Todos los capítulos de 星間覇道 ― 銀河最大の内乱 ―: Capítulo 101 - Capítulo 110

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第101話……陥落なき降伏

 惑星グラウゼンの地上では、予想されていたほど激しい戦闘は起こらなかった。 地下司令部と各地の防衛拠点を結ぶ通信網が寸断されていたため、守備隊の多くは全体の戦況を把握できずにいた。 頼るべき総司令部から命令は届かない。 上空は新帝国軍に制圧され、援軍が来る見込みもない。 各地の防衛基地は孤立し、抵抗する意味を失って、次々に白旗を掲げた。 この結果、ユリウス率いる新帝国軍は、少ない損害で多数の捕虜と大量の兵器、物資を手に入れることとなった。 一方、地下要塞へ通じる通路では、今なお激しい戦闘が続いていた。「殿下。地下における敵の抵抗は、予想以上に激しゅうございます。いかがいたしましょうか?」 申し訳なさそうに報告するパウルス元帥に対し、ユリウスは柔らかな表情を見せた。「地上部分を確保できたのであれば、それで十分です」「しかし、地下には敵の中枢が残っております」「だからこそ、無理に攻める必要はありません。出口を封鎖し、地下戦域へ閉じ込めておけばよいのではありませんか?」 狭い地下通路での戦闘は、防御側に圧倒的に有利である。 敵の最後の拠点を奪うために、多くの兵士を死なせる必要はなかったのだ。 パウルスは小さく頷いた。「小官も賛成にございます。では、攻撃を停止し、各通路の封鎖を徹底いたします」「お願いします」「はっ」 パウルスはすぐさま身を翻し、野戦司令部の通信施設へ小走りに向かっていった。 その背を見届けたユリウスは、老臣グレゴールと護衛の一隊を連れ、すでに味方が制圧した公都の市街地へ入った。 大通りには、破壊された車両や放棄された武器が残されている。 だが、建物の多くは無傷であり、市民たちも恐る恐るではあるが、窓の隙間から新たな支配者の姿をうかがっていた。「懐かしいね」「はい。左様にございます」 ユリウスが足を踏み入れたのは、亡きアーヴィング大公の宮殿であった。 内部に戦闘の痕跡はない。 使用人やメイドたちは逃げ出すこともなく、いつもと変わらぬ様子で床を磨き、調度品を整えていた。 主が変わっても、宮殿の日常は続くらしい。 ユリウスは大広間へ入り、空席となった大公の玉座を見上げた。 少しためらった後、そこへ腰を下ろす。「良い座り心地だね」「ご、ごほん」 グレゴールが、わざとらしく咳払いをした。「……冗談だ
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第102話……蒼海の伏兵

 ――聖帝国暦六四五年六月上旬。 旧大公国軍との地下戦闘を終えたユリウスは、その後始末を進めながら、次なる目標である惑星アクアへの攻撃を準備していた。 惑星グラウゼンの衛星軌道上に設けられた宇宙桟橋では、大小の戦闘艦艇が最終整備を受けている。 損傷した装甲板が交換され、燃料エーテルや食料、弾薬が次々に積み込まれていた。 各地から集まった輸送船も忙しく往来し、宇宙桟橋は昼夜を問わず稼働を続けている。  一方、地上の宮殿に残ったユリウスは、旧大公国領の再編に追われていた。 最後まで抵抗した者からは領地を召し上げ、早期に帰順した者には所領の安堵や加増を認める。 軍人にも戦功に応じて昇進や褒賞を与え、略奪や捕虜虐待を行った者には、味方であっても厳しい処罰を下した。 信賞必罰。 言葉にすれば簡単である。 だが、一つの判断を誤れば、新たな反乱の種をまくことになる。没収した領地を誰に与えるか。旧臣をどこまで登用するか。敵対した商会の財産を、どの程度まで保護するか。 いずれも細心の注意を要する案件であった。 しかし、惑星アクア攻略までに残された時間は少ない。 そこでユリウスは、財務官、法務官、領地管理官など、多数の文官を旗艦ハンニバルへ同乗させることにした。 装甲戦艦ハンニバルは、巨大な艦体を持つ。 兵員居住区のほかにも会議室、執務室、資料庫などが多数あり、臨時の行政府として利用するには申し分なかった。 ユリウスは文官たちと共に、惑星クラウゼンの宇宙港からハンニバルへ乗り込んだ。 乗艦後、彼は艦内用の電磁モノレールに乗り、中央制御電算室を訪れた。 巨大な部屋には、幾重にも制御装置が並んでいる。 壁面を埋め尽くす表示板には、今なお理解不能な文字列や数式が流れ続けていた。「トロスト技師。まだハンニバルの攻撃システムは動きませんか?」 ユリウスが尋ねると、複数の端末に囲まれていたトロストは、油に汚れた手で頭をかいた。「そうなんですよ。まったく、技術者泣かせの艦ですよ」「原因も分からないのですか?」「一部の制御信号は読み取れるようになりました。ですが、主砲や副砲を起動させようとすると、火器管制中枢が勝手に接続を遮断するんです」 トロストは、表示板に映る複雑な構造図を指さした。「例えるなら、鍵穴の場所は分かったのに、鍵を差し込むたび、扉
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第103話……教国の天秤

 ユリウス率いる新帝国軍が惑星アクアを攻めあぐねていた頃。 カスパル大公派の派遣した使節団は、ルドミラ教国領の中枢へ到達していた。  使者を乗せた外交船は、教国の首都星ヒンデンブルクへ入域すると、管制局から送られてくる誘導信号に従い、大気圏へ降下した。  眼下に広がるのは、緑豊かな大地と、幾つもの尖塔を持つ白亜の都市であった。 その中核都市ニデルの中央には、巨大な大聖堂がそびえている。 宗教施設であると同時に、教国政府の中枢でもある建物だ。 外交船が宇宙港へ着陸すると、白を基調とした礼装姿の官吏たちが使節団を出迎えた。「ご使者様、こちらへお進みください」 使者は教国側の案内役に従い、宇宙港から専用車両へ乗り込んだ。 車両は、巡礼者や商人でにぎわう大通りを抜け、大聖堂へ向かう。 建物の正面には聖人たちの巨大な彫像が並び、その足元では武装した衛兵が厳重な警備に当たっていた。 使者は幾つもの検問を通過し、やがて奥深くにある謁見室へ案内された。「ご使者殿。遠路はるばる、ご苦労である」 使者を迎えたのは、エロー枢機卿であった。 彼は古代帝国の知識や遺物にも通じた宗教家であると同時に、教国有数の政治家でもある。 穏やかな微笑を浮かべているが、その眼差しには、相手の腹の底まで見透かそうとする鋭さがあった。「早速ではございますが、我が主君カスパル大公殿下からの親書をお渡しいたします」 使者は恭しく封書を差し出した。 枢機卿は侍従からそれを受け取り、封印を確認した後、ゆっくりと文面へ目を通す。「……なるほど」 読み終えたエロー枢機卿は、わずかに眉を上げた。「新帝国軍と名乗る賊徒から、アーヴィング大公国を守ってほしいと仰るか?」「はい。左様にございます」 使者は深く頭を下げた。「偽帝ユリウス=アストレアは、荒鷲の金印を利用し、正統なるアーヴィング大公家を滅ぼそうとしております」「金印が偽物であると?」「たとえ金印そのものが本物であったとしても、それを持つ者が正統であるとは限りませぬ」 使者は淀みなく答えた。「ユリウスが旧第六総管区を統一したならば、次に狙われるのはルドミラ教国でありましょう。今こそ我らが手を携え、偽帝アストレアを討ち果たすべきかと存じます」 その主張は、必ずしも的外れではなかった。 ユリウスが旧帝国の正統
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第104話……全権委任法

 アーヴィング大公国が、ルドミラ教国へ外交的な働きかけを行っていた頃。 いわゆる旧帝国では、第六総管区や第五総管区における反乱を鎮圧するため、各星系の住民に過酷な臨時課税を課していた。 艦艇の建造費。 増員した兵士への給与。 失われた軍需物資の補充。 そして、治安維持隊を各地へ派遣するための莫大な経費。 それらの負担は、すべて帝国臣民へ押しつけられた。 日々の食料品や生活必需品にまで特別税が加算され、工場や商店には軍事協力金が割り当てられる。 納税が遅れた者は財産を差し押さえられ、辺境星系では、税を払うために土地や宇宙船を手放す者まで現れていた。 そのため、帝国各地ではさまざまな反政府団体が結成された。 自由選挙を求める政治結社。 課税の撤廃を訴える商工業者の連合。 星系自治を掲げる地方運動。 思想や立場は異なっていたが、彼らは共通して中央政府への不満を抱き、各地で大規模な抗議活動を繰り広げていた。「我々は必ず、再び一つの帝国となる!」 ノクターン総統は、旧帝国領の主要星系を巡り、精力的に遊説を続けていた。「今は苦しい時期である。だが、辺境区の反乱を鎮圧し、帝国の秩序を回復した暁には、必ずや豊かな暮らしを取り戻してみせる!」 演説会場の周囲には、多数の抗議者も集まっていた。 総統を支持する者もいれば、臨時課税の撤廃を叫ぶ者もいる。 警備部隊が両者の間に立ち、辛うじて衝突を防いでいた。 演説を終えたノクターン公爵は、沿道に手を振りながら、黒塗りの専用車へ乗り込んだ。 その車両は、帝国最高水準の防護設備を備えた特注品である。 強力な電磁防壁。 物理弾を逸らす防御重力場。 厚い複合装甲と、防弾透明材。 通常の銃撃であれば、何百発撃ち込まれようとも、車内の要人を傷つけることはできないはずであった。  ……だが、その時。 車両の防御装置は、なぜか作動しなかった。 四方から、ほとんど同時に銃声が響いた。 六発の実体弾が車窓を突き破り、ノクターン公爵の胸部へ集中して突き刺さる。「ぐっ……!」 総統は大量の血を吐き、座席へ倒れ込んだ。 砕けた透明材の破片が、血に染まった軍服の上へ降り注いだ。 運転手が慌てて車両を急発進させる。 同時に、どこに潜んでいたのかと思えるほど多くの警備兵が沿道へ姿を現した。「全員、地
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第105話……戦争商人

 ――聖帝国暦六四五年六月中旬。 銀河聖帝国ノヴァの首都星ベルゼブブ。 中核都市ルシフェルにそびえる帝国最高議事堂の閣議室では、ローゼンタール総統兼宰相を中心に、帝国の今後を左右する討議が行われていた。「現在、真っ先に討つべきは、アストレアの偽帝であると考えます」 そう主張したのは、ロサリオ副総統であった。 ブラウンの髪を持つ、若く聡明な美青年である。行政能力のみならず弁舌にも優れ、ローゼンタールが特に目をかけている人物だった。 二人の間には、政治上の信頼だけでは説明できない特別な関係があるという噂も、宮廷内ではまことしやかに囁かれていた。「いや、そうとも参りますまい」 異論を唱えたのは、外務尚書アリアスであった。 白髪で細身の老人であり、ローゼンタール家の家宰を長く務めてきた。 幼少期のマリアーヌに政治や歴史を教えた、師とも呼ぶべき人物である。「現在の国力を、我が帝国が幾ばくか衰退しているとして十とするならば、アストレアの偽帝国は二、ルドミラ教国は一といったところでしょう」 アリアスは卓上へ星域図を投影した。「アストレアの小僧は、領地経営と人心掌握に長けております。時間を与えれば、二が三となり、やがて五にもなりかねませぬ」「だからこそ、今のうちに叩くべきでは?」 ロサリオが問い返す。「逆でございます」 アリアスは細い指で、ルドミラ教国領を示した。「アストレアと戦う最中に、教国が背後から動けば厄介です。定石に従うならば、邪魔が入らぬうちに最も弱い一を滅ぼすべきでしょう」「なるほど」 軍務尚書ハイアットが頷いた。「では、首都防衛に近衛師団を残し、再びルドミラ教国領へ侵攻いたしますかな。今回はアストレアの偽帝も、惑星アクア攻略に手を取られ、援軍には来られますまい」「ただし、問題がございます」 ハイアットは言葉を続けた。「度重なる敗戦の責任を取り、帝国総軍作戦部長クライツ上級元帥は、軍事最高顧問へと退きました。また、帝国艦隊司令長官レオンハルト元帥も、予備役への編入が決まっております」 閣議室が静まり返る。「帝国軍の最重要職が二つとも空席となります。遠征軍の総指揮を、誰に任せるべきでしょうか?」「ロサリオでよいのではないか?」 ローゼンタールは、さも当然のように答えた。「副総統として占領地を統治する権限も持たせら
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第106話……深海の海賊

 ――聖帝国暦六四五年六月下旬。 ユリウス率いる新帝国軍は、惑星アクアの攻略に苦戦していた。 惑星アクアは、人口や産業構造だけを見れば資源惑星に分類される。 軍事施設が地表の大部分を占めている以上、本来であれば大規模な艦砲射撃も許容されるはずであった。 だが、この惑星の海には、他の星々ではすでに絶滅した海洋生物が数多く生息していた。 交戦条約は、希少生物が確認された海域への無差別攻撃を禁じている。 攻撃可能な場所、兵器の種類、投入できる火力のすべてに、厳しい制限が課されていた。「装甲空母を前進させよ!」「はっ!」 ユリウスの命令を受け、艦隊中央から複数の大型艦が進み出た。 装甲空母は、新帝国軍が近年配備を始めた新鋭艦である。 宇宙空間で使用する宇宙戦闘機と、大気圏内で運用する気圏戦闘機。 その双方を搭載し、発着艦および補給や整備できる多目的空母であった。 また、艦体には分厚い装甲と強力な防御障壁が備えられており、敵の砲撃下でも航空部隊を展開できる。「砲撃艦隊、海面上の確認済みの浮遊対空陣地を制圧せよ。海中へは撃ち込むな!」「了解!」 新帝国軍のビーム砲は、海面へ突入した時点で急速に減衰する。 それでも、装甲空母や強襲揚陸艦が大気圏へ突入する間、敵の対空砲火を抑えるには十分な威力があった。 長距離砲撃を得意とするヘカトンケイル戦略砲兵旅団も、確認されている艦艇は五十隻前後にすぎない。 海中へ潜伏できる地形的優位を失えば、千隻近い新帝国軍艦隊に正面から抗することはできなかった。 惑星アクアの地表を覆うものが、流体金属ではなく海水であることにも意味があった。 流体金属の海へ艦艇を潜ませる場合、施設や船体の腐食や高熱への対策が必要になる。 桟橋、埠頭、防護隔壁、海中扉の建設費も莫大となり、維持するだけで国家予算を食い潰しかねない。 対して、海水ならば既存の潜水技術を応用できる。 さらに、自然の海溝や岩礁を利用し、安価に巨大な防衛網を構築できる。 惑星アクアは、限られた予算で造られた要塞として、驚異的な費用対効果を発揮していた。◇◇◇◇◇ パウルス元帥率いる強襲部隊は、気圏戦闘機の物量をもって、いくつかの対空陣地と航空基地を占領した。 新帝国軍の気圏戦闘機は、数でも性能でも防衛側を圧倒していた。 しかし、目下の最重要
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第107話……大魚の巣

 ――聖帝国暦六四五年七月上旬。 惑星アクアの地下最高司令部で、ルントシュテット伯爵は苛立ちを募らせていた。 机上には、新たな被害報告書が置かれている。 また一隻、海中を航行していた輸送艦が撃沈されたのだ。 襲撃を受けた船からの通信はなく、護衛部隊も敵の姿を確認していない。輸送艦は何の前触れもなく魚雷を受け、そのまま深海へ沈んでいた。 ルントシュテット伯爵は報告書を机へ投げ出し、水中戦闘を専門とする若手参謀を呼びつけた。「お呼びでございましょうか、閣下」「ああ。そこへ座りたまえ」「はっ」 若手参謀が緊張した面持ちで腰を下ろす。「それでだな」 伯爵は指先で報告書を叩いた。「我が領海内に、忌々しい敵の潜水艦が入り込んでいるようだ。なぜ発見できぬのかね?」「はい。敵艦と思われる船は、能動ソナーに反応せず、聴音装置を駆使しても、推進機関の駆動音すら捉えられません」「まったく音がしないと?」「はい。襲撃時に魚雷の航走音が確認されるだけで、発射元は特定できておりませぬ。まるで、海の中に幽霊船がいるかのようで……」「馬鹿なことを申すな!」 伯爵が机を叩いた。「現実に幽霊船など存在するものか!」「……も、申し訳ございません」 若手参謀は額に浮かんだ汗を拭った。「ただし、可能性は低いものの、敵艦が次元潜航艇であるとの意見もございます」「次元潜航艇だと?」「はい。異次元との狭間へ船体を移せば、我々と同じ空間には存在しなくなります。通常のソナーや聴音装置で探知できないのも説明がつきます」 伯爵は不機嫌そうに眉を寄せた。「それほど有用な兵器なら、なぜ我が軍は使っておらぬのだ?」「次元潜航艇は、操縦者の脳波と艦艇を直接連動させる特殊な制御方式を用います。適性を持つ者が極めて少なく、誰にでも扱える兵器ではございません」「訓練では、どうにもならぬのか?」「それだけではありません。水中と異次元の狭間を航行している間は、通常の観測装置がほとんど機能しなくなります」 若手参謀は、卓上に簡単な立体映像を表示した。「操縦者は周囲の地形も、海流も、他の艦艇の位置も把握できませぬ。例えるならば、目隠しをしたまま深海を全速力で進むようなものです」「岩礁へ衝突すれば?」「一瞬で沈みます」「海底火山や海溝へ入り込めば?」「帰還は困難かと」 伯爵
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第108話……大魚狩り

「旗艦へ目標座標を送る! 環境への考慮も重視して、照射面積は最小に集約、威力を抑えることも忘れるな!」 次元潜航海賊船モリガンから送られた位置情報が、超戦艦ハンニバルの中央管制室へと到達する。 直後、全長数キロに及ぶ巨艦の最深部で、主機関が低い唸りを上げた。 人工的に封じ込められた小型ブラックホールが回転を始め、周囲の空間がわずかに歪む。 重力炉の出力計が跳ね上がり、巨大な機関室を青白い放電が走った。 発生した膨大なエネルギーは、艦内の兵装や推進器へは送られず、全て船体側面に設けられた臨時給電口へ集中していく。 ハンニバルと、その隣に停泊する惑星破壊砲「オーディンの剣」との間には、何本もの極太ケーブルが渡されていた。 ケーブルの外装が震え、内部を走るエネルギーの奔流によって、一本、また一本と白熱していく。接続部から火花が噴き上がり、周囲の作業艇が慌てて退避した。 惑星破壊砲の船体には、以前の戦闘によって生じた亀裂や焼損が、いまだ生々しく残っている。 溶接された装甲板は不格好に盛り上がり、砲身の各所には応急補修用の骨組みが露出していた。 その傷だらけの巨砲に、マイクロブラックホールの臨界した力が流れ込む。 停止していた冷却装置が次々と再起動し、砲身を取り巻く蓄積環が、後方から順番に青白く輝き始めた。 低い振動が船体全体を揺らし、周囲の宇宙空間にまで見えないエネルギーの波紋を放つ。「充填率、十……十五……二十!」 警報が鳴り響くなか、《オーディンの剣》は傷ついた獣のように、再び目を覚ました。 ツーシームが示した深海の一点へ向け、惑星を殺す砲口が、ゆっくりと旋回を開始した。◇◇◇◇◇「くるぞ! 急速潜航!!」「了解!」 ツーシームの叫びに従い、モリガンは次元の狭間へと逃げ込む。 次の瞬間、白銀の光柱が宇宙から惑星アクアの海面へ突き刺さった。 ……海が割れた。 いや、割れたのではない。 直撃点を中心に、数百万トンもの海水が一瞬で沸騰し、巨大な蒸気の柱となって空へ噴き上がったのだ。 超高温に晒された海水は液体の姿を保てず、猛烈な蒸気の衝撃波となって四方へ広がる。 周囲の海面が盛り上がり、山脈のような津波が幾重にも連なった。 光柱はなおも衰えず、深海を貫通した。 ヘカトンケイル旅団の長射程ビーム艦を多数収容していた秘密格納
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第109話……大公から準男爵へ

 ――聖帝国暦六四五年七月上旬。「若様……もはや、これまででございます」 ルントシュテット伯爵は、絞り出すような声でパスカルに告げた。 地下司令部の作戦室には、重苦しい沈黙が満ちていた。 壁面の戦況図に映し出されているのは、壊滅した宇宙艦隊を示す無数の赤い表示だった。 しかし、パスカルはなおも敗北を認めようとはしなかった。「いや、まだだ。宇宙艦艇を失っただけではないか。地下基地には、いまだ五万もの惑星地上軍が残っている。一戦して、我らアーヴィング家の武を見せつけようぞ」「……敵軍には、諸侯の私兵を合わせて五十万を超える惑星地上軍がおります」 伯爵は静かに首を振った。「たとえ地下要塞へ籠もったとしても、いつまで持ちこたえられることか。それに、現在のアストレア政権は、降伏の機会を与えられながら最後まで抗戦し、敗れた者には苛烈な処罰を科しております」「苛烈な処罰だと?」「はい。最後まで抵抗すれば、若様とて例外ではございません。爵位も領地も奪われ、放射能汚染の激しい鉱区へ、奴隷として送られることになりましょう」「な、なにを申す!」 パスカルは椅子から立ち上がった。「仮にも私は大公であるぞ! 銀河に名を轟かせたアーヴィング家の当主なのだぞ!」 ルントシュテット伯爵は答えず、卓上の操作盤に手を触れた。 正面の大型モニターに、惑星アクア各地の映像が映し出される。 武器を捨て、隊列を組んで投降していく兵士たち。 装甲車両を放棄し、白旗を掲げる部隊。 輸送艇に乗り込み、次々と戦場を離れていく諸侯の地上軍。 もはや、パスカルの命令に従おうとする者はほとんど残っていなかった。「これは……」 パスカルの顔から血の気が引いていった。「若様。いま降伏なされば、まだ家名を残せる可能性がございます」「家名を……」「さようでございます。生きてさえおられれば、いつか再起の道も開けましょう」 もはや選択の余地はなかった。 パスカルは震える手を握り締め、屈辱に顔を歪めながら、アストレア政権へ和を乞うことを決断したのであった。◇◇◇◇◇ ――三日後。 パスカルは、新帝国軍旗艦ハンニバルへと招かれた。 かつて大公として無数の家臣を従えていた男は、わずかな供回りだけを連れ、皇帝候補であるユリウスの前へ進み出た。 玉座の間には、新帝国へ忠誠を誓った
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第110話……第十四代皇帝

 ――聖帝国暦六四五年七月中旬。 旧第六総管区の大半は、ユリウス=アストレアの手に落ちた。 惑星アクアの攻略を終えた新帝国軍艦隊は、降伏した旧大公国艦隊を伴い、惑星グラウゼンの衛星軌道上へ帰投した。 軌道上には、戦勝艦隊を迎えるための宇宙桟橋が用意されている。 損傷した艦艇が次々に係留され、負傷兵や捕虜が医療船へ移送されていく一方、ユリウスをはじめとする要人たちは、専用シャトルに分乗して地上へ降下した。 公都の宇宙港には、文官、軍人、地方貴族、市民の代表者たちが整列していた。 軍楽隊が荘厳な曲を奏で、新帝国の旗が風にはためく。 やがて、旧アーヴィング大公の宮殿において、盛大な戦勝式典が執り行われた。◇◇◇◇◇          「カスパル=アーヴィング殿。御前へ」 儀礼官の声が、大広間に響き渡った。 呼び出されたのは、他でもないカスパルである。 彼は護衛を伴わず、居並ぶ文武百官の間をゆっくりと進み、玉座の前で膝をついた。 以前の尊大さは影を潜めていた。 その顔には敗者としての疲労と、これから下される処分への恐怖が浮かんでいる。 玉座に座るユリウスの傍らでは、老臣グレゴールが処分状を広げた。「カスパル=アーヴィング殿」 ユリウスは静かに呼びかけた。「そなたは再三にわたる帰順の勧告を拒み、兵を集め、我が軍に抗した。此度の反逆、断じて許しがたい」「……ははっ」 カスパルは床へ額を近づけた。「よって、そなたが支配していた領地の九割を召し上げる。また、ゴチエ資源帯をはじめとする主要鉱区、宇宙港、軍需施設については、皇室の直轄領とする」 大広間に小さなどよめきが起きた。 領地の九割を失う。 貴族にとって、それは手足をもぎ取られるに等しい処分である。 だが、ユリウスの言葉はまだ終わっていなかった。「されど、亡きアーヴィング大公が帝国へ尽くした功績と、その家名を慕う臣民の心を鑑みる」 カスパルが、恐る恐る顔を上げた。「皇太子ユリウス=アストレアは、そなたがアーヴィング大公家を継承することを認める。残された領地を善く治め、二度と臣民を戦火に巻き込まぬことを誓え」 カスパルは一瞬、言葉を失った。 処刑も、家名断絶も覚悟していたのである。「は……ははっ!」 彼は再び深く頭を下げた。「寛大なるご処置、恐悦至極にございます!
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