「……様……」 ふいに誰かの声が聞こえたが、きっとまだ生涯を振り返っているのだろう、と思いうつろに重い頭で聞いていた。声がまるでカルーセルの中に響くように感じる。 少し熱を抱えた頭の中に、途切れ途切れの声が何度も割り込んできて、こんなにも呼びかけられた場面などあっただろうか。なんて思いながらも、醒めてまた眠りに入る手前の状態に身を置く。 だが声は津波のように押し寄せてくる。 これが死というものの間際だというのなら、少ししつこい。もういい加減、連れて行ってくれないだろうか。泥の中を漂うように、意識が徐々に沈んでいく。「……士……様!」 そのたびに誰かが私を呼ぶ。 聞き覚えのある、女性の声。しかし頭が熱病みたいにぼんやりとしていて、具体的に誰の声か考えることが出来ない。「騎士様!」 はっと目が覚めた。初めに目に飛び込んできたのは、不安そうな表情をするロラの顔。それに家の天井。つい先程までこれまでの人生を振り返っていたため、一瞬まだ一昨日の記憶を顧みているのかと思った。夜警から戻り、ロラと少しお喋りをしたあの朝だ。 だが背後に長鎗の彼女の姿が見え、すぐにこれが思い出ではないことを知覚する。「良かった。目覚めましたか、騎士様」 生きている。 何が倒される原因となったかは不明だが、ともかく私は確かにあの場で気を失った。ご丁寧に、振り返ったとて意味のない人生まで見せられたというのに。 思いがけないことに、心臓を鷲掴みにされたような感覚が走る。そしてそのまま破裂してしまいそうな、そんな驚きに打たれて目を見開いた。「生きている、のですか。私は」 ゆっくりと、確認するように言う。「騎士様! 良かった、ホントに……!」 途端に、ロラに抱きしめられた。腕が背中に回り、強くいだき締めてくる。突発的にしては些か長い。どうしてかすすり泣いていて、この抱擁は長引く分だけきっと彼女を安堵させるものだ
最終更新日 : 2026-10-13 続きを読む