朝食の段取りを考えなくてもいい。 何も責められない夜。 そのはずなのに、身体はまだ信じていなかった。 澄乃は布団に入った。 布団は温かかった。誰かが湯たんぽを入れてくれていたのだろう。足元からじんわりと熱が上がってくる。久世家の寝室の冷えとは違う。掛け布団は軽く、けれど肩をきちんと包む。枕には、干した布の匂いがした。 澄乃は、仰向けになって天井を見た。 木の梁が見える。 古いが、きちんと手入れされている。壁の隅に小さな傷があり、そこに時間が積もっていた。見覚えがあるような、ないような部屋だった。祖母と泊まった部屋ではない。けれど、水篝館の空気は同じだった。 川の音がする。 遠くで、廊下を歩く足音が一度だけ聞こえた。 澄乃の身体が、反射的に強張った。 昌親が帰ってきた。 そう思った。 次の瞬間、自分がどこにいるのか思い出す。 違う。 ここは久世家ではない。 あれは宿の人の足音か、客の足音だ。自分が起きて茶を用意する必要はない。玄関へ出る必要もない。ネクタイを受け取る必要も、会食先の愚痴を聞く必要もない。 澄乃は、掛け布団を握りしめている自分の手に気づいた。 指先が白くなるほど力が入っている。 ゆっくり開く。 布団の布地が掌の中で皺になっていた。 澄乃は息を吐いた。 大丈夫。 声には出さない。 出せば、かえって泣いてしまいそうだった。 少しして、また眠りに落ちかけた。 今度は、携帯の幻の震えで目が覚めた。 枕元に置いた携帯は静かだった。画面も暗い。それでも、身体が先に反応していた。義母からの電話。昌親からの連絡。会社総務からの確認。そういうものを、体がまだ待っている。 澄乃は携帯を手に取った。 通知はない。 ただ、時刻だけが表示されている。まだ日付が変わったばかりだった。 眠ったと思ったのに、ほとんど時間が経っていない。 落胆が胸に落ちる。 眠れると思ったのに。 水篝館へ来たら、安心して眠れると思っていたのに。 体は、そんなに簡単にはほどけなかった。 澄乃は携帯を伏せた。 画面の光が消えると、部屋はまた行灯の柔らかな明かりだけになった。障子の向こうに、廊下の灯りが薄く透けている。誰も澄乃を呼ばない。誰も襖を開けない。誰も、なぜ寝ているのかと責めない。 それなのに、胸がざわつく。 何か忘れて
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