厨房の熱気は上がり、換気扇がフル稼働で匂いを外へ吸い出していく。 春菜はフライパンを振り続け、宮本はご飯をよそい続けた。「本当! 美味しい!」「見てよこの生姜焼きのタレ。ツヤツヤで黄金色よ!」「唐揚げもサクサクでたまらない!」「この店、こんなに美味しかったのか」 そんな声が、さらにお客を呼び込んでいく。 メニューを3種類に絞った効果は絶大だった。 迷う時間がなくなり、調理工程もシンプルになったことで、提供スピードが格段に上がっている。 客は熱々の料理に舌鼓を打って、満足げな顔で会計をしていく。「メニュー少ないけど、提供早くて助かるな」「美味しいわねえ。今度旦那も連れてこようかしら」 客席から聞こえる弾んだ声が、春菜の耳に楽しく響いていた。 ◇ 午後2時になった。 のれんを下げ、ランチタイムの営業が終了した。 客席には誰もいなくなり、静まり返った店内にテレビの音だけが響いている。 春菜は布巾を手に、客席のテーブルを拭いて回った。 空になった皿をトレイに乗せて下げる。 どの皿も見事に空っぽだ。 生姜焼きのタレはご飯に吸わせて食べ切られ、唐揚げに添えたキャベツの一片も残っていない。(お客さんの笑顔……。みんな料理を楽しんでいた。これが、私のやりたかったことなんだわ) シンクに皿を重ねながら、春菜は胸の奥に温かいものが広がるのを感じた。 高級レストランの複雑なソースや、芸術品のような盛り付けも素晴らしい。 けれど目の前で美味しそうにご飯をかき込む人々の姿は、何にも代えがたい喜びだった。「お疲れ様でした。いいスタートが切れましたね」 春菜が厨房に戻ると、宮本がまかないい用のお茶を湯呑みに注いでいた。 湯気とともに、ほうじ茶の香りが漂う。「ああ。こんなに忙しくて、こんなに嬉しい疲れは何年ぶりだろうか。あんたのおか
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