All Chapters of クズな夫に捨てられた私を拾ったのは冷徹と噂の若頭だった: Chapter 1 - Chapter 10

12 Chapters

一話【冷徹と噂の若頭に拾われた日】

「――お前とはもう終わりだ」 高級マンションのリビング。いつもの安心できる落ち着いた空間でその言葉を聞いた瞬間、私は頭の中が真っ白になった。 「え……?」 つい昨日まで“幸せな家庭”だと思っていた場所で、夫の真嶋圭吾は面倒臭そうにネクタイを緩めた。 「だから離婚しようって言ってるんだよ」 テーブルの上には離婚届。 そして圭吾の隣には――若く綺麗な女が立っている。 派手な赤いワンピース。 甘い香水の匂い。 男に媚びるような笑み。 「初めましてぇ、美月さん」 女は楽しそうに笑った。 「圭吾さん、ずっと我慢してたんですよぉ? 地味で色気のない奥さんに。夜もまともに相手してくれないし満足できないって私に毎日のように言ってましたよ」 「……どういう……こと?」 震える声で聞くと圭吾は鼻で笑った。 「そのままの意味だよ。俺は麗華と一緒になる。お前はもういらない」 私は言葉を失った。 結婚して三年間。夫を支えるため必死だった。仕事をやめて毎日支えた。 起業したばかりで苦しかった時も。 朝まで資料を作った日も。 高熱で倒れた日も。 全部、隣で支えてきた。 なのに。 「……私の何がダメなの……私あなたの為に今まで沢山頑張ってきたのに……」 「お前にはもう飽きた」 冷たい声だった。 涙が出るより先に、呼吸が止まりそう。 麗華は勝ち誇ったように私を見下ろしてくる。 「ねぇ、早くサインしてくれません?」 世界が崩れていく。 涙が出そうなのに、 ショックが大きすぎて逆に泣けなかった。 「安心しろ慰謝料はたんまり振り込んでやる。それでいいだろ」 まるでゴミを捨てるみたいに夫は私を切り捨てた。 結局、私は何も言えないまま離婚届にサインをして財布とスマホだけを持って家を出た。 私はネオンで滲む夜の街を雨に打たれながらただただ俯いて歩く事しかできなかった。 「……っ」 惨めだった。行く場所もない。帰る家もない。 私を愛してくれていると思っていたあの人は最初から自分を愛していなかったのかもしれない。 カップルの笑い声が耳障りだった。 世界中が幸せそうなのに、自分だけが取り残されている気がする。 ふらついた足が車道へ出
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二話【別世界】

九条さんに連れられ、私は黒塗りの車へ乗せられたまま街を走っていた。 窓の外には綺麗な夜景が流れていく。 だけど何も頭に入ってこない。 離婚。 不倫。 横領。 極道。 数時間前まで普通の主婦だったはずなのに、突然別世界へ放り込まれたみたいだった。 「……あの」 恐る恐る口を開く。 「なんだ」 「本当に……圭吾は、その……黒瀬組のお金を……?」 ハンドルを握る運転手の横で、九条さんは煙草を咥えたまま答えた。 「証拠は揃ってる。実際お前の住んでいた家はあんな状態だっただろ」 淡々とした声。 「お前の旦那、元々は頭回るタイプだったんだろうな。金の流し方が妙に綺麗だった」 「……」 「だが欲をかきすぎた」 車内に煙草の匂いが広がる。 「女に入れ込み、見栄張って、背伸びして、最後に道を踏み外した」 確かに最近の圭吾は明らかに羽振りが良すぎた。 車も更に一台高級車を買い、高級時計も買っていた。 でもそれは会社が成功しているからだと思っていた。 私はそう信じていた。 「……私、何も気づけなかった」 小さく呟くと、九条さんは窓の外を見たまま言った。 「気づける女ならとっくに逃げてる」 しばらくして車が止まる。 連れて来られたのは高層マンションだった。 「降りろ」 エレベーターへ乗り、最上階へ向かう。 部屋へ入ると、驚くほど静かだった。 黒を基調とした広い部屋。 余計な物がほとんどない。 でも不思議と冷たすぎる感じはしなかった。 「ここ……」 「俺の部屋だ」 あまりにも自然に言われて、私は固まった。 「えっ……!?」 「あまり騒ぐな」 九条さんはジャケットを脱ぎながらソファへ座る。 「しばらくここにいろ」 「む、無理です!」 「じゃあ帰る場所もなくただひたすら一人で歩くか?」 その一言で黙るしかなかった。 今の私には行く場所がない。 「……お邪魔します」 「それでいい」 九条さんは面倒そうに言いながら煙草へ火をつけた。 その時だった。 コンコン。 部屋のドアがノックされる。 「若頭」 入ってきたのは黒服の男だった。 年齢は三十代くらい。 鋭い目つきだけど、九条さんほど怖くはない。 「榊です」
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三話【不器用な人】

シャワーを借りたあと、私は案内された部屋で一人になった。 広い部屋。白と黒で統一された落ち着いた空間。 ホテルみたいに綺麗なのに、不思議と生活感がある。 ベッドの端へ腰を下ろし、私はぼんやり窓の外を見つめた。 高層階から見える夜景は今まで見た事のないくらい綺麗だった。 なのに何も感じない。 頭の中はぐちゃぐちゃだ。 数時間前まで普通に夕飯の献立を考えていた自分が、まるで別人みたいだった。「……はぁ」 深く息を吐いた、その時。 コンコン。「……はい」 ドアが開き、榊さんが姿を見せる。「失礼します」 手には紙袋があった。「若頭からです」「……?」「着替えとか最低限の物を買ってこいって」 渡された袋を開くと、部屋着や化粧水、歯ブラシまで入っていた。「え……」「サイズは適当に見繕いました。問題あったら言ってください」「い、いえ……」 私は戸惑う。 極道ってもっと怖い人達だと思っていた。 もっと乱暴で威圧的で。 でも九条さん達は少なくとも私にはそういう態度を取らない。「……ありがとうございます」「礼なら若頭にどうぞ」 榊さんは軽く笑った。「あの人、不器用ですから」「不器用……」「はい。優しくするの下手なんですよ」 少し意外だった。 確かに九条さんは口も悪いし目つきも怖い。 でも缶コーヒーを渡してくれたり、部屋を用意してくれたり。ずっと優しくしてくれている。「……どうして、そこまで」 思わず呟くと榊さんは少し考えるように黙った。「若頭、昔から“巻き込まれた人間”を放っておけないんです」「……え?」「まぁ、そのせいで余計な面倒背負うことも多いんですけどね」 そう言って苦笑する。 その時、廊下の向こうから低い声が聞こえた。「榊」「……噂をすれば」 榊さんが肩を竦める。 部屋の入口に九条さんが現れた。 黒いシャツにスラックス。 煙草を咥えた姿は相変わらず怖い。「長居しすぎだ」「すみません」 榊さんは軽く頭を下げる。「じゃあ俺はこれで」 そう言って出て行った。 部屋に沈黙が落ちる。 九条さんは私を見るなり言った。「少しは落ち着いたか」「……はい」 本当は全然落ち着いてない。 でもこれ以上迷惑をかけたくなくて、そう答えた。「嘘つけ」 でも即座に見抜かれてしまう。「顔
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四話【安心】

深夜一時過ぎ。 私は借りた部屋のベッドへ座ったまま、ぼんやりスマホを見つめていた。 誰からの連絡もない。  静かすぎる夜。 なのに胸の奥だけが落ち着かない。「……眠れない」 小さく呟き私はベッドから降りた。  少し水を飲もうと思い部屋のドアを開けるとリビングは薄暗かった。 間接照明だけが点いていて、昼間よりずっと静かに見える。 その奥。 ソファに座る九条さんの姿があった。 片手に煙草。 もう片方にはグラス。 黒シャツのボタンが上から二つ外れていて、昼間よりずっと色気がある。 私は思わず足を止めた。「……起きてたのか」 低い声。「す、すみません」「謝んな」 九条さんは煙を吐く。「眠れねぇんだろ」「……はい」 図星だった。 「っ……」 急に目眩がして体がふらつく。 倒れそうになった瞬間、強い腕が腰を支えた。「おい」「……っ」 九条さんだった。 気づけば、ほとんど抱き寄せられるみたいな体勢になっている。「顔真っ青だぞ」「だ、大丈夫です……」「大丈夫な奴は倒れたりしねぇよ」 近い。 煙草と香水の匂いがする。 心臓が変な音を立てた。「座れ」 九条さんに半ば強引にソファへ座らされる。 すると額へ大きな手が触れた。「……熱あるな」「え?」「自覚ねぇのか」 言われてみれば、少し頭がぼんやりする。 ずっと気を張っていたせいかもしれない。「……すみません」「なんで謝る」 九条さんは呆れたようにため息を吐く。「待ってろ」
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五話【居場所】

翌朝目を覚ますとカーテンの隙間から薄い朝日が差し込んでいた。「……ん」 ぼんやりする頭を押さえながら体を起こす。 熱は少し下がったみたい。 でも昨夜の事を思い出した瞬間に顔が熱くなる。 九条さんに抱き上げられた事。 額へ触れられた事。 あの近すぎる距離。「……何考えてるの私」 小さく呟いて顔を覆う。 相手は極道だ。 怖い人。 普通なら関わる事すらない世界の人間。 なのに。 昨日の九条さんは、どうしようもなく優しかった。 ――コンコン。「起きたか」「は、はい!」 慌てて返事をするとドアが開く。 入ってきた九条さんは黒のシャツ姿だった。 昼間なのに妙に色気がある。「熱は」「もう大丈夫です」「顔見せろ」 近づいてきた九条さんの手が額へ触れる。「……っ」 また心臓が変な音を立てた。「少しマシか」「……はい」 九条さんは短く息を吐く。「なら飯食え」「え?」「食わねぇとまた倒れるぞ」 テーブルを見るとお粥が置かれていた。「……九条さんが?」「榊だ」「ですよね……」 少しだけ残念に思ってしまった自分が嫌になる。 すると九条さんが鼻で笑った。「なんだその顔」「べ、別に!」 慌ててお粥へ視線を落とす。 その時だった。 ブブッ――。 九条さんのスマホが震える。 少し空気が変わった気がした。 さっきまで少し柔らかかった表情が、一瞬で冷える。「……どうした」 電話へ出た九条さんの声は低かった。『若頭
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七話【調子が狂う】

圭吾は榊さんに腕を掴まれたまま顔を青くしていた。「ま、待ってくれ……! 本当に話すから……!」 さっきまで女とホテルにいた男とは思えないくらい情けない声だった。 九条さんはそんな圭吾を冷たく見下ろしている。「お前さ」 煙草を咥えたまま低く言う。「今、自分がどれだけダサいか分かってるか?」 圭吾の顔が歪む。「っ……」「自分に尽くしてくれた女捨てて逃げ回って、別の女抱いて最後は命乞い。救いようがねぇな」 その言葉が胸に刺さったのか、圭吾は悔しそうに唇を噛んだ。 「……行くぞ」 榊さんが圭吾を押す。 エレベーターへ向かう途中、圭吾が突然こちらを見た。「美月……!」 私は足を止める。「お前、本当にそっち側行くのか?」「……そっち側?」「極道だぞ!?」 圭吾が声を荒げる。「そんな奴ら信用するのか!? 危ない連中なんだぞ!!」 一瞬、空気が止まった。 でも。 次の瞬間、九条さんが小さく笑った。「おもしれぇな」 低い声。「誰のせいでこうなったと思ってんだ? そもそもその危ない連中に協力したのは誰だ」 圭吾が言葉に詰まる。「お前が捨てた女を俺が拾っただけだろ」「美月!」 圭吾が焦ったように言う。「騙されるな! こういう奴らは利用価値なくなったら簡単に捨てるんだよ!」 その瞬間。 九条さんの目がすっと細くなった。「……お前がそれ言うのか」 静かな声だった。 でも圧が怖い。 圭吾もすぐに青ざめた。「っ……」  圭吾が黙り込む。 私はそんな圭吾を見ながら、胸の奥がじわじわ痛むのを感じて
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八話【放っておけない】

九条さんのマンションへ戻った頃には時刻は深夜三時を回っていた。 玄関へ入った瞬間一気に力が抜ける。 「……疲れたか」 後ろから低い声。 「……少しだけ」 本当は全然“少し”じゃない。 圭吾と完全に終わった。 自分の口で終わらせた。 それだけで心も体も限界だった。 九条さんはそんな私を見て、小さく煙を吐く。 「今日は色々ありすぎたな」 「……はい」 静かな部屋。 でも不思議と落ち着く。 すると奥から榊さんが姿を見せた。 「若頭」 「どうした」 「真嶋圭吾ですが、別室へ確保しています」 私は思わず顔を上げる。 「逃げられないよう、今は組の管理下です」 「暴れてねぇだろうな」 九条さんが不機嫌そうに聞く。 「最初は騒いでましたが、今は静かです」 「そうか」 九条さんは興味なさそうに煙草を咥える。 「まぁ逃げ場ねぇって理解したんだろ」 その時だった。 ――ピンポーン。 深夜とは思えない軽いチャイム音。 九条さんが露骨に嫌そうな顔をした。 「……はぁ、アイツか」 「え?」 ガチャ。 「やっほ〜」 明るい声と共に入ってきたのは、派手な巻き髪の美女だった。 情報屋の椿さんだ。 「九条〜。仕事終わった〜?」 「何時だと思ってんだ。帰れ」 「冷たっ」 椿さんは笑いながら部屋へ入る。 でも今日は前よりより空気が違った。 笑っているのに、目が笑っていない。 「……何かあったんですか?」 私が恐る恐る聞くと、椿さんはじっと私を見る。 「うん。あんまり良くない話」 空気が明らかに変わった。 「……黒蛇か」 「さすが話早い」 椿さんはソファへ座り、足を組む。 「黒蛇、真嶋圭吾探して結構派手に動いてたみたい」 私は息を呑む。 「でも――」 椿さんがこちらを見た。 「もう見つかってるって気づいたっぽい」 九条さんの目が細くなる。 「……どこでバレた」 「今日のホテル」 静かな声。 「黒蛇の下っ端が周辺見張ってたみたい。そこで見られてる」 私は嫌な予感がした。 「……何を」 椿さんは小さく息を吐く。 「九条とあなたが一緒に居るところ」 背筋が冷えた。
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九話【黒蛇の車】

九条さんに見つめられるだけで心臓がうるさい。 こんな感情もう二度と抱かないと思っていたのに。「……そろそろ寝ろ。今日は頭使いすぎだ」 九条さんはそう言って離れようとする。 でも。「……ま、待ってください」 気づけば私は九条さんのシャツの裾を掴んでいた。「……っ」 自分でやっておきながら顔が熱くなる。 九条さんも少しだけ目を見開いていた。「……なんだ」「その……」 うまく言葉が出ない。 一人になるのが怖かった。 部屋へ戻って、暗い場所で一人になった瞬間、全部思い出してしまいそうだったから。 圭吾に裏切られた事。 黒蛇に狙われている事。 普通の生活には戻れない事。 絶対に色々考えちゃう。「……一人にしないでほしいです」 小さな声だった。 九条さんはしばらく黙る。 それから深くため息を吐いた。「……はぁ」 呆れたみたいな声。「ほんと調子狂う女だな」 でもその声はどこか優しかった。 九条さんは私の隣へ座り直す。「これでいいか」「……はい」 胸の奥が少しだけ落ち着く。 静かな夜だった。 窓の外には東京の夜景。「……眠れねぇのか」 九条さんが煙草を咥えながら聞く。「……少しだけ」 本当はかなり。 すると九条さんが私を見る。「じゃあ少し話すか」「え?」「無言だと余計な事考えるだろ」 意外だった。 この人、自分から誰かと話すタイプじゃないと思っていたから。「……九条さんって、いつからこの世界に……極道になったんですか?」 聞くと九条さんが小さく笑う。「随分踏み込むな」「す、すみません……!」「別に謝らなくていい」 そう言って煙を吐く。「まぁ、生まれた時からこんな世界だ」「……」「親父が組の人間だったからな」 静かな声だった。「だから普通の学校行って、普通に就職して、普通に家庭作って……って人生とは無縁だな」 私は言葉を失う。 そんな風に言う横顔が、少しだけ寂しそうに見えた。「……嫌じゃなかったんですか」「昔はな」 短い返事。「だが今さら抜けようとも思わねぇ」 九条さんは窓の外を見る。「この世界じゃ、綺麗事だけじゃ守れねぇもんもある。実際幾つもこの身で経験してきた」 その言葉が胸に残る。 私はぼんやり九条さんの横顔を見つめた。 この人の眼差しは凄く真っ直ぐ
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十話【狙われる立場】

朝。薄い光がカーテンの隙間から差し込み、私はゆっくり目を開けた。「……あれ」 体を起こしかけて、動きが止まる。 肩へ何か柔らかいものが掛けられていた。 黒いジャケット。 九条さんのだ。 昨夜、いつの間にか眠ってしまったらしい。 リビングを見回すとソファの向こうで九条さんが煙草を指に挟みながら書類を見ていた。 横顔が妙に静かだった。 窓の外はもう朝なのに、この部屋だけ夜が続いているみたいに感じる。「起きたか」 視線を上げないまま、九条さんが言った。「……おはようございます」「体調は」「大丈夫です」 本当は少し怠い。 でも昨日よりはずっとマシだった。 九条さんは灰皿へ灰を落とす。「なら良かった」 短い言葉なのに、胸の奥がじんわり温かくなる。 私は毛布を畳みながら小さく息を吐いた。「……私、ここで寝ちゃってたんですね」「途中で部屋戻そうとしたが起きなかった」「っ……」 寝顔を見られたと思うと恥ずかしくなる。「す、すみません」 そういうと九条さんは少し笑っていた。  その時だった。 テーブルの上のスマホが震える。 九条さんの目が変わった。「……榊か」 電話を取る。「どうした」『若頭、少し厄介です』 スピーカー越しの榊さんの声は珍しく硬かった。『黒蛇側が動き始めました』 私は無意識に肩を強張らせる。「具体的には」『美月さんの周辺調査です。以前通っていた美容院、買い物先、交友関係まで洗われています』「……そんな」『どうやら本格的に狙いを定めたようです』 九条さんが静かに煙を吐いた。「圭吾はもう諦めたか」『えぇ。今は完全に“美月さんを押さえる”方向です』 電話が切れる。 部屋が妙に静かだった。 私は自分の指先を見つめる。 震えていた。「……怖ぇか」 九条さんが低く聞く。「……はい」 隠せなかった。「知らない所で、自分の事を調べられてるのが……気持ち悪くて」 九条さんは少し黙ったあと、ゆっくり立ち上がる。 そして私の前へ来た。「顔上げろ」「……え」「いいから」 恐る恐る顔を上げる。 次の瞬間、大きな手が頬へ触れた。「っ……」 親指がそっと震えを止めるみたいに撫でる。「今のお前、追い詰められた猫みてぇな顔してる」「……そ、そんな顔してますか」「あぁ」 九
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