All Chapters of 性悪婚約者に見世物にされた私を連れ去ったのは、黒い噂の財閥会長でした: Chapter 131 - Chapter 139

139 Chapters

130話

「分かった、隠し事は無しだ。だが、母さんにはまだ会わせられない。それは分かってくれ」 「分かった、もうあなたのお母様に会おうとしない」 百合が言うと、秋明は安堵したように口角を上げる。 「それを聞いて安心した。そうだ、お前にまだ、あのことを話せてなかったな」 「あのこと?」 百合が小首をかしげると、秋明は不敵な笑みを浮かべ、身を乗り出す。 「宝生家の金庫を、取り返した」 百合は驚きのあまり目を見開く。熊谷家に騙され、奪われたという宝生家の、アレグリアの希望。それがようやく、本来の所有者である百合の元に戻ろうとしている。 驚き、喜び、感動などがないまぜになり、うまく言葉を発せない。 そんな百合を見て、秋明は嬉しそうに笑う。 「いい反応だ。その顔を見られただけでも、金庫を取り返した価値があった」 「からかわないで。でも、本当に? 一体、どうやって?」 「野暮なこと聞くな。さぁ、帰ろう」 「えぇ……!」 会計を済ませると、ふたりは家に向かう。車で2時間以上かかる距離が、もどかしい。 なんとなくスマホを見ると、ニュースアプリの通知があった。開いてみると、熊谷家に空き巣が入ったというニュースだ。 記事によれば、高価な装飾品や絵画、腕時計のコレクションなどが盗まれたという。 「もしかして、この空き巣って……」 「さぁな。俺は別に、書類や金庫を盗んでくるように命令なんかしてないぞ」 わざとらしく言う秋明に、百合は吹き出す。 「ふふ、そうね」 すました顔をして運転する秋明の横顔を見て、百合はある決心をする。 「ねぇ、秋明さん。帰ったら、遺書を見せるわ。それと、遺書と一緒に入ってたものも」 「いいのか?」 「えぇ。あなたは私のために、金庫を取り返してくれた。それなら、私も誠意を見せないと」 「百合……。分かった、帰ったら見せてくれ」 1時間ほど運転した後、ふたりは小休憩をするためにコンビニに立ち寄り、飲み物を買う。買ったばかりのお茶を飲みながら時間を確認しようとスマホを見ると、速報の通知が来た。 百合達が住む街の近くで、殺人事件が起きたというニュースだ。「やだ、隣街で殺人事件ですって」「物騒だな……」 記事を読もうと通知をタップし、百合は絶句する。事件の被害者は、百合にしつ
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131話

「警告、だろうな……。大人しく従えとでも言いたいのか……」 秋明の言葉が百合に重くのしかかる。自分はとんでもない人間に関わってしまったと、今更気づいてしまった。「私、とんでもないことを……」「フロントのことは気にするな。お前が悪いわけじゃない。まずは帰ろう」「そうね……」 秋明は百合を励ますように肩を軽く叩いたが、百合の気持ちは軽くならない。 少し前まではようやく父が遺してくれたものを見れるとドキドキしていたが、今はもう、それどころではない。(私が予定通り滞在してたら、あの人は……) 罪悪感が押し寄せ、フロントとのやり取りが何度もリフレインする。 無知は罪。知らなかったからと言って、すべてが許されるわけではない。その理屈が通るのなら、法律を知らずに殺人をした者も無罪になる。(私が殺したようなもの、よね……) だが、百合を裁く法律は、少なくとも日本にはない。罰せられないことが、苦しかった。 家につくと、秋明に連れられ、百合の自室に行く。壁際には今までなかった机が設置されており、その上に古びた金庫が置かれていた。 金庫は金具や南京錠で机に固定されている。「勝手に部屋に入ってすまない。だが、これはお前の部屋に置いておくべきだと思ったんだ」「いいの、ありがとう……」「俺は部屋を出た方がいいか?」「いいえ、ここにいてちょうだい」「……分かった」 秋明は室内を軽く見回すと、元々あったテーブルの椅子に座り、百合を見守る。(遺書には、あのシグネットリングに暗証番号があるって書かれてたわね……) 母から渡されたシグネットリングの内側を見ると、確かに数字が彫られていた。その数字は以前藤子から聞いたふたりの結婚記念日だった。それを見て、胸が苦しくなる。(父さんは、本当に母さんを愛していたのね……) そんな父が秋明の父親の勝手で殺害されたと思うと、やるせない。 深呼吸を何回か繰り返すと、シグネットリングを金庫のくぼみにはめこみ、暗証番号を入力する。金庫は重々しい音を立てながら、数センチほど開く。 百合は震える手で金庫の扉を大きく開いた。古びたにおいに一瞬顔をしかめ、中を見る。 金庫の中は二段に区切られており、下の段には現金が、上の段にはジュエリーケースと書類が入っている。 現金は100万円の束がいくつも並んでいる。ざっと2000万はあ
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132話

「これは……証券だな。いくらになるのかは調べないと分からないが……」 「海外証券ってこと?」 百合は困惑した。元々資産がどうという話の知識はほとんどない。外国のものとなれば、尚更だ。 「お前の父親は、用心深い上に用意周到だな。どうする? 紫苑に頼んで調べさせておくか?」 「えぇ、あなたと紫苑なら、信用できる。お願いするわ」 「早速呼ぼう」 秋明は紫苑に電話をかけ、要件を伝えた。 「20分くらいで来るそうだ。にしても、大手の株券まであるとは……。しかもこれ、お前の父親が生きてる頃は、そこまで大きな会社じゃなかったぞ。先見の明があったのか、それとも別の何かか……。なんにせよ、とんでもない額になる」 秋明は書類を1枚1枚確認し、振り分けていく。どういう基準で振り分けているのか、百合には分からない。 「それ、開けなくていいのか?」 ずっと百合に見られていると気づいたのか、秋明は顔を上げずに言う。 「そうね。なんだか、書類が気になっちゃって……」 「盗んだりしないから安心しろ」 「そんな心配、してないわよ」 百合は苦笑してそう返すと、ジュエリーケースを開けた。中には息をするのも忘れてしまうほど美しいティアラと、金貨が3枚入っている。「すごい……」 素手で触るのはためらわれた。百合は慎重に箱を持ち上げ、ティアラに嵌め込まれた宝石を見る。中央に大きな赤い宝石が鎮座しており、両サイドにはダイヤモンドがいくつも散りばめられている。「これ、よく見たらローズジュエリーじゃない……!」 ルビーと思われる赤い宝石には、薔薇が彫られている。間違いなくアレグリアの専売特許であるローズジュエリーだ。「ほう、美しいものだな」 書類の確認が終わったのか、秋明が覗き込んでくる。「お前の父親は、本当にとんでもないものを遺したな。鑑定してみないと分からないが、あのアレグリアが、ルビーを主役にティアラを作るとは思えない」「じゃあ、ガーネット?」「推測だがmレッドダイヤじゃないか?」「レッドダイヤ!?」 思わず大きな声が出てしまう。レッドダイヤは普通のダイヤモンドよりも希少価値が高い。まだ宝石の勉強を始めて日が浅い百合にも、ティアラの石がレッドダイヤだったら、とんでもない額になるのは分かる。「どうする?鑑定士にでも見せてみるか?」「そうね……。
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133話

先についたのは紫苑だった。紫苑は百合から書類を受け取ると、調べるためにどこかに行った。少し遅れて鑑定士の宇野康介という男が、妻夫木家のインターホンを押した。「お久しぶりです、妻夫木様」「あぁ、久しいな。入ってくれ」「はい」秋明はリビングに宇野を案内する。「こちらは妻の百合だ。お前に見てもらいたいのは、百合が持っているものだ。百合」「えぇ」百合は向かいに座った宇野に、ジュエリーケースを差し出す。「拝見させていただきます」宇野は白手袋をすると、ジュエリーケースを慎重に開ける。中身を見て一瞬目を見開き、ティアラを手に取り、様々な角度から確認した。その後、金貨を1枚1枚確認する。「まず、こちらの金貨は本物の純金です。1枚80万円前後するでしょう。そしてこちらのティアラですが、値段はつけられません」「それは、何故ですか?」不安に震える声で、百合が聞く。宇野は安心させるように微笑んだ。「まず、中央の石はレッドダイヤといって、大変希少価値の高い宝石となっております。それに今はなき技術でローズジュエリーに加工されています。レッドダイヤは5カラットもあります。これだけでも10億はします」「じゅっ……!?」 途方もない額に、言葉が詰まる。「ローズジュエリーに加工されたことによって、その価値は何十倍にも跳ね上がります。ダイヤモンドも質が高いですし、台座はプラチナでできています。このティアラひとつで、国が作れますよ」「国が……」 想像すらつかない金額に、目眩がする。これほどのものを、何故父が遺せたのか、謎が深まるばかりだ。1枚80万円前後の金貨が、小銭に見えてくるのだから恐ろしい。「どうか、大事に保管してください」「は、はい……」「他に鑑定するものはございますか?」「いや、ない。ご苦労だった」「いえ。いつでもお呼びください。では」 宇野は一礼し、妻夫木家を後にした。百合はしばらく、呆然とティアラを見つめる。「本当に、とんでもないものね……」「高価過ぎて、価値がつけられないティアラか……。熊谷家には、扱えないだろう。金庫を戻すか」「そうね」 百合がジュエリーケースを戻して閉めると、秋明は金庫を百合の部屋に運ぶ。「ありがとう、助かったわ」「礼を言うのは俺の方だ。おかげで貴重なものを見ることができた」 秋明は金庫を一瞥すると、百
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134話

「何かしら」 ポストから手紙を出してみると、結婚式の招待状だった。「どうした?」 後ろから秋明が百合の手元をのぞき込む。「結婚式の招待状よ。熊谷家からのね」 百合が呆れてため息をついたのとほぼ同時に、百合のスマホが鳴る。ディスプレイには、マキの名前。「タイミングのいいこと」 吐き捨てるように言うと、電話に出る。「もしもし?」『百合、久しぶり。あの後どう? 腹黒会長にいじめられて毎日泣いてるの?』 不愉快なほど甘ったるい声に、思わず舌打ちしそうになるのをぐっとこらえる。「秋明さんとはうまくやってるわよ。それより、結婚おめでとう」『あ、招待状届いたんだ? よかったぁ♡』 わざとらしい声に、1年分のストレスが一瞬で蓄積する。金草マキという女は、いつもこうだ。百合をイラつかせたり、陥れたりする方法を常に考え、実行する。この招待状も、そういったものだろう。『百合にしか頼めないことがあるのよねぇ。私の親友として、スピーチしてくれない? ほらぁ、百合だったら、私のことも、矢絃さんのこともよく知ってるでしょ? それに、百合は親友だから』(電話越しでよかったわね、お互い) 心の中でそう言い、息を小さく吐くと、言葉を紡ぐ。「えぇ、もちろん。最高のスピーチをしてみせるわ」『ホント? 嬉しい♡ 楽しみにしてるわ』 電話が終わると、秋明は隣で失笑する。「おめでたい女だな。で、どんなスピーチを考えてるんだ?」「どんなスピーチにしようかしら?」 百合は鼻歌を歌いながら、家に入っていく。秋明はそんな妻を見て笑う。「さて、と……」 部屋に戻ると、百合はノートパソコンを起動し、動画編集ソフトを落とした。編集ソフトに触るのは、美大生の時以来だ。自分の作品のプロモーションビデオを作る授業で触っていたのだ。といっても、基本的なことしかできないが。 それでも、立派に見せる術は身につけていた。「とっておきのスピーチにしないとね。それと、サプライズも」 編集を進めているうちに、口角があがっていく。サプライズはいつでも楽しいものでなくてはならない。準備期間さえも。 百合は勉強の合間を縫って、美大生時代の友人に声をかけたり、動画編集をしたりと、忙殺されていた。 だが、かつての同級生達が協力をしてくれたおかげで、サプライズの動画は想像以上にクオリティの高い出来
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135話

 結婚式当日。式場に足を運ぶと、美大時代の後輩、美里が受付をしていた。「美里ちゃん?」「あ、宝生先輩! お久しぶりです」 美里は百合に気づくと、満面の笑みを見せてくれた。(再会は嬉しいけど、どうして美里ちゃんがいるのよ……) 美里は百合にとっては可愛い後輩で、美里も百合を慕ってくれていたが、マキは違う。 日本の大学は高い。そのため、親の金でただなんとなく通う者と、夢のために必死でバイトを掛け持ちして通う者で分かれがちだ。マキは前者で、百合と美里は後者だ。 特に美里は生活に余裕がなく、いつも同じ服を着回していた。マキはそんな美里に目をつけ、パシリにしたり、嫌がらせをしたりしていたのだ。 見栄っ張りなマキが友人席を埋めるために美里に声をかけるのは予想していたが、美里が出席した上に、受付までしているのは予想外だ。動画を作る際、美里に声をかけて協力してもらったが、その時も何も言っていなかった。「百合、やっと来たのね。待ってたんだから」 振り返らなくても、甘ったるいしゃべり方でマキだと分かる。「マキ、結婚おめでとう」 振り返ってお祝いの言葉をかけるが、マキはピンク色のドレスを着ていた。そのドレスが幼児向けのドレスとロリータを足して2で割ったようなデザインで、吹き出しそうになるのをこらえるのが大変だった。 自称美脚の持ち主は、膝上でフリルがたっぷりのバランスが悪いドレスを自慢げに見せてきた。「ふふ、かわいいでしょ、このドレス」「えぇ、よく似合ってるわ」(空っぽ女って感じでピッタリ) 心の中で本音を言い、笑いをこらえる。「ウエディングドレスも、オーダーメイドなのよ。ごめんねぇ? 先に幸せになっちゃって♡ でも、矢絃は私がいいって言うからぁ♡」「気にしないで、お似合いよ」「ふふ、ありがとぉ」 マキは勝ち誇ったような顔から、蔑む顔に変わり、美里を見下ろす。「ちょっと、しっかりやりなさいよね。ご祝儀猫ババしたら承知しないから。この場にいられるだけ、感謝しなさいよ。あんたみたいな貧乏人じゃ、どうあがいても、こんなホテルに入ることなんて不可能なんだから」「はい、先輩……」 美里は作り笑いをしてうなずく。マキはそんな美里を満足気に見ると、控室に戻っていった。「大丈夫?」「気にしてません。それに私、ハワイで挙式するの決まってるんで。これ、招
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136話

 いよいよ披露宴が始まり、新郎新婦が入場する。盛大な拍手で出迎えられたふたりは、幸せを見せつけるような笑みで軽く手を振り返したり、会釈をしたりしながら、高砂へ行く。 百合や旧友達は、マキのドレスを見て思わず笑ってしまった。ピンクのディアードドレスで、花飾りが散りばめられている。この花飾りが1色ならまだマシだっただろうが、水色や紫、オレンジなど色とりどりだ。 この手の衣装を好んで着るのは園児か、一昔前の原宿系アイドルくらいだろう。「マキのあのセンス、相変わらずなのね」「けど、人気者になれそうだよね。幼稚園で」「ちょっと、笑わせないでよ」「まぁ、注目は集まってるわよね」 百合達は、声を潜めて昔話をする。美大時代、様々な講師や教授が、マキがデザインしたものを幼稚だと指摘していたのだが、マキは「あの人達の感覚がお古なだけ。これは幼稚じゃなくて最先端!」と言い張っていたのだ。「ママ、あのドレス、れいかちゃんがお遊戯会で着てたのにそっくり」 近くの席から、そんな声がする。そっと見てみると、幼女が無邪気にマキを指さしていた。マキを見ると、子供に手を振り返している。「ちょ、ホントにやめてよ。これ、絶対に笑っちゃダメなバラエティじゃないんだからさ」「たぶん、マキはお姫様みたーいとか、かわいーとか言われたと思ってるよね」「はぁ、声を上げて笑えないのがつらい」 百合と同じテーブルに座っている友人達は、うつむいたり顔を覆ったりして、笑っているのをなんとかごまかしている。他のテーブルをまじまじと見る余裕などないが、苦笑や失笑をしている者がいるのは、容易に想像がつく。 それから美大生組にとって、苦行のような披露宴が続いた。ケーキも、衣装替えのドレスも、すべてが夢かわ園児センスが輝いていた。何かが新しくお出しされるたびに、このテーブルの面々はうつむいた。 笑いが落ち着いた後にマキを見ると、得意げにこちらを見ているのだから、またうつむくことになる。マキの性格を考えると、笑われていることに気づいていないどころか、「大企業のイケメンと結婚した私を、皆が羨ましがっている」と、なんともおめでたい勘違いをしているのは明白だ。 この状況で「笑うな」というほうが無理な話だ。「それでは、友人スピーチを、宝生百合さんにお願いします」 司会に呼ばれると、百合は水を一口飲んでから息
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137話

 百合はふたりに笑いかけてから、会場に目を向ける。会場入りした時には気づかなかったが、後ろの方にはカメラマンが何人かいた。秋明を一瞥してからマイクを調整し、持ってきた原稿を開く。「マキ、矢絃さん。この度はご結婚おめでとうございます。ふたりはとてもお似合いのカップルなので、こうして結婚したことが、とても嬉しいです。マキとは美大で知り合い、矢絃さんとは、母を通じて知り合いました。なので、ふたりが知り合いだったことに最初は驚きましたが、今思えば運命だったのかなと思います」 横目でふたりを見ると、意地の悪い笑みを浮かべていた。きっと、負け惜しみか何かだと思っているのだろう。「ふたりの結婚式に、ただのスピーチだけではお祝いしきれないので、動画を作ってきました。ごらんください」 百合の合図で場内は薄暗くなり、スクリーンに動画が映される。最初に映ったのは、百合達が通っていた美大だ。その後、かつての同級生や後輩数名が集合し、皆で手を振る。大半が引き立て役や数合わせで今日呼ばれた人だ。百合と同じテーブルにいる人や、受付をしていた美里も映っている。「マキ、結婚おめでとう!」 動画内の彼女達は、笑顔で声を揃えた。カメラマンをしていた百合の手が、おもちゃのマイクをひとりに差し出す。「それでは、ひとりひとつ、マキとの思い出をどうぞ!」「私から」「えー、私!」「私私!」 動画内の百合が思い出話をうながすと、彼女達はマイクの奪い合いを軽くする。百合が招待客を見ると、彼らはあたたかい目で動画を見ている。マキと矢絃も、嬉しそうに動画を見ていた。 きっと、友人の結婚を祝う優しい友人達に見えているのだろう。「私は、課題で作ったバッグをマキに取られて、マキの成果にされました!」「私は彼氏寝取られた」「貧乏人って呼ばれて、パシリさせられてました! お駄賃1円から50円でした!」「課題のデザインパクられた上に、私がパクったことにされました!」「マキに、お前達みたいな貧乏人が成功するわけないって言われてましたけど、今の私はお菓子のパッケー
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138話

「違う! こんなのでたらめだ!」 矢絃は声を張るが、動画の音声の方が大きいうえに、動画という形で証拠が残っているのだから、どうしようもない。 画面は切り替わり、日付付きでマキと矢絃がホテルに出入りしたり、キスをしたりしている写真が流れる。 最後に、百合が秋明に連れ去られたあのパーティーの動画が流れる。動画内で矢絃とマキは、百合を矢絃の婚約者だと思い込んでいる頭のおかしい女としてバカにしている。動画は百合がバカにされ、うつむいたところで終わる。 ちなみにふたりが百合をバカにする動画は、秋明が何かあった時のためにと、部下に撮らせていたものだ。まさかそんな動画があるとは、百合も編集作業をするまで、知らなかった。 場内が明るくなると、招待客は冷たい目で新郎新婦を見ている。「最低」「見損なったぞ」「ご祝儀は返してもらおう」 招待客は軽蔑の目や言葉を投げ、去っていく。「待ってください、誤解です!」「そうですよ! この女が合成で!」「合成であそこまでの動画が作れるわけないじゃない」 誰かの呆れかえる声に、失笑が広がり、新郎新婦の顔が青ざめる。 百合は大きな花瓶に隠れて上着を羽織り、アップにしていた髪をおろして印象を変えると、他の招待客達に紛れて会場を後にした。 百合を呼び止める声が聞こえたが、知ったことではない。 会場から出て少し歩くと、友人達が集まって待っていた。「大成功ね!」「最高だったわ」「はぁ、やっと笑えるわ」「本当に、面白すぎる」 友人達とひとしきり笑った後、ずっとここにいたら彼らに見つかるからと、予約していたホテルに向かう。祝勝会をやるために、奮発してスイートルームを予約していたのだ。 途中、コンビニで酒やつまみなどを買うと、ホテルに行った。「すっごい、広い!」「えー、めっちゃ綺麗!」「ここに住みたいわ」 感想を言いながらひとしきり部屋を見て回ると、テー
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