蓮がこれほどまでに自分を後押ししてくれるとは、紗耶にとって予想外の展開だ。しかも、気心の知れた仲間が集まるこの場で、蓮がここまで自分を立ててくれた。これで、自分が征司の特別な相手だということは、皆にも十分伝わったはずだ。紗耶の頬に、思わずうっすらと赤みが浮かぶ。彼女はすぐ隣に座っている征司を見上げた。「征司、蓮さんの悪ノリに付き合わないで。みんな見てるんだから」そのひと言で、周囲はたちまち沸き立った。「腕を組んで飲めよ!」「そうだ、腕を組んで!」「そのままキスもしちゃえ!」あちこちから、冷やかすような歓声が次々と沸き起こる。征司は膝に肘をつき、長い指でグラスをゆっくりと揺らした。「今日の主役は蓮だろ」蓮は征司のグラスに自分のグラスを軽く当てた。「誕生日なんて関係ない。親友が幸せになるほうが大事だろ」今日この場に集まっているのは、プライベートでも親しい仲間ばかりだ。征司が若くして結婚したという噂は、誰もが以前から耳にしている。しかし、目の前の光景に、誰一人として違和感を覚える者はいない。名家同士の結婚なんて、世間体さえ保てていればそれでいい。裏では好きに遊んでいるのが当たり前で、親しい女の一人や二人いることも珍しくない。蓮は部屋の隅へ意味ありげな視線を投げた。祖父の命を救ってくれた紗耶に、蓮は返しきれないほどの恩義を感じている。これを見れば、澪も自分など征司にとって何の意味もないと分かるだろう。それで大人しく身を引いてくれるなら、紗耶にとっても好都合だ。会場はもう誰にも止められないほどの騒ぎになっている。澪は目の前の茶番を嫌でも見せつけられている。人混みに遮られて、もはや征司たちのいるあたりの様子はほとんど見えない。まさか、ここまでの事態になるとは思わなかった。澪は背を向けた。背後では今も歓声がやむ気配はない。この場にふさわしくない人間は、自分一人だ。お酒を一気にあおると、彼女はそのまま出口へ向かった。「澪さん、待って」紗耶が追いかけてきた。振り返ると、紗耶は人混みを抜け、澪の目の前に立っている。二人が腕を組んで酒を飲んだのか、それとも本当にキスまでしたのか、澪には分からない。だが、紗耶の唇の端には、グロスがほんのわずかに滲んでいる。
Read more