携帯を握ったまま固まった律。携帯を握る指先が、白くこわばっている。これまでに感じたことのない、突き放されたような屈辱と無力感が、冷たい潮のように押し寄せてくる。この時初めて、律は心の底から思い知った。自分は取り返しのつかないことをしてしまったのだと……駿に電話で冷たくあしらわれても、律は諦めるどころか、かえって執着心に火がついた。紗雪が完全に自分の世界から消え、他の男に抱かれるなど受け入れられるはずがない。紗雪が国内で大切なピアノのリサイタルを開くと聞いた。おそらく、これが最後のチャンスになるだろう。コンサート当日の夜。会場は満席だった。律は暗い客席の隅に座り、スポットライトの中で輝く紗雪の姿を見つめていた。彼女が奏でる音は、情熱的に高まり、ときに優しく心を包み込む。その一音一音には、彼女が歩んできた人生そのものが込められていた。もはや自分だけのために演奏していた頃の紗雪はいない。彼女は広い世界へ羽ばたき、多くの人に愛され、その才能を存分に花開かせていた。終演後の拍手はいつまでも鳴り止まない。紗雪は何度もアンコールステージに現れ、疲労を感じさせながらも、満足げな笑みを浮かべていた。律はすぐに立ち上がり、この日のためにわざわざ空輸で取り寄せた、紗雪が昔好きだった希少な花束を手に、楽屋へと急ぐ。彼女が昔褒めてくれたスーツに着替え、過去の好みを懸命に思い出しながら、あの頃の影を探そうとあがいた。楽屋の入り口で、ようやくメイクを落として帰ろうとする紗雪を見つけることができた律。紗雪はラフな服装で、疲れてはいるものの、瞳は澄んで落ち着いていた。「紗雪」律は一歩近づき、花束を差し出す。自分でも気づかないうちに、声には切羽詰まった響きが溢れた。「コンサート、お疲れ様。少しだけ……二人で話せないかな?」紗雪は立ち止まり、静かに彼の手元の華やかな花束を一瞥すると、感情の欠片もない、距離を置くような眼差しを律に向けた。「神谷社長」紗雪は冷ややかに、かつ丁寧に言葉を紡ぐ。「コンサート関連の契約や交渉なら、マネージャーを通してください。私的なご用件なら……」間を置いた彼女の口元に、薄らとした皮肉な笑みが浮かび、視線が再び花束に向けられた。「受け付けませんので。それに……」紗雪は律の固まった顔を見据え、丁寧に言った。「も
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