Semua Bab 星間覇道 ― 銀河最大の内乱 ―: Bab 121 - Bab 130

130 Bab

第121話……ルドミラ総管区

 ――聖帝国暦六四五年十月下旬。  星ヒンデンブルクを揺るがした反乱は、終結した。 聖堂周辺に残っていた旧教皇派の武装勢力も次々に武器を置き、首都ニデルではようやく銃声が途絶えていた。  ……が、平穏が戻ったわけではない。 帝国軍は今なおルドミラ領内へ侵攻を続けている。 さらに増援として、二個正規艦隊と十個師団もの惑星地上軍が向かっているとの情報も入っていた。 内乱に勝利したからといって、喜んでいる暇などなかったのである。 旧教皇庁の大会議室には、ルドミラの主要人物たちが集められた。 中央の議長席に座るのは、エロー枢機卿である。「では、始めましょう」 エローが静かに告げた。「旧政権は崩壊しました。しかし、国家そのものまで失ったわけではありません。我らは一刻も早く新たな統治体制を作り、旧帝国軍への防衛を継続せねばなりませぬ」 軍人、聖職者、地方領主、商会の代表者たちが頷いた。「問題は、誰を暫定政府の首班とするかですな」 一人の司教が口を開く。「エロー猊下では?」「いや」 エローは即座に否定した。「私では旧帝国軍を防げません」 その言葉に、室内が静まり返った。「我らだけで独立を維持できるという考えは、もはや捨てるべきです。旧帝国中央政府との国力差はあまりに大きい」「では、どうなさるので?」 エローは用意していた書類を机上へ置いた。「暫定政府の首班には、アストレア聖帝国皇帝ユリウス一世陛下に就任していただきます」 ざわめきが広がった。「外国の皇帝を首班にするというのか?」「それでは事実上の併合ではないか!」「事実上ではありません」 エローは淡々と言った。「併合されるのです」 今度こそ、会議室が沈黙した。「ルドミラ教国という国号は廃止します。我らの全宙域はアストレア聖帝国へ編入され、以後、この地域をルドミラ総管区と称します」「……そこまで話が進んでいたのですか?」「はい」 エローは悪びれなかった。「旧帝国軍に滅ぼされるか、アストレア聖帝国の一員となるか。私は後者を選びました」 一人の地方領主が腕を組んだ。「我らが宗教はどうなる?」「ルドミラ教会は存続します。信仰、典礼、寺院運営については広範な自治が認められます」「軍は?」「帝国軍へ編入されます」「税は?」「当面は現行制度を維持し、段階
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第122話……罠の中の罠

――聖帝国暦六四五年十一月上旬。  旧帝国中央政府が送り出した増援艦隊は、ついにルドミラ戦域へ到着した。 二個正規艦隊。 その総数、およそ二千隻。 これにより、ロサリオ国家元帥率いる遠征軍は、一気に兵力の優位を得た。 ……しかし。 肝心のルドミラ艦隊が、姿を消していた。 先の会戦以降、ラヒーム将軍は艦隊を分散させ、第五総管区の複雑な宙域へ潜伏させている。 旧帝国側がどれほど索敵を繰り返しても、その主力を捉えることはできなかった。「このまま奴らと鬼ごっこをしている暇はない」 旗艦ウォンロンの作戦室。 ロサリオは、集まった二人の艦隊司令官へ告げた。「ならば、向こうから出てきてもらう」 通信モニターには、第五艦隊司令官ハインミュラー中将と、第六艦隊司令官ゾルゲ中将の姿がある。「しかし、ロサリオ閣下」 ハインミュラーが慎重に口を開いた。「敵艦隊が健在な状態で、惑星ヒンデンブルクへ地上部隊を降ろすのは危険ではありませんかな」「左様、左様」 ゾルゲも頷いた。「揚陸作戦中の艦隊は、艦隊戦に適した陣形を取れませぬ。そこを敵主力に襲われれば、かなりの損害が予想されます」「まあ、聞け」 ロサリオは、卓上の星域図を拡大した。「旧第六総管区の偽帝を奉じる連中の艦隊が、こちらへ向けて出撃したとの情報がある」「アストレア軍ですか」「そうだ。奴らとラヒーム艦隊が合流すれば、面倒なことになる」 ロサリオは惑星ヒンデンブルクを指差した。「だが、新帝国の援軍が来るまで、ラヒームは決戦に出てこぬだろう。ならば、奴らが出ざるを得ない場所を攻める」「……なるほど」 ゾルゲが小さく笑った。「惑星攻撃は餌でございますな?」「その通りだ」 ロサリオも笑みを返した。「第五、第六艦隊はヒンデンブルクへの攻略作戦を開始せよ。可能な限り派手にな」「そして閣下の艦隊は?」「近傍のアステロイド帯に伏せる」 ロサリオは腕を組んだ。「ラヒームが母星を見捨てられずに出てきたところを、横腹から叩く」「畏まりました」 二人の中将が、揃って頭を下げた。◇◇◇◇◇「全揚陸艦、降下開始!」「了解!」 惑星ヒンデンブルクの衛星軌道から、四十隻の大型強襲揚陸艦が一斉に降下を始めた。 厚い装甲に覆われた巨大な船体が大気圏へ突入し、赤熱しながら雲を突き抜けてい
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第123話……「芋を剥いていた天才」

 大公都、惑星グラウゼン。 その衛星軌道上には、アストレア聖帝国の総旗艦ハンニバルが静かに停泊していた。 ユリウスは戦術モニターに映し出されたルドミラ戦域を眺めながら、副宰相クヌート=ザイフリートからの報告を聞いていた。「パウルス元帥率いる第二艦隊、ならびにバーバラ中将率いる第三艦隊。ともに予定地点へ到達いたしました」「うん」「両艦隊は敵索敵網に発見されることなく惑星ヒンデンブルクへ接近。惑星そのものを遮蔽物として利用し、すでにラヒーム中将率いる第五艦隊との合流を完了しております」 ユリウスの顔に笑みが浮かんだ。「成功したか」「はい」「旧帝国軍は?」「未だ、第二、第三艦隊の存在を認識しておりません」「じゃあ、全部うまくいったんだね」 ユリウスは机の下から、大きな箱を取り出した。「君の連続スイングバイ航路がなかったら、こうはいかなかった。約束していた褒美だよ」「これは……」 ザイフリートは珍しく目を輝かせた。「ありがとうございます」「大事にしてね」「もちろんでございます」 大きな箱を両手で抱え、ザイフリートは嬉しそうに艦橋を退出していった。 その後ろ姿を眺めていたツーシームが、近くのソファーに寝転んだまま口を開く。「副宰相、働いてるじゃん」「……なんじゃ?」 グレゴールが嫌な顔をした。「いやあ、最近さ」 ツーシームはニヤニヤ笑う。「宰相様の方は、あんまり目立った仕事してないんじゃないの?」「お前は何を言っておる!」 グレゴールの眉間に皺が寄った。「誰が刻々と位置を変える天体を使って、ヒンデンブルクまでの連続スイングバイなど計算できるというのじゃ! ザイフリートは天才じゃ。あれはわしの仕事を奪っておるのではない。普通の人間にはできぬ仕事をしておるだけじゃ!」「ふーん」「なんじゃ、その顔は!」「でもさぁ」 ツーシームは寝転んだまま、指を一本立てた。「うちのゾル婆だって働いてるよ?」「何をした」「ザイフリートの出した最適航路だけじゃ、艦隊は途中でガス欠になるだろ?」「……まあ、そうじゃな」「だから最適航路の周辺に、工作艦やら補給艦やらを先にばら撒いといたの。艦隊が減速しなくても補給できるようにな」 グレゴールが黙った。「壊れた艦は工作艦が応急修理。弾薬とエーテルは輸送艦から受け取る。必要ない輸
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第124話……ヒンデンブルク沖会戦

 惑星ヒンデンブルク近隣宙域。 戦闘開始から三十分。 ロサリオ国家元帥の参謀たちも、ようやく目の前で起きている異常事態の正体を掴み始めていた。「国家元帥閣下!」 情報参謀が青ざめた顔で叫ぶ。「敵艦隊の識別が完了しました!」「早く言え!」「敵はラヒーム艦隊だけではありません! 反乱軍アストレアと思われる艦隊、さらに旧パニキア軍を主力とする艦隊も確認!」「……何?」「敵は、三個艦隊以上の数です!」 艦橋が静まり返った。「三個……だと?」「はい。一対三です。このままでは、万に一つも勝ち目がございません!」「遅い!」 ロサリオが怒鳴った。「そんなことは見れば分かる! もはや我が艦隊は崩壊寸前ではないか!」 正面モニターでは、前衛のシールド艦が次々と爆発していた。 予定では、あと四時間耐えればよかった。 その間に第五、第六艦隊が合流し、逆に三個艦隊で敵を包囲するはずだったのである。 ……だが。 その四時間どころか、一時間すら持ちそうにない。「両翼を広げろ!」「は?」「鶴翼の陣形だ!」 ロサリオは戦術図を叩いた。「新鋭艦艇の個艦性能はこちらが上だ! 敵を左右から包み込め!」「り、了解!」 命令を受け、旧帝国艦隊の左右両翼が大きく広がり始める。 だが、それは苦し紛れの艦隊運動であった。 陣形を展開するということは、一時的に艦艇同士の間隔が広がるということでもある。 そこを、新帝国側は見逃さなかった。「敵右翼、展開開始!」「長砲身ビーム砲艦、照準!」「左翼にも集中射撃!」 新帝国艦隊の後方に並んでいた砲艦群が、次々に艦首を敵へ向ける。  そして。「撃て!」 宇宙が白く染まった。 通常の艦砲よりもはるかに細く、長く、強烈なビームが、展開途中のロサリオ艦隊両翼へ突き刺さる。「第十八巡洋艦、爆沈!」「右翼のシールド艦二隻、大破!」「左翼戦列、維持できません!」「後退します!」「退くな!」 ロサリオが叫ぶ。 だが、命令だけで装甲は厚くならない。 両翼を形成しようとした艦艇は猛烈な集中射撃を受け、次々に後退を余儀なくされた。 ロサリオが知る由もなかったが、今回のパウルス艦隊には、新型の長砲身ビーム砲艦が多数配備されていた。 原型となったのは、かつて惑星アクアで新帝国軍を苦しめた、第四総管区の戦
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第125話……生存者なし

 惑星ヒンデンブルク近隣宙域から脱出したロサリオ艦隊は、もはや艦隊と呼べる状態ではなかった。 戦闘開始時には整然と陣形を組んでいた艦艇群も、今では各所に損傷を抱え、編隊を維持することすら難しい。 それでも、ロサリオ国家元帥は逃げることだけは諦めていなかった。「進路変更。第七退避航路へ」「はっ!」「ただし十分後に再度変更する。周辺の分艦隊には我々の進路を知らせるな」 参謀たちは一瞬だけ顔を見合わせた。 通常ならば、味方の分艦隊と合流して戦力を増やすべき局面である。 だが、ロサリオは逆を選んだ。 追っているのは、偽帝の元で連戦連勝のパウルス元帥だ。 あの男を相手に、常識的な撤退をしても意味がない。 味方を集めれば集めるほど、その場所が目印になる。「敵は我々の艦隊反応を追っている。ならば、一つの大きな艦隊でいること自体が危険なのだ」 ロサリオはそう言うと、艦橋中央に浮かぶ宙域図へ指を伸ばした。「第三分艦隊を切り離せ。西へ向かわせろ」「しかし、閣下……」「囮だとは言っていない。生き延びろと伝えろ。それぞれ別方向へ逃げれば、敵も追撃戦力を分けざるを得ん」 命令を受けた四隻が艦隊から離れた。 その二時間後には、さらに三隻。 補給基地付近で友軍のミサイル艇十一隻と遭遇した際にも、ロサリオは合流を拒否した。 むしろミサイル艇を三方向へ分散させ、それぞれ異なる航路へ向かわせた。 残存艦艇の識別信号も定期的に変更する。 通信も最低限。 民間輸送船の航路付近を通過するときには速度を落とし、その船影に紛れることさえあった。 敗走ではある。 だが、その逃走は徹底していた。 そして、その効果は確かにあった。「敵艦隊、どうやら本艦隊を見失った模様です」 通信参謀の報告に、艦橋の空気が僅かに緩んだ。 ロサリオは椅子の背にもたれ、深く息を吐いた。「当然だ。戦争とは敵を撃つだけではない」 彼の目の下には、深い隈ができていた。 敗戦。 艦隊崩壊。 そして敗走。 この数十時間、まともに眠っていない。 それでも声だけは国家元帥の威厳を保っていた。「残存艦艇は?」「六隻です」 その数字には、さすがのロサリオも黙った。 旗艦、戦艦ウォンロン。 巡洋艦二隻。 駆逐艦三隻。 それだけだった。 一個艦隊が、僅か六隻。 だが逆に
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第126話……四十隻の潜航艇

――聖帝国暦六四六年五月中旬。 ルドミラ攻略戦の大敗から一月余り。 旧帝国は、失った戦力の再編成に追われていた。 各地の予備艦艇をかき集め、損耗した艦隊へ補充する。士官学校の卒業時期は繰り上げられ、退役寸前だった艦長たちまで現役へ呼び戻された。 だが、艦艇は揃えられても、人間までは簡単に補充できない。 経験豊富な士官。 熟練した機関士。 砲術下士官。 通信下士官。 そうした人材の多くが、ルドミラ方面で失われていた。 一方、新帝国は急がなかった。 ユリウスは軍を動かさず、領内の造船所を稼働させ、徴税制度を整え、弾薬、燃料、食料を蓄積させていた。 戦争とは、艦隊指揮だけで行うものではない。 そして、そのことを誰より理解していたのが、副宰相ザイフリートだった。「第四総管区については、ほぼ問題ありません」 新帝国首都グラウゼン。 宮殿内の会議室で、ザイフリートは淡々と報告を続けた。 長大な卓の上には、旧帝国領を示した立体星図が浮かんでいる。「マスターデリオン侯爵は、正式な臣従こそ表明しておりませんが、すでに我々の経済圏へ大きく傾いております」 第四総管区。 旧帝国最大級の金融市場を有し、銀行、証券、保険、商品取引所が集中する星域である。 直接的な軍事力こそ突出していない。 しかし、帝国経済の血液とも言える資金の流れを握っている。「旧帝国中央政府が発行する戦時国債の引き受けも、大幅に縮小しております」「それだけでも、かなり効くだろうな」 ユリウスが星図を見ながら言った。「はい。金利はすでに急上昇しております」 ザイフリートが資料を切り替える。 数字の列が空中に並んだ。「旧帝国政府の短期国債利回りは、この三か月で約二倍。軍需企業への支払いも遅延し始めております」「金がないのか?」 パウルスが尋ねた。「正確には、信用がなくなり始めております」 ザイフリートは答えた。「政府が明日も存在すると信じられている限り、国は借金できます。しかし、敗戦が続き、領土が削られ、税収が減れば、債権者は高い金利を要求する」「そして、高い金利を払えば、さらに財政が悪化する」「その通りです」 ザイフリートが笑う。「戦争は金食い虫ですからな」 第四総管区を事実上、新帝国側へ引き寄せたことで、旧帝国は軍資金調達の重要な経路を失いつ
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第127話……十万余の機雷

 ツーシーム艦隊は重力波や宇宙潮流を積極的に利用し、隠密航行するために、通常航路を大きく外れながら進撃を続けた。 巨大惑星の重力井戸を掠め、ときには恒星間を流れる粒子流へ身を任せる。 通常艦隊ならば、航法士が眉をひそめるような危険な航路だった。 だが、そもそも速度が遅い次元潜航艇にとっては違う。 重力の流れを利用すれば、他次元への潜航を行いながら速度を稼ぐことができる。 その結果、四十隻からなるツーシーム艦隊は、僅か二か月で第一総管区深部へ到達した。 そして今。 モリガンの次元潜望鏡の視界に、近衛艦隊の秘密基地が広がっていた。「第一遊撃隊、配置良し」「第二主力攻撃隊、準備良し!」 各部隊指揮官からの報告が次々と届く。 ツーシームは安煙草を指先で挟みながら、正面に浮かぶ基地の立体映像を見つめていた。 ロサリオから得た地図に間違いはない。 基地の位置。 警戒網。 防御施設。 宇宙港の構造。 そして、近衛艦隊が有事の際の退避場所まで記されていた。「始めるよ」 ツーシームは短く告げた。「全隊、作戦開始」◇◇◇◇◇ 近衛艦隊秘密基地。 司令官キスリング上級大将の指令室に、警報が鳴り響いた。「閣下!」 情報士官が振り返る。「基地外周部に異常反応!」「何だ?」「次元潜航艇と思われます。微弱ですが、重力波に不自然な揺らぎを確認しました」 キスリングは立体星図へ目を向けた。 秘密基地の存在そのものが、第一級軍事機密である。 敵に場所を知られるだけでも厄介だった。「ここがばれると面倒だな」 キスリングは即座に命じた。「対潜装備を搭載した駆逐艦を四隻出せ。逃がすなよ!」「了解!」 命令を受けた四隻の駆逐艦が宇宙港を離れた。 いずれも近衛艦隊所属。 最新型の次元探知装置と対潜魚雷を装備している。 次元潜航艇一隻程度ならば、十分に対処できる戦力だった。 だが。 出撃から十数分後。『こちら第四駆逐隊!』 通信機から、切羽詰まった声が飛び込んできた。『敵影多数!』「多数?」『七方向から光子魚雷!』 一瞬、通信が乱れた。『確認十五本! 回避――』 そこで通信が途絶えた。 数秒後。 基地の遠距離観測装置に、四つの爆発光が映し出された。「四隻とも反応消失!」「馬鹿な……」 指令室がざわめく。
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第128話……戦場にいない艦隊

――聖帝国暦六四六年七月下旬。 アストレア聖帝国と旧帝国中央政府。 両国の国力は、数字の上ではほぼ互角にまで接近していた。 だが、その先にある成長力まで同じではない。 勢いは明らかに、ユリウス率いる新帝国側にあった。 量子エーテル。 位相鉄鉱石。 それら戦略物資の生産量は増え続け、鉄や銅などの基礎資源についても、新規鉱山の開発と精製設備への投資が進められている。 かつて新帝国最大の弱点であった食料事情も改善されつつあった。 海洋惑星では大規模な養殖事業が始まり、魚類や藻類を利用した蛋白源の生産量が急増。 それでも不足する穀物などのカロリー源については、パニキアを仲介して人類統合共和国との通商条約を締結した。 新帝国からは量子エーテルを輸出。 代わりに穀物、油脂、飼料などを大量に輸入する。 国境を越えて、資源と食料が流れ始めていた。 さらに表には出ていないものの、第二総管区や第四総管区との経済的な結びつきも強くなっている。 新帝国の成長は、もはや旧第六総管区だけの力によるものではなかった。 その勢いは戦場にも現れていた。 両帝国にとって実質的な最大の係争地となった第三総管区では、新帝国軍が旧帝国軍を相手に連戦連勝を重ねていたのである。 そして八月。 ユリウスは、ついに決断した。「第一総管区へ侵攻する!」 旧第五総管区――現在のルドミラ総管区を経由し、帝国中枢へ直接圧力を加える親征であった。 投入兵力は宇宙艦隊五個艦隊。 惑星地上軍、百二十個師団。 新帝国建国以来、最大規模の遠征軍である。 総司令官は皇帝ユリウス一世。 先鋒を務める前衛艦隊はパウルス元帥。 惑星地上軍は、ナシール=イブン=ラヒーム上級大将が統括する。 さらに、かつてアーヴィング大公国軍を率いたハルダー元帥も正式に軍へ復帰。 遠征軍全体の補給と後方輸送を預かる総責任者となった。 そしてもう一人。「面倒な仕事は嫌いなんだけどねえ」 ツーシームが安煙草をくわえながらぼやいた。 彼女に与えられた任務は、敵後方の心理的な攪乱。 正面から殴るパウルスとは正反対の役目であった。◇◇◇◇◇「前方に敵要塞を確認!」 パウルス艦隊の旗艦に、情報士官の声が響いた。 第一総管区は帝国発祥の中心地域である。 外敵の侵入路とされてきた第三総管区側を避け
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第129話……領土の三分の二を捨てる

 相次いで届けられる敗報に、マリアーヌ=ローゼンタール総統は苛立ちを隠せなくなっていた。 第一総管区外縁部では、新帝国軍が要塞を破壊し、次々に惑星を降伏させ、着実にその支配圏を広げている。 その一方で、旧帝国にはなお多数の艦隊が存在するというのに、諸侯たちは自領防衛を理由に兵力を手放そうとしない。「このままでは国が滅びるぞ!」 総統府の執務室に、ローゼンタールの怒声が響いた。「ハイアットよ。軍務尚書として、何か申すことはないのか!」 軍務尚書ハイアットは、しばらく俯いていた。 やがて覚悟を決めたように顔を上げる。「現状において取り得る最善の策は……優秀な軍人へ、軍の全権を委ねることかと存じます」「優秀な軍人?」「はい」「誰を指しておる?」 ハイアットは机上のタッチパネルを操作した。 一人の男の軍歴が、壁面モニターへ表示される。 レオンハルト=トラヴァース。「……トラヴァース元帥か」 ローゼンタールは、その名前に見覚えがあった。「現在は予備役であったな?」「左様にございます」「年齢は……五十七歳?」 ローゼンタールが眉を上げた。「元帥としては、ずいぶん若いではないか」「第三次パニキア戦役において名を上げ、異例の速度で昇進した人物でございます」 画面には、過去の戦歴が次々と並んでいた。 少数艦隊による包囲突破。 撤退戦での友軍救出。 補給線を利用した敵主力の誘導。 手堅さに派手さも兼ね備え、戦局全体を見て勝つ指揮官であることが読み取れる。「これほどの人材が、なぜ現役ではない?」 ローゼンタールの問いに、ハイアットは少し言葉を選んだ。「……軍内での政争の結果にございます」「ほう」「トラヴァース元帥には、有力な後援貴族がおりませなんだ。本人も派閥を作ることを嫌い、上官に媚びることもなかったため……」「能力があるからこそ、邪魔になったということか」「端的に申せば……」 ローゼンタールは、しばらく画面を眺めた。 今の帝国に、人事上の好き嫌いを言っている余裕はない。「分かった」 指先で画面を閉じる。「ただちにトラヴァース元帥を招聘せよ」「はっ」「失礼のないようにな。今はこちらが頭を下げる立場だ」「畏まりました」◇◇◇◇◇ 翌日。 帝国軍の正装に身を包んだレオンハルト=トラヴァース元帥は、総
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第130話……決戦の地アイアンメイデン

――聖帝国暦六四六年九月上旬。 旧帝国軍は、レオンハルト=トラヴァース国家元帥の指揮下で、大規模な再編成を進めていた。 旧式艦艇の後方転用。 能力を無視して高位に就いていた貴族将校の更迭。 実戦経験豊富な中堅将校の抜擢。 これまで派閥と家柄に縛られていた帝国軍に、容赦なく人事のメスが入っていく。 だが。 トラヴァースの矛先が向かったのは、軍部だけではなかった。◇◇◇◇◇「何事だ!」 早朝。 帝都ルシフェルにある総統官邸へ、武装した上級憲兵隊が踏み込んだ。 官邸警備隊は抵抗することすら許されず、次々に武装解除される。 寝室から急いで出てきたマリアーヌ=ローゼンタールは、憤怒の表情で彼らを睨みつけた。「ここが誰の官邸か分かっているのであろうな!」「無論にございます」 上級憲兵隊長は、一礼した。「ローゼンタール総統閣下。ご同行願います」「馬鹿な!」 ローゼンタールの顔色が変わる。「罪状は何だ!」「多数ございます」 隊長が片手を上げた。 後方から憲兵たちが運び込んできたのは、大きな箱であった。 五箱が床へ並べられる。「……何だ、これは」「証拠資料でございます」 その中には、ローゼンタールが官僚時代から積み重ねてきた不正の記録が収められていた。 違法な情報収集。 政敵への恐喝。 通信記録の改竄。 裏金。 司法当局への圧力。 情報部を私的に利用した政敵の失脚工作。 そして、総統就任後に行われた数々の強権的な政治工作。 ローゼンタールは、一枚一枚を見ながら顔を強張らせていった。「……くだらぬ」「そうでございましょうか」「私は帝国総統だぞ!」 ローゼンタールは隊長を睨みつけた。「総統たる私を拘束するには、皇帝陛下の詔が必要だ。それくらい知っておろう!」「存じております」「ならば――」「こちらを」 最後に、一冊の薄い資料が差し出された。 ローゼンタールはそれを開く。 そして。 動きを止めた。「……何だ、これは」 帝国最高機密に指定されている防衛計画。 要塞配置。 艦隊動員計画。 備蓄量。 さらには第一総管区内部の防衛上の弱点。 それらを、ロサリオ副総統を経由して、アストレア側へ流したことを示す訴状が添付されていた。「……な」 ローゼンタールの顔から血の気が引いた。「何な
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