれ」「聞かない」「俺は、ずっと……」「聞かないって言ってる」「最後に、言わせてくれ。俺は、お前さんを……」 その瞬間、ツーシームは彼の口を手で塞いだ。「縁起でもないことを言うな」 彼女の声は震えていた。「最後とか、そういう言葉を使ったら撃つ。私が撃つ。いいね」 ビッグベアは目を丸くし、それからかすかに笑った。 血の気を失った顔なのに、その笑みだけは昔と変わらなかった。 ツーシームは喉の奥が焼けるように痛んだ。 自分は泣かない。 海賊船の船長が、部下の前で涙を見せるものか。 そう思っていた。 だが今は、船も、仲間も、逃げ道もない。 あるのは壊れかけた納屋と、死にかけている相棒だけだった。 外で枝の折れる音がした。 二人は同時に息を
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第95話……惑星レンズの英雄

 納屋の扉の外側の存在に、ツーシームは銃を握りしめる。 だが、その手首を、血に濡れた大きな手が押さえる。「動かないで。今撃てば、こちらの負けです」 床に横たわるビッグベアは、浅い息のまま小さく告げた。 次の瞬間、扉が吹き飛んだ。 黒い制服を着た男たちが、銃口をそろえて納屋になだれ込んでくる。「動くな!」 それは保守派の急先鋒が支配する、武装警察隊であった。 隊長らしき男が、ツーシームの顔を見るなり、いやらしく口元を歪める。「これはこれは、著名な宇宙海賊様ではないか。すぐに上等な絞首刑台を用意してやるぞ」「くっ……!」 部下たちが電磁手錠を手に、じりじり近づいてくる。 ツーシームは奥歯を噛んだ。戦えない距離ではない。 だが、背後には重傷のビッグベアがいる。彼を置いて逃げる選択肢など、彼女にはなかった。 その時だった。 隊長の視線が、床の上の大男に止まった。 彼の顔から、嘲笑が消える。「……あ、あの」 隊長は、銃を下ろした。「ひょっとして……フェルドナンド曹長殿ではありませんか?」 トムは片目だけを開けた。「ああ。そう呼ばれていたこともあるな……」 その瞬間、隊長は姿勢を正した。「こ、これは大変失礼いたしました! 惑星レンズでは、大変お世話になりました。小官はキエザ警部補であります!」 さっきまで処刑台の話をしていた男が、今度は軍靴を揃えて敬礼している。 ツーシームは、思わず目を白黒させた。「……え? なにこれ?」 キエザは振り返り、部下たちへ怒鳴った。「貴様ら、何をぼさっとしている! すぐに医者を呼んでこい! それから酒と食事を運んでこい! 清潔な毛布もだ!」「はっ!」 武装警察隊の男たちは、さっきまでの殺気を消し、慌ただしく動き始めた。 ツーシームは、ぽかんとしたままビッグベアを見る。「トム。あんた、何者なの?」 ビッグベアは、苦しげに上体を少し起こした。「たぶん、昔の戦場での部下かと思われます」「へぇ」 キエザは、その言葉に首を振った。「曹長殿は惑星レンズの英雄です。将校どもが氷の戦場から逃げ出した後、この方は残された兵をまとめ上げ、補給も砲兵支援もない包囲下で敵を撃退なさった。あれは奇跡でした」「へぇ。トムって、すごい奴だったんだ」 ツーシームは素直に感心した。 だが、キエザの表情
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第96話……金印の主

 ――聖帝国暦六四五年二月上旬。 ユリウスは、相変わらず政務に忙殺されていた。 アーヴィング大公国は、カスパル派と反カスパル派に分裂し、各地で小競り合いを繰り返している。 表向きの争点は正統性や統治方針であったが、実際にはもっと生臭かった。 ゴチエ大国のエーテル資源帯。 大公国最大の権益ともいえるその鉱区を、どちらの派閥が握るのか。 その一点をめぐり、両派は抜き差しならぬ対立に陥っていた。 ユリウスは、どちらの陣営にも明確には加担していない。 だが、それは中立というより、様子見に近かった。 彼の治めるヴァルカン伯爵領は小さくもないが大きくもない。けれど、軍備、補給、信用、人材のいずれも、安易に敵対してよい相手ではなくなっていた。 だからこそ、両派はユリウスを誘い、試し、時には脅した。 ユリウスは水面下で、両派の中にいる比較的穏健な人物へ接触し、資金や物資を回していた。 味方を作るためではない。今すぐ敵を増やさぬためである。 執務机の上には、未決裁の書類が山のように積まれていた。 その山の一角に、通信端末の呼び出し音が鳴る。 発信者名を見た瞬間、ユリウスは思わず椅子から腰を浮かせた。「つながってくれ」 通信モニターに、包帯まみれのツーシームが映った。「……あ、坊ちゃん。こんにちは。なんとか無事……ではないけど、そっちに向かっているよ」 その顔を見た瞬間、ユリウスは胸の奥に溜まっていた息を吐いた。「よかった。なんとか生きていて」「あんまり無事じゃないけどね」 ツーシームは、照れ隠しのように頭をかこうとして、包帯に引っかかり顔をしかめた。「無理に動かないでくれ。傷は?」「見た目よりは平気。たぶん。トムの方が重かったけど、手術は済んだ。しばらくは寝かせておけば大丈夫だと思う」「そうか……」 ユリウスは安堵した。だが、それだけでは済まない。 彼は少しためらってから、口を開いた。「ツーシーム。悪いとは思ったんだけど、君の部屋に入った」 モニター越しに、ツーシームの目が細くなる。「……で?」「不思議な金の指輪があった。触れようとしたら、指輪から肉芽のようなものが伸びて、それが少女の姿になった」 その瞬間、ツーシームの表情から、軽さが消えた。「……ああ。そこまで見たんだ」「説明してくれ。あれは何なんだ?」 ツー
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第97話……正統後継者

 ――聖帝国暦六四五年三月上旬。 ユリウス=アストレア侯爵は、自らが銀河聖帝国ノヴァの正統な後継者である旨を宣言した。 儀式の会場は、わずか二週間で造成された急ごしらえの広場であった。だが、そこに漂う空気は仮設のものではない。 アストレア侯爵家に臣従している貴族家の当主たちが居並び、旧アーヴィング大公国軍からはパウルス元帥をはじめとする一部高級士官たちも参列していた。 さらに、文官、武官、軍需商人、地方代表者たちまでもが、その場に顔をそろえている。 臨時政府の儀礼官が、声を張り上げた。「銀河聖帝国ノヴァ正統継承者、ユリウス=アストレア侯爵閣下、御出座!」 その瞬間、会場に集まった者たちは一斉に膝を折った。 ユリウスは白銀の礼服をまとい、ゆっくり壇上へ上がった。 右手の薬指には、荒鷲の金印がある。 それは単なる装飾ではない。金印から放たれる淡い光は空中に複雑な紋章式ホログラムを描き出し、歴代皇帝の認証紋、血統封印、先帝の勅許記録を次々に浮かび上がらせていた。 映像を見た者たちの間に、抑えきれぬざわめきが広がる。 本物である。 誰もが、そう理解した。 この宣言の儀には、多数のマスコミが招かれていた。 それは帝都系の報道局だけではない。 地方星系、旧大公国領、星間ギルド系列、果てはあまり知られていない中立星域の通信社まで呼ばれている。 映像は、旧帝国領全域へ同時配信されていた。 ユリウスは壇上から、居並ぶ者たちを見下ろした。 まだ若い。 だが、その右手の金印が、彼をただの地方侯爵ではない存在へ押し上げていた。「私は、この宇宙の正統なる統治者である」 静かな声だった。 それにもかかわらず、その声は会場全体へ、そして無数の星々へ届いた。「我が旗に逆らう者には容赦しない。だが、剣を納め、秩序へ帰参する者には、寛容をもって迎える」 沈黙。 次の瞬間、最初に臣下の礼を取ったのは、エリザベートであった。 亡きアーヴィング大公が、後継者の母として指名した女。 大公の愛妾であり、正妻ではない。貴族社会から軽んじられ、嘲られ、時に利用されてきた存在である。 だが、その身には旧大公家の継承問題を左右する重みがあった。 エリザベートは壇上の前まで進み、深く膝をついた。「ユリウス様」 彼女の声は震えていた。 演技だけではない。
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第98話……最後通牒

 ――聖帝国暦六四五年四月中旬。 ユリウスは、カスパル一派を大公国の秩序を乱す反乱勢力と断定し、討伐軍の編成を命じた。 総司令官にはユリウス自身が就任し、参謀長にはパウルス元帥を起用する。 惑星アストレアの衛星軌道上には、次期皇帝候補のユリウスへの忠誠を表明した貴族たちの艦艇が、各地から続々と集結していた。 その数、実に一千隻以上。 もっとも、艦隊を構成する艦艇は、帝国軍の正規艦から地方貴族の旧式艦、商船を改装した補助艦まで多種多様であった。 単に数を集めただけでは、まともな艦隊戦など望むべくもない。 パウルスを中心とする軍官僚たちは、各艦の種別、武装、速度、防御力、乗員の練度に至るまで調査し、それらを複数の分艦隊へと再編成した。 ――数日後。 惑星アストレアの空を覆う大艦隊を前に、ユリウスは全軍へ布告した。「正統なる銀河聖帝国ノヴァ復活の第一歩として、まずはアーヴィング大公国を平定する。全艦、出航用意!」 命令一下、新帝国軍艦隊は一斉に軌道を離脱した。 目指すは、アーヴィング大公国の首都星――惑星クラウゼンである。◇◇◇◇◇ ――二週間後。 新帝国軍艦隊は、惑星クラウゼン近縁の宙域へ進出した。 ユリウスは攻撃に先立ち、クラウゼン守備軍の最高司令官であるハルダー元帥へ通信を送った。『ハルダー元帥。戦況は、もはや決しております。元帥のみならず、一兵卒に至るまで現在の地位を保証いたします。無用な流血を避けるためにも、速やかな帰順を望みます』 モニターに映し出されたハルダーの顔は、苦虫を嚙み潰したように歪んでいた。 ハルダーには、亡きアーヴィング大公から受けた恩義がある。 その遺児であるカスパルを擁立し、大公国を存続させる。 それこそが亡き主君への忠義であると、彼は信じていた。 だが、肝心のカスパルは首都星を捨て、すでに逃亡している。 惑星クラウゼンは、星そのものが巨大な要塞であると称されるほどの強力な対空システムを持ち、強固な防御力を誇っていた。 しかし、主君に見捨てられた将兵の士気は、目に見えて低下している。 ……それだけではない。 パウルスに同調し、新帝国軍へ加わった高級将校も多かった。 防御施設の配置、軍需物資の備蓄場所、地下司令部へ通じる経路、さらには最新の通信暗号方式まで、クラウゼン守備軍の機密は新帝国軍
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第99話……覇者の決断

 後世の歴史書は、この時期のユリウスについて、統治者としての冷徹な一面が初めて明確に現れたと記している。 早期に帰順しない者に対し、彼は寛容な条件をいつまでも提示し続けたわけではない。 表では圧倒的な軍事力を示して降伏を迫り、裏では防衛側の将官、官僚、貴族、商人たちへ密使を送り込む。 金銭、地位、赦免、領地の安堵を餌に、敵の中枢を一人ずつ切り崩していった。 それは、若き貴公子の中に眠っていた覇者としての素質が、芽を出し始めた瞬間であったのかもしれない。◇◇◇◇◇「皆様方。もはや、この星を守り抜く手立てはないのだ」 惑星クラウゼンの公都にある総司令部。 ハルダー元帥は、居並ぶ貴族や政府高官たちを前に、疲れ切った声で告げた。「敵艦隊は衛星軌道を制圧しつつある。地上戦へ持ち込めば、公都に住む四千五百万の民が戦火に巻き込まれることになる」 しかし、クラウゼンの権益を握る者たちは、ハルダーの意見に従おうとはしなかった。「防衛指揮官がそのように弱気だから、敵に侮られるのです」「徹底抗戦を呼びかけ、アストレア家から譲歩を引き出すべきだ」「そうだ。無条件降伏など、断じて受け入れられぬ!」 彼らとて、クラウゼンが廃墟になることを望んでいるわけではない。 口では、民の暮らしを守るためだと唱えている。 だが、本当に恐れているのは、自らが長年築き上げてきた領地、工場、商会、金融権益が灰になることであった。 その本音を口にする者は、誰一人としていなかった。「元帥閣下」 初老の参謀が、会議場の空気をまとめるように口を開いた。「もうしばらく、敵に対して強硬な態度を示してはいかがでしょう。こちらが容易には屈しないと分かれば、アストレア侯爵も条件を緩めるかもしれません」「いや、それは危険だ」 ハルダーは首を横に振った。「敵にはカタコン配下の歴戦の陸戦隊がいる。それに比べ、我が惑星地上軍は実戦をほとんど経験しておらぬ。士気も経験も、敵に劣っているのだぞ」「また弱気なことを!」「そのような態度だから敵になめられるのだ!」 怒号が飛び交う。 その時だった。 会議場の扉が、外側から爆破された。「動くな!」 銃器を構えた武装兵たちが、怒号と共になだれ込んでくる。「な、何をする!」「狼藉者だ! 警備部隊を呼べ!」 貴族の一人が叫ぶより早く、武装
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