みやこ食堂の厨房で、春菜はステンレス製のシンクに溜まった泡を水で洗い流した。 蛇口からほとばしる冷水が、長時間の調理で火照った手元を冷やしていく。(ランチタイムのピークは過ぎた。今日の回転率も目標達成ね) みやこ食堂の客席には、昼食を終えて満足げに帰っていった客たちの空き皿が並んでいる。 かつては閑古鳥が鳴いていたこの店も、今では連日満席の繁盛店となっていた。「春菜さん、今日も助かったよ」 背後から足音が近づいてくる。白い割烹着姿の宮本が、ねぎらいの言葉とともにほうじ茶の入った湯呑みを差し出した。 香ばしい茶の香りが、醤油と出汁の匂いが染み付いた厨房に広がる。「ありがとうございます、宮本さん」 春菜はエプロンの紐を解きながら湯呑みを受け取った。温かいお茶を一口飲む。 胃に熱が落ちていく感覚が、仕事終わりの心地よい疲労を際立たせた。 厨房の配置を見直し、メニューを絞り込んだことで、みやこ食堂のオペレーションは完全に安定した。 宮本1人でも、ピーク時の注文を滞りなくさばける仕組みが定着している。 春菜は湯呑みを両手で包み込みながら、宮本に向き直った。「宮本さん。みやこ食堂のシステムはもう完全に回っています。私はそろそろ、お暇しようと思って」 宮本の目が大きく見開かれた。彼の手から布巾が滑り落ちそうになる。「えっ? そんな、まだ春菜さんの力が必要だよ。どうかこれからも、うちで力を貸してくれないか?」 懇願する宮本の声に、春菜は首を横に振った。「いいえ、宮本さんはもう大丈夫です。1人でも十分に店を回せます。私ね、この店でお役に立てて本当に嬉しかったんです。お客さんの笑顔をたくさん見られて、料理人としてのやりがいを再確認できました」 春菜の脳裏に、翔太と梨沙に裏切られ、すべてを奪われた冷たい雨の日の記憶がよぎる。 指先が一瞬冷たくなる感覚を覚えたが、彼女はすぐに過去を意識の外へ追いやった。「それで思ったんです。みやこ食堂以外にも、腕は確かなのに経営のやり方が分か
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