風呂からあがると、少し迷った末に共用の寝室に入る。秋明は既にいて、ベッドに腰掛け、本を読んでいた。「あがったか」「えぇ、まぁ……」「この部屋に、小さなデスクを置こうと思ってる。欲しいものはあるか?」「えっと、そうね……」 室内を見回す。最低限の家具しか置いてない、シンプルな寝室を。確かに物足りなさはあるが、一般的な夫婦の寝室に何が置いてあるのか分からないし、特に欲しいものは思いつかない。「今のところ、特にないわ。まだ、ここで過ごしてないから……」「そうか。欲しいものができたら、自分で買うなり、俺に言うなりしてくれ」「分かったわ」 返事をしてドレッサーに座り、タオルで濡れた髪を拭いていると、タオルを取り上げられた。「ちょっと……!」「表で夫婦として演じるのなら、これくらいのことはしておいたほうがいいだろう。俺達はプロの役者じゃないんだ。ある程度触れ合っておいた方が、ボロが出にくいはずだ」「そう……」 どう返していいのか分からず、短く返すと、鏡越しに秋明を見た。何を考えているのか分からない、そっけないような顔をしているが、百合の髪を拭く手つきはとても丁寧で優しい。(これは本当に、表で演技をするためなの?) 百合の中にうずまく疑問や不安になどお構いなしに、秋明は淡々と百合の髪をドライヤーで乾かし、ヘアオイルまでつける。すべて終わる頃には百合の髪は美容院帰りのようにサラサラだ。「すごい……」「髪を伸ばすなら、ヘアオイルやヘアミルクくらい使え」「ありがとう……」「これくらい当然だ。タオルは明日、洗濯機にでも放り込んでおけ」 秋明は濡れたタオルを椅子の背もたれにかけ、百合の手を引く。「もう寝るぞ」「えぇ……」 ベッドに入ると隅で秋明に背を向けると、後ろから抱き寄せられた。驚いて秋明を見上げると、彼は不機嫌そうな顔をして百合を見下ろしている。「そんな隅で寝るな。落ちるだろう。セックスができるようになるまで、お前は俺の抱き枕だ。俺の腕の中で眠れ」「……おやすみなさい」 強引な行動と物言いになんと返していいのか分からず、挨拶をして目を閉じる。 秋明の腕の中は想像以上に安心し、百合はいつの間にか夢の世界に落ちていった。(まったく、無防備な女だ) 秋明は百合の寝顔を見ながら内心ため息をつく。この生活がしばらく続くから、自分がい
Read More