聡祐は思わずクスッと笑った。澪の白い手首に目を落とすと、名残惜しそうにゆっくりと手を離した。「そこまで説明してくれたんだから、これ以上責めるわけにもいかないな」以前の澪なら、事情を説明するどころか、「さっさと失せろ」と言い放っていただろう。澪は怪訝そうに彼をちらりと見た。頭がおかしいんじゃないか。急に何が面白くて笑っているのだろう。「約束をすっぽかされたことは事実ですが」聡祐は澪を見下ろしながら、先ほどまで彼女の手首を握っていた指先を軽くこすり合わせた。「投資の話は、予定どおり進める」今度は澪が驚く番だ。聡祐のことだから、もったいぶるか、あるいは腹を立てて投資をやめると言い出すと思っていた。「正直に言えば、現時点では実現の可能性が高いとは思わない。技術的な課題も多い。ただ――」聡祐は目を伏せ、声を落とした。「母の腫瘍は、手術ができないほど難しい場所にある。もし、そんな手術の壁を打ち破れるロボットが本当にできるなら、やってみる価値はあるだろう?」それは多くの患者を救うための研究だ。たとえ資金が無駄になっても、彼は賭けてみるつもりだ。澪は思わず聡祐を見直した。「そんなに見つめられると、惚れられたかと思うよ」聡祐は後ろ手に持っている契約書を澪に差し出した。「その気なら、先に離婚してくれ。不倫相手になる気はないからな」澪は言葉を失った。やはり、この男はどこかおかしい。澪は契約書を受け取り、最後のページに書かれた聡祐のサインを確認した。「陸原さん、今日出資してよかったと思う日が必ず来ます」澪は投資を無理強いするつもりはなく、最終的な判断は相手に委ねるべきだと考えている。彼女は契約書をひらりと揺らして、それだけ言い残して背を向けた。聡祐は遠ざかる澪の背中を見つめ、片眉を上げた。そこまで言い切るのなら、必ず成功させてもらわなければ。もし本当に成功したら――聡祐は再び澪に目をやり、先ほど彼女の手首をつかんでいた自分の手を見下ろし、意味ありげに目を細めた。――澪と知之は荷物をまとめ、その日のうちに飛行機でK市に戻った。聡祐との出資契約がまとまり、プロジェクトはとりあえずの開発資金を確保できた。しかし、この研究には莫大な費用がかかる。今回の六十億円でひとま
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