Todos los capítulos de 星間覇道 ― 銀河最大の内乱 ―: Capítulo 111 - Capítulo 120

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第111話……皇帝の孤独

「ツーシーム。実は、中央政府のマリアーヌ=ローゼンタール総統から親書が来ているんだ」 ユリウスはツーシームの私室で、そう悩みを打ち明けた。 部屋には、さしたる明かりもない。 窓から差し込む星明かりと、ツーシームがくわえた安煙草の火だけが、時折、ユリウスの若い顔をぼんやりと照らしていた。「……え?」 ツーシームは煙草を指に挟んだ。「ノクターン公爵が死んだ後の、中央政府の事実上のナンバーワンじゃないか。何を言ってきたんだい?」「それがね……」 ユリウスは少し言いよどんだ。「中央政府の皇帝と僕、そのどちらについても正統性を否定しないことにして、互いの支配地域を尊重し、休戦したいと申し入れてきたんだ」「へえ」 ツーシームは、ゆったりと紫煙を吐き出した。「まあ、つまりは、あっちはあっちで大変ってことなんだろうねぇ」「僕もそう思う」 中央政府は、ユリウスたちに同調して起こった各辺境地域の反乱を抱え、ルドミラ教国とも敵対している。 いかに旧帝国最大の勢力とはいえ、すべてを同時に相手にできるほど余裕があるわけではない。 だからこその休戦なのだろう。 ユリウスはしばらく黙っていたが、やがて小さな声で尋ねた。「ツーシームなら、どうする?」「あたし?」「うん」 ツーシームは煙草を灰皿に押しつけながら、嫌な笑みを浮かべた。「いまや坊ちゃんには、大勢の家臣がいるじゃないか。元帥だの伯爵だの、大層な肩書きの連中が山ほどいる。そんなの、やさぐれた宇宙海賊風情に聞かなくてもいいんじゃね?」「意地悪を言わないでよ」 ユリウスは困ったように眉を下げた。「重臣たちの多くは、もともと中央政府や大公家に仕えていた人たちなんだ。地方貴族だって、僕に忠誠を誓ってはいるけど……」「信用できない?」「そこまで言うつもりはないよ。でも、内心では自分の領地や家のことを一番に考えている。それは分かっているから」「まあ、自分のことを一番に考えるのは普通だけどねぇ」 ツーシームは新しい煙草へ火をつけた。「で、こっちとしても、旧第六総管区を手に入れたばかりだ。領地を整理して、軍を立て直して、税の仕組みも整えなきゃならない。中央政府との休戦そのものは、悪い話じゃない」「うん」「問題はルドミラだね」 ユリウスは黙った。「中央政府と休戦すれば、ローゼンタールは安心
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第112話……生命線を撃て

 ――聖帝国暦六四五年八月初旬。 帝国中央政府は、第二総管区に対し、大規模な臨時徴税命令を通達した。「馬鹿な!? 中央の奴らは、いったい何を考えているのだ!」 第二総管区長クリステンション侯爵は、送られてきた命令書を机へ叩きつけた。「奴らが、さらなる食料増産を望むというから、つい先日、第四総管区の銭ゲバどもに頭を下げて、軌道エレベーターを四百基も新造したのだぞ!」 第二総管区は、旧帝国領最大の食料生産地帯である。 その農業惑星で大量に生産される穀物や食肉を、宇宙へ運び出すうえで最大の問題となるのが、惑星の重力だった。 穀物のような重量物を、いちいちロケットや輸送艇で衛星軌道まで打ち上げていては、燃料費だけで莫大な費用がかかる。 そこで重要になるのが、軌道エレベーターである。 一度建設してしまえば、地上から衛星軌道まで大量の物資を、比較的安価に運ぶことができる。 そのため、第二総管区の有力貴族たちは、主要な農業惑星への軌道エレベーター建設を積極的に進めていた。 だが当然、その建設費は安くない。 超高強度素材。 巨大な軌道施設。 地上側の輸送設備。 一本建設するだけでも、莫大な資金が必要となる。 そのため第二総管区の地方貴族たちは、金融業が発達した第四総管区から巨額の融資を受け、将来の食料輸出収入を担保に建設することが多かった。 つまり、今の第二総管区は、食料価格の高騰によって大きな利益を得ている反面、巨額の借金も抱えているのである。「このうえ中央政府へ、さらに税を払えだと?」 クリステンション侯爵は怒りに肩を震わせた。「そんな要求に応じられるものか! 総管区内の軍艦艇を招集せよ! 諸侯にも命令を出せ! 私兵艦隊も集められるだけ集めるのだ!」「ははっ!」 ……だが。 その命令が第二総管区全土へ届くよりも早く、事態は動いていた。◇◇◇◇◇「全艦、前進!」 帝国中央政府艦隊が、すでに第二総管区との境界を突破していた。「進路を妨害する艦艇、軍事施設は、すべて実力で排除せよ!」「はっ!」 中央政府は初めから、第二総管区が臨時徴税命令を拒絶すると見越していたのである。 徴税命令を発した時点で、すでに一個艦隊を国境近くへ集結させていた。 拒否すれば攻める。 その準備をすべて整えたうえでの、最後通牒に等しい徴税命令だっ
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第113話……金の卵は一つの籠に盛るな

 第二総管区への臨時増税が、大筋で決まった頃。 財務尚書ジョンソンは、さらなる税収増加策をまとめた書類を携え、ローゼンタール総統の執務室を訪れていた。「ふむう……」 ローゼンタールは書類をめくりながら、眉をわずかに寄せた。「増税そのものには異論はない。だが、あまり露骨に反発を招かぬようにせよ」「畏まりました」 丸坊主で、でっぷりと太った中年男であるジョンソンは、深々と頭を下げた。 彼が次なる増税対象として目をつけたのは、第四総管区であった。 そもそも、ローゼンタール政権がここへ来て急激な増税政策へ舵を切ったのには、単なる財政事情だけではない理由がある。 帝国最高議会への対策であった。 かつて皇帝の権力が絶大であった時代には、最高議会など半ば形式的な存在にすぎなかった。 だが現在は、幼帝が玉座にあるのみ。 実質的な皇帝不在とも言える状況では、さすがのローゼンタールとて、議会を完全に無視するわけにはいかない。 その最高議会を構成する議員の、およそ七五パーセントは第一総管区の貴族で占められていた。 つまり、第一総管区への大規模な増税は、政権にとって自殺行為に等しい。 ローゼンタール政権は、深刻な財政危機を乗り切るため、可能な限り第一総管区を避け、他の総管区から税を搾り取る必要があったのである。◇◇◇◇◇ 財務尚書ジョンソンは自分の執務室へ戻ると、超光速通信機の前へ腰を下ろした。 呼び出した相手は、第四総管区長マスターデリオン侯爵である。 しばらくして、モニターに禿げ頭の老人が映し出された。「これはこれは、財務尚書閣下。閣下におかれましては、ますますご機嫌麗しく――」「そんな御託はよい」 ジョンソンは面倒そうに言葉を遮った。「新たな税制案を送る。目を通してほしい」「……畏まりました」 マスターデリオンは愛想笑いを浮かべたまま、送られてきた資料を開いた。 ……だが。 一頁。 二頁。 三頁。 読み進めるにつれ、その笑顔が消えていく。「……これは」 金融取引税。 金融所得税。 双方の税率を、それぞれ十ポイント引き上げる。 第四総管区の経済構造そのものを直撃する、大幅な増税案だった。「こ、これは困りまする!」 マスターデリオンが思わず声を荒らげた。「我ら第四総管区は、つい先日も帝国政府の新規国債を六兆ルー
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第114話……富を増やす者

 ――聖帝国暦六四五年八月下旬。 ルドミラ教国領を目指す旧帝国軍は、過去の敗戦から得た教訓を、徹底して今回の遠征に反映させていた。 艦隊が進む航路上の要所には、その都度、簡易的な補給基地を建設。 食料、推進剤、弾薬、交換部品を蓄積し、さらに小規模ながら防衛艦艇や固定式対艦砲まで配置していく。 後方を敵に荒らされ、補給線を寸断された過去の失敗を、二度と繰り返さぬためであった。 だが当然、そのぶん侵攻速度は極めて遅い。 その牛歩ともいえる進軍に対し、帝国最高議会では疑義を呈する声が強くなり始めていた。「軍務尚書閣下」 議場において、一人の有力貴族が立ち上がった。「ロサリオ国家元帥の戦略は、いささか慎重に過ぎるのではありませんかな?」 軍務尚書ハイアットは、苦々しい表情を浮かべながら答えた。「これまでの遠征軍も、決して補給や兵站を軽視していたわけではございませぬ。ですが、ルドミラ軍は執拗にそこばかりを狙い、結果として我が軍は幾度も苦杯をなめました」 ハイアットは議場を見渡した。「ならば、敵が狙う弱点そのものを消しておくのは上策にございます。それに、ルドミラ教国と我が帝国では、国力に大きな差があります。戦が長引けば長引くほど、最終的には国力に勝る我らへ勝利の女神が傾くのは必然かと存じます」「そんなことを言っているのではない!」 別の議員が声を荒らげた。「弱小総管区に独立を許しただけでも帝国の恥辱だというのに、その征討軍まで遅々として進まぬ。それで帝国の威信が保てると思われるのか!」「そうだ、そうだ!」「我が家など、先の戦役で一族の長まで失っておるのだぞ!」「いつまで待たせるつもりなのだ!」 議場のあちこちから批判が飛ぶ。「ま、まことに、その点につきましては申し訳ない限りで……」 ハイアットは額の汗を拭いながら、頭を下げるしかなかった。 軍事的には正しい。 だが、政治的には遅すぎる。 最高議会の貴族たちが求めているのは、十年後に見ても正しい戦略ではない。 今すぐ帝国の威光を示してくれる、分かりやすい勝利なのである。 こうして軍務尚書ハイアットの議会内での評判は、目に見えて下がっていった。 その一方。 第四総管区への増税を実現した財務尚書ジョンソンには、惜しみない拍手が送られていた。 分かり易い結果を出せぬ軍務尚書よ
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第115話……勝者になる前に

 ユリウスによる量子エーテルの増産計画は、新帝国の総力を挙げて、凄まじい勢いで進んでいた。 トロストの開発した新型精製施設に加え、枯渇したと考えられていた油田から残存エーテルを回収する新技術も、次々に実用化のメドがつけている。 新帝国政府の内部試算によれば、このまま設備の増設が続けば、翌年にはユリウスの支配地域だけで、旧帝国版図全体の量子エーテル生産量のおよそ半分を占める可能性すらあるという。 もちろん、この数字は最高機密とされた。 それが外部に知られれば、中央政府のみならず、第四総管区の金融資本や周辺諸国までが、何らかの行動を起こしかねない。 ……だが。 どういうわけか、その変化を敏感に察知した国があった。 旧第六総管区の支配者が変わったことを受け、友邦であるパニキア連邦から外交使節団が訪れたのである。◇◇◇◇◇ ユリウスはすぐに会見の場を設けた。 パニキア連邦とは、旧大公国時代から一定の友好関係にある。 まずは従来の不可侵条約を延長し、国境を安定させる。 ユリウスは、その程度の会談になるものと思っていた。「我が国としては、従来の不可侵条約をそのまま延長したいと考えております」 ユリウスがそう切り出すと、向かいに座る外交特使の体が、ぷるりと揺れた。 人間ではない。 半透明のアメーバにも似た、不定形の知的生命体である。 その体内では青や紫の器官らしきものがゆっくり動き、話すたびに表面が波打っていた。 もっとも、直接言葉を発しているわけではない。 机上の同時通訳機を介し、落ち着いた人工音声が流れてくる。「不可侵条約の延長について、我々にも異論はありません」「それはよかった」「ですが、本日はそれとは別に、我が主より提案を預かっております」「提案?」 アメーバ状の外交特使は、体の一部を細長く伸ばした。 それが器用に書類をつかみ、ユリウスの前へ置く。「我々パニキアは、少しばかり諜報活動に秀でております」「少しばかり、ですか」「謙遜は交渉の基本と学習しておりますので」「なるほど……」 ユリウスは苦笑した。「収集した最新の政治、軍事、経済情報を、我らが主であるマザーコンピューターへ入力し、今後の情勢について予測を求めました」「それで?」「回答は、こちらにございます」 ユリウスは書類へ目を落とした。 そして。
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第116話……アストレア聖帝国

――聖帝国暦六四五年九月中旬。 聖帝国ノヴァの帝都ネオ・ベルゼブブ。 総統最高府の執務室では、軍務尚書ハイアットが、ローゼンタール総統へ「ルドミラ教国遠征軍」の現状を報告していた。「……それで、未だに遅々として進まぬのか?」「左様にございます」 ハイアットは、卓上に第五総管区の立体星図を投影した。 だが、その星図には空白が多い。「そもそも宇宙地理院の予算不足により、第五総管区の本格的な測量は、およそ二百五十年間も行われておりませぬ」「二百五十年か」「はい。当時から辺境であり、大規模な戦場になる可能性も低いと判断され、優先順位を下げられ続けてきました」 星図の一部が拡大される。 複雑な重力場。 小惑星帯。 恒星風の強い星域。 旧来の航路図では安全とされていた場所にも、現在では新たな危険宙域が生まれている。「ロサリオ国家元帥は、進軍路上に補給拠点を築きながら慎重に前進しております。ですが、輸送路そのものが不確かなうえ、ルドミラ軍は土地勘を活かし、輸送船ばかりを狙って襲撃してまいります」「ゲリラ戦か」「左様にございます。敵は正面から艦隊決戦を挑んではきません。補給艦を数隻沈めては姿を消し、別の場所でまた襲う。その繰り返しにございます」「そうか」 ローゼンタールは、意外にもハイアットを責めなかった。 彼女自身、情報部出身の人間である。 現在も帝国情報機関へ強い影響力を持ち、表向きの軍事報告だけでは分からない事情にも通じていた。 若くして異例の出世を遂げた理由も、そこにある。 ローゼンタールは幼少期から電子情報処理に異様な才能を示し、十代の頃にはハッキングの天才として知られていた。 そして官界へ入ってからは、その能力を情報収集に存分に利用した。 上司の政敵。 敵対派閥の貴族。 軍部の有力者。 彼らが隠したがる弱みを誰より早く掴み、それを必要な時だけ使う。 それが、マリアーヌ=ローゼンタールという女の出世術でもあった。「さらに申し上げます」 ハイアットが星図を切り替えた。「ロサリオ国家元帥閣下は、敵主力を発見次第、決戦へ持ち込むおつもりです。しかし現状では、その主力艦隊がどこにいるのかさえ掴めておりませぬ」「やはり、戦力が足りぬか?」「はい」 ハイアットは即答した。「敵地深くへ侵攻し、輸送路を守りながら敵
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第117話……枢機卿と宰相

 ――聖帝国暦六四五年九月下旬。 旧帝国軍が、新たに二個正規艦隊と十個師団もの精鋭惑星地上軍を、ルドミラ戦域へ増派する。 その情報が伝わるや、ルドミラ教国の首都星ヒンデンブルクは騒然となった。 ただでさえ旧帝国軍の侵攻を食い止めるため、各地から兵力をかき集めている最中である。 そこへ、さらに大規模な増援が送り込まれるのだ。「なぜじゃ!」 教皇宮の軍議室で、サリーム=アル=ハディード教皇は卓上を叩いた。「なぜ中央政府の奴らは、これほど我らにばかり軍を向けられるのだ!」 向かいに座る腹心、ナシール=イブン=ラヒーム将軍は、難しい表情を浮かべた。「教皇猊下。一つ、気になる情報がございます」「申せ」「中央政府は、新帝国と何らかの取り決めを交わした可能性がございます」「何?」「確証はございませぬ。ですが、ここしばらく、アストレア聖帝国の主力艦隊は首都星グラウゼン周辺からほとんど動いておりません」 ラヒームは星域図を表示した。「中央政府がこれほど大胆に我が国へ兵力を集中できるのも、背後にいる新帝国が動かぬとの確信があるからではないかと」「……くそっ」 ハディード教皇は、椅子の肘掛けを握り締めた。「だから、戦闘艦も兵士も送らず、食料や医薬品ばかり寄越してくるのか?」「おそらくは」「ぐぬぬぬ……あの偽皇帝め」 教皇は怒りに顔を歪めた。「こちらには友好国の顔をして物資を送りながら、裏では中央政府と手を握っておるというのか!」「まだ証拠はございません」「分かっておる!」 ハディードは立ち上がった。「だからこそ、直接問いただす必要がある。至急、エロー枢機卿を呼べ!」「エロー枢機卿を?」 ラヒームが目を丸くした。 エローは、かつて教国内でハディードに教皇の座を強奪されている。 現在こそ枢機卿の地位に収まっているが、元をたどれば政敵であった。「あの者を、お使いになるのですか?」「使える者を使わずして、どうする」 教皇は鼻を鳴らした。「奴は古代の知識にも通じ、頭も回る。何より弁が立つ。外交使節にはうってつけではないか」「しかし……」「心配するな」 ハディードは嫌な笑みを浮かべた。「奴の弱みは、こちらが握っておる。裏切ることなどできぬよ」「……それならば、異論はございません」 こうしてルドミラ教国は、超光速通信によ
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第118話……教皇冠を餌に

 ルドミラ教国の外交特使エロー枢機卿と、アストレア聖帝国皇帝ユリウスとの会談は、一対一で行われた。 場所は、旧大公宮殿の奥に設けられた小さな応接室である。 護衛すら扉の外へ下がらせ、記録官も置かれていない。 それだけに、形式的な挨拶が終わると、エロー枢機卿は早々に本題へ踏み込んだ。「さて、陛下。率直に申し上げましょう」「どうぞ」「陛下にとって、我らルドミラ教国と、旧帝国中央政府。いったい、どちらが大切なのでございますか?」 ユリウスは黙って先を促した。「陛下の艦隊は、いつまで待っても我らの救援には参られない。それどころか、旧帝国側へ兵を向ける様子もございませぬ」 エローは少し身を乗り出した。「これは、我らが結んだ和平約定の精神に反するのではありますまいか?」 ユリウスはしばらく黙っていた。 そして、困ったような顔を作った。「もちろん、援軍を送りたいのは山々なのですよ」「では、なぜ?」「我が国の有力貴族たちが、納得しないのです」「貴族たちが?」「ええ」 ユリウスは静かに答える。「ルドミラばかりを助け、我々が一方的に血を流すのは不平等ではないかと申しております」 エローの表情がわずかに強張った。「特に惑星ペルーンの奪回では、多くの帝国臣民が命を落としました」「……」「しかし、逆にルドミラ教国が我々のため、分かりやすい形で軍を動かしてくださったことはございません」 痛いところであった。 事実として、ルドミラ教国は旧第六総管区側から軍事支援を受けたことこそあれ、自ら大軍を送って彼らを救援したことはない。 もちろん、教国にも教国なりの事情があった。 だが、同盟とは本来、双方が助け合うものだと問われれば、エローには強く反論できなかった。「……では」 エローは声を低くした。「陛下は、我らを見殺しになさるおつもりですか?」 その瞬間。 ユリウスの目つきが変わった。 先ほどまでの、困り果てた若い皇帝の顔ではない。 エローは一瞬、その瞳に冷たい光が宿ったように感じた。「そうは申しません」 ユリウスは一枚の書類を取り出した。「ですから、別の提案を用意しました」「別の提案?」「お読みください」 書類を受け取ったエローは、数行目で動きを止めた。 そして、目を大きく見開く。「……な、なんと?」 もう一度、文
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第119話……勝者なき決戦

――聖帝国暦六四五年十月上旬。 旧帝国軍の増援がルドミラ戦域へ向かっているとの報が届くと、ナシール=イブン=ラヒーム将軍は、それまで続けてきたゲリラ戦を打ち切った。「全艦艇へ通達。各地に散っている部隊を集結させよ」「はっ!」 現在でこそ、ルドミラ軍は旧帝国軍と互角に近い戦力を維持している。 だが、新たに二個正規艦隊が到着すれば、その均衡は崩れる。 さらに十個師団もの惑星地上軍まで加われば、ルドミラ側が戦況を覆すことは極めて困難となるだろう。 ならば。 まだ互角に戦えるうちに、敵主力を叩く。  ラヒームは決戦を選んだ。 そして、それを望んでいたのは旧帝国側も同じであった。 ロサリオ国家元帥もまた、長く続く補給線への襲撃に苛立ち、ルドミラ主力艦隊との正面決戦を求めていたのである。 両軍の邂逅は、そう遠くなかった。◇◇◇◇◇「敵艦隊を確認!」「数、およそ我が方と同程度!」 ルドミラ艦隊の旗艦「セト」の艦橋にて、ラヒームは、正面モニターいっぱいに広がる旧帝国艦隊を睨んだ。「全艦、両翼を広げながら砲列を形成せよ!」「了解!」 ルドミラ艦隊が一斉に展開を始める。 ラヒームは、もともと惑星地上軍出身の将軍である。 だが、宇宙艦隊指揮においても非凡な統率力を示していた。 各分艦隊へ細かな指示を飛ばし、旧帝国側より一足早く戦列を完成させる。「敵はまだ隊形を整え切っておりません!」「よし」 ラヒームは獰猛な獣のように笑った。「のろまな中央の貴族様どもへ、ビームの嵐をお見舞いしてやれ!」「全艦、砲撃開始!」 ルドミラ艦隊の前面が、一斉に光り輝いた。 無数のビームが宇宙空間を横切り、展開途中の旧帝国艦隊へ突き刺さる。 先制攻撃を受けたロサリオ艦隊は、各所で損害を受けつつも、電磁防壁を展開しながら慌ただしく陣形を整えた。「ミサイル艦、前へ!」 ラヒームが続けて命じる。「目標選定は各艦長へ任せる! 撃てるところから撃て!」「はっ!」 ミサイル艦の発射口が次々に開き、誘導弾の群れが宇宙へ放たれた。 本来ならば、長期戦を続けてきたルドミラ軍の弾薬備蓄は、とうに底をついていてもおかしくなかった。 だが、実際には十分な量が残されている。 アストレア聖帝国が、表向きには兵を出さぬまま、秘密裏に弾薬や部品、量子エーテルを送り
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第120話……ニデル政変

 ――聖帝国暦六四五年十月中旬。 旧帝国軍とルドミラ艦隊の決戦が、双方決定的な勝利を得られぬまま終わった頃。 一隻の小型客船が、アストレア聖帝国領を離れ、ルドミラ首都星ヒンデンブルクへ向かっていた。 船の持ち主はアルテミス社で、船長を務めるのはビッグベアであった。 ただし今回ばかりは海賊船らしい物騒な装備の多くを外し、外見上はごく普通の民間船へ偽装されていた。 本来なら、この船でルドミラへ帰国するのはエロー枢機卿と、その随員だけのはずであった。 エローは以前、教皇サリーム・アル=ハディードの命を受け、アストレア聖帝国との外交交渉のために訪れていた人物である。 その帰国に際し、アストレア側から副宰相と書記官が同行することになった。 もちろん、そんな副宰相も、書記官も、本物ではない。「だから、その襟を触るな」 船内の貴賓室で、書記官の服を着たグレゴールが苛立った声を上げた。「さっきから苦しいんだよ」「副宰相というものは、多少服が苦しくても人前で襟を引っ張ったりせん」「本物の副宰相だって苦しけりゃ引っ張るだろ」 ツーシームは面倒そうに舌打ちした。 アストレア聖帝国宰相であるグレゴールは、今回はエロー付きの書記官へ変装している。 一方、ツーシームには副宰相という偽りの身分が与えられていた。 濃紺の礼服を着せられ、普段は乱雑にしている髪も整えられている。 腰の拳銃も、いつもの安煙草もない。「それと、現地に着いたら余計なことは喋るな」「それ、もう十回くらい聞いたぞ」「十回言っても不安だから言っている」「エローに喋らせとけばいいんだろ?」「そういうことだ。お前は適当に偉そうな顔をして座っていろ」「それなら得意だ」「そこだけは心配していない」 二人の会話を少し離れた席で聞いていたエローは、呆れたように息を吐いた。 今回の帰国について、教皇庁へ伝えてある内容は単純だった。 エロー枢機卿がアストレア聖帝国での外交交渉を終えて帰国する。 その際、アストレア皇帝ユリウスより新たな提案を預かり、副宰相自らが同行する。 サリーム・アル=ハディードは、その提案の具体的な内容をまだ知らされていない。 エローが「極めて重要な条件であるため、教皇猊下へ直接申し上げたい」と伝えたからである。 教皇側からすれば、戦争中のルドミラに対する何ら
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