All Chapters of 限界OL、女風のナンバーワン〝レイ〟を指名したら上司の特等席でした: Chapter 11 - Chapter 20

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11.淫らな夜

 観覧車のゴンドラ内で交わされた、熱く、貪るようなキスの余韻。 それは、りとの身体の奥底に眠っていた強烈な性欲の炎に、これ以上ないほどの油を注ぎ込んでいた。 遊園地からハイクラスホテルへ向かうタクシーの中でも、りとは鷲尾と隣り合って座るだけで下腹部がじんと熱を帯び、太ももの内側が疼いて仕方がなかった。 長年長続きしない恋愛ばかりを繰り返し、満たされることのなかった身体の欲求。それが今、この隣に座る完璧な鬼上司によって、限界まで引き上げられているのだ。 ホテルの最上階。予約していた重厚なスイートルームの扉が閉まり、外の喧騒が完全に遮断された――その瞬間だった。「さて、甘崎。まずはシャワーを……」「だめ。シャワーなんて浴びてる余裕、ありません」 いつもならレイ――鷲尾がスマートにエスコートし、彼の手主導で極上の時間が始まる。 しかし今日ばかりは、りとの方が完全に理性を手放していた。 真っ白なダッフルコートを床に乱暴に脱ぎ捨てると、りとは鷲尾のダークグレーのタートルネックの胸ぐらを両手でむんずと掴み、部屋の中央にあるふかふかの巨大なベッドへと彼を乱暴に押し倒したのだ。「なっ……! おい、甘崎……!」 不意を突かれた鷲尾は、されるがままにベッドの端に腰を下ろす形となった。 見下ろしてくるりとの瞳には、天真爛漫なドジっ子部下の面影など微塵もない。そこにあるのは、完全に発情し、オスを求めるメスの熱を帯びた、酷く色っぽい色情の光だった。「……最初にデートしたの、大正解でしたね」 りとは、鷲尾の膝の間に自分の身体を割り込ませるようにして立ち、彼の顔を至近距離から覗き込んだ。「今日一日、遊園地でずっと、ず〜っと焦らされちゃってて。手なんか繋がれたり、優しくされたりして……」 甘く掠れた声で囁きながら、りとは自分の穿いているフレアスカートの裾を、ゆっくりと、見せつけるように太ももの上まで捲り上げた。 現れたのは、淡いピンク色の繊細なレースの下着。 しかし、そのクロッチ部分は、すでに彼女自身の身体から溢れ出した愛液によって、ぐっしょりと濃い色に染まり、太ももの内側にまで透明な蜜が伝い落ちていた。「私、もうここ……すごいことになってますよ」 りとは、自分の指先で、濡れそぼった下着の谷間をツゥッと扇情的に撫で上げた。 クチュッ、と卑猥な水音が、静か
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12.馬鹿な女だ

 鷲尾の腰の動きが、次第にコントロールを失っていく。「あ……っ、甘崎、もう、だめだ……っ、離せ……っ」 限界を悟った鷲尾が、りとの髪を掴んで引き剥がそうとする。しかし、りとは彼から離れるどころか、さらに深く根元まで熱の塊を咥え込み、上目遣いで鷲尾を見つめたまま、舌を激しく絡ませた。「……っ! 出すぞ……っ!!」 ズクンッ、と下半身が大きく跳ねた瞬間。鷲尾の先端から、ドクドクと濃厚な白濁の液体が、りとの口内に勢いよく放たれた。 普通なら吐き出したり、むせたりしてしまうほどの量だ。しかし、りとは眉一つひそめることなく、喉をゴクンと鳴らして、それを一滴残らず飲み込んだ。 そして、ゆっくりと鷲尾の熱を口から解放すると、唇の端にわずかに残った白い液体を、色っぽい舌先でペロッと舐め取った。「ん、おいしっ……♡」 とろけるような笑顔と、淫らな台詞。 その光景を見た鷲尾の中で、何かが完全に弾け飛んだ。「……お前は、本当に……っ」 たまらないといったふうに低く呻くと、鷲尾は一瞬で攻守を逆転させた。りとの肩を乱暴に掴み、ベッドのシーツへと押し倒す。「きゃっ……」「たっぷり可愛がってやると言ったな。……俺をここまで煽った責任、きっちり身体で取らせてやる」 鷲尾の目は、完全に飢えたオスのそれだった。 彼は猛獣のような手つきで、りとのフレアスカートを勢いよく脱がせ、愛液でぐっしょりと濡れたレースの下着も一瞬で剥ぎ取った。 露わになったりとの白い肌。その中心にある、すっかり準備を整えてテカテカと光る秘所を目にして、鷲尾の喉仏がゴクリと鳴る。「こんなに濡らして……いやらしい女だ」 鷲尾は顔を沈め、りとの蜜壺を直接舌で貪り始めた。「ああっ……! か、ちょ……そこ、だめぇっ……!」「だめなわけないだろう。さっきの強気はどこへ行った」 鷲尾の舌使いは、先ほどのりとの奉仕を何倍にもして返すような、執拗で情熱的なものだった。最も敏感な真珠の粒を舌先で器用に弾き、溢れ出す蜜をジュルジュルと音を立てて飲み込んでいく。「ひゃああっ! あ、やだ……おかしく、なっちゃう……っ!」 りとの背中が大きく反り返り、シーツを掴む手に力がこもる。 彼女がガクガクと身体を震わせ、一度目の絶頂を迎えた直後――鷲尾は一切の容赦なく、長くしなやかな指を、りとの濡れそぼった奥深くへと一
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13.割り切った関係

 熱気と甘い匂いが充満するベッドから這い出し、二人はスイートルームに備え付けられた、ガラス張りの広々としたシャワールームへと向かった。  温かいシャワーの湯が、汗と愛液でべたつく二人の身体を優しく洗い流していく。「……背中、流しますよ」 りとはボディソープをたっぷりと泡立てたスポンジを手に取り、鷲尾の広くて逞しい背中をこすり始めた。  先ほどまで獣のように自分を貪り、愛してくれた男の、引き締まった筋肉の凹凸。ところどころに、自分が絶頂の最中につけてしまった爪痕がうっすらと赤く残っていて、りとは少しだけ顔を熱くした。「……あの、課長」 弾けるシャワーの音に紛れさせるように、りとはふと、ずっと気になっていた疑問を口にした。「ん?」 「課長って……こういうお仕事をしていて、お客さんのこと、好きになったりしないんですか?」 スポンジを動かすりとの手が、ピタリと止まる。  鷲尾はシャワーヘッドから降り注ぐ湯を頭から浴びながら、少しだけ沈黙した後、きっぱりと答えた。「あり得ないな」 「……絶対に、ですか?」 「ああ。それどころか、俺は仕事の場以外でも、特定の誰かに恋愛感情は抱かないようにしている」 振り返った鷲尾の顔は、湯気に包まれて少しぼやけていたが、その切れ長の瞳だけは真剣な光を帯びていた。「もし、特定の誰かを好きだという感情を持ってしまったら……こうしてプロとして客に施術をするたびに、その好きな相手に対して、強い裏切りと罪悪感を覚えるようになるだろうからな。自分の心が別の誰かにある状態で、目の前の客に愛を囁くなど、セラピストとしての矜持が許さない。俺は常に、プロとして完璧なパフォーマンスを提供したいんだ」 それは、極めて論理的で、いかにもプロフェッショナルな彼らしい答えだった。  けれど、りとの耳には、その言葉がどこか〝自分自身に強く言い聞かせている〟ように聞こえた。  絶対に恋愛はしない。してはいけないのだと、見えないルールで自分をきつく縛り付けているような、そんな不器用な響き。 りとは少しだけ胸の奥がチクリと痛むのを感じながらも、わざと明るい声を出した。「なるほどー。プロ意識の塊ですね。じゃあ逆に、お客さんの方から好きになられちゃうことはないんですか? 鷲尾課長、黙っていればすっごくイケメンですし」 「……黙っていれば、とはな
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14.大型商談

 あんなにも甘く、とろけるような熱に浮かされたクリスマスが嘘のように。  月曜日の朝、りとの働く株式会社ウィルクエスのオフィスにはいつもと変わらない、無機質で張り詰めた空気が漂っていた。「おはようございます!」 真っ白なダッフルコートからいつものオフィスカジュアルに着替えたりとは、気合いを入れるように元気な声で営業部のフロアへと足を踏み入れた。  自分のデスクに向かう途中、視線の先にはすでに完璧なスリーピースのスーツを着こなし、パソコンのモニターと睨み合っている鷲尾の姿があった。「課長、おはようございます」 「……おはよう」 鷲尾は、キーボードを叩く手を止めることもなく、画面から一切目を離さずに短く返事をした。その声のトーンは、ホテルで甘く愛を囁いてくれたレイのものでも、別れ際に優しいキスをしてくれた男のものでもなく、絶対零度の〝鬼上司〟そのものだった。(ううっ、やっぱり仕事中は完全に別人だ……。ちょっと寂しいような、でも安心したような……) りとは小さく息を吐き、自分のデスクに鞄を置いた。 その日の朝礼は、いつも以上にピリッとした緊張感に包まれていた。「本日の十一時から、我が社の大会議室でグランド・クレスト不動産との大型商談が入っている。今期の売上目標を大きく左右する重要な案件だ」 鷲尾の低くよく通る声が、フロア全体を引き締める。グランド・クレスト不動産といえば、業界でもトップクラスの大手クライアントだ。もしこの商談が成立すれば、営業部としてはかなりの功績になる。「今回のプレゼンは俺がメインで進めるが、補佐として……甘崎、君に同席してもらう。入社三年目、そろそろこの規模の商談の空気にも慣れておけ」 「えっ……! は、はいっ! 承知いたしました!」 突然の指名にりとは驚きで声をひっくり返しそうになりながらも、慌てて背筋を伸ばした。鷲尾の補佐。それはつまり、彼の隣で一挙手一投足を見られながら、完璧なサポートを要求されるということだ。 朝礼後、りとは急いでプレゼン用の資料準備に取り掛かった。  分厚い企画書と見積書の束を、先方の人数分コピーして製本しなければならない。時間は限られている。(急がなきゃ、急がなきゃ……っ!) 焦る気持ちが、りとの天性のドジを引き寄せてしまった。  原本となる資料を複合機の自動送り装置にセットし、スタ
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15.納会

 十二月二十八日、水曜日。  株式会社ウィルクエスの営業部フロアは、朝からバタバタと慌ただしい空気に包まれていた。  本日は仕事納めであり、午後からは社内全体での大掃除、そして夕方からは納会が控えている。(だめだめ。絶対に、好きになっちゃだめ……!) りとは自席のデスク周りを片付けながら、パタパタと両手で自分の頬を叩いた。  一昨日の月曜日、グランド・クレスト不動産との大型商談を終えた後。誰もいない廊下で頭を撫でられ、りとは自分が鷲尾冴臣という男に完全に惹かれていることを自覚してしまった。 しかし、相手はプロのセラピストだ。休日のあの極甘な時間は、あくまでお金を払って買っている〝疑似恋愛〟のサービスに過ぎない。  しかも、鷲尾自身が「客に恋愛感情を抱くことはあり得ない」とシャワー室で断言していたばかりだ。 ここで自分が本気になってしまえば、この都合の良い関係すら壊れてしまう。それどころか、ただでさえドジばかりで迷惑をかけている上司との関係もぎくしゃくしてしまうに決まっている。(私はただの部下! 休日はお金を払っているお客さん! それ以上でも以下でもないの!) ぐるぐると頭の中で自分に言い聞かせていると、不意に背後から声が掛かった。「甘崎。現実逃避をしていないで、キャビネットの上の古いファイルを倉庫用のダンボールに詰めておけ。大掃除の時間は限られているんだぞ」 「ひゃいっ!」 変な声が出た。振り返ると、腕を組んだ鷲尾が冷ややかな視線で見下ろしていた。 今日は大掃除ということで、彼もいつものスリーピーススーツではなく、動きやすいダークネイビーのシャツにノーネクタイという少しラフな出で立ちだ。  少しだけ開いた胸元に、ベッドでの情熱的な記憶がフラッシュバックしてしまい、りとは慌てて視線を逸らした。「す、すぐにやります!」 りとは急いでパイプ椅子を引き寄せ、その上に乗って背の高いスチールキャビネットの天板に手を伸ばした。  分厚いファイルが何冊も並んでいる。それを一気に抱え込もうとしたのが間違いだった。「うっ、重……っ」 想像以上の重量にバランスを崩し、パイプ椅子の上でぐらりと足元が揺れる。  あっ、倒れる。そう思って目を瞑った瞬間――。「……君は、仕事納めの日に労災を申請して俺の仕事を増やす気か」 ドサッ、という鈍い音ととも
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16.身の程知らずの独占欲

 十二月二十九日、木曜日の夜。 今日から一月三日まで、株式会社ウィルクエスは年末年始の長い連休に入った。 世間が帰省や旅行で慌ただしく動く中、りとは暖房の効いた自室のベッドの上で一人、毛布にくるまりながらスマホの画面を見つめていた。 開いているのは、女性向け風俗〝メロウルーム〟の公式ウェブサイトだ。 トップページには『年末年始の営業について:十二月三十一日〜一月二日は休業、一月三日より一部キャストにて営業開始』というお知らせがデカデカと掲載されている。 りとはスクロールして、お気に入り登録している〝レイ〟の出勤スケジュールを開いた。「レイさん、年末も働くんだ……」 ぽつりと、ひとりごちる。 カレンダーには、明日の三十日の夜に〝年内ラスト一枠〟として出勤のマークがついており、年明けは三日の夜からすでに出勤予定が入っていた。 会いたい。 画面越しの出勤スケジュールを見ているだけで、鷲尾の大きな手や、甘いキスの感触が蘇ってきて胸が苦しくなる。 でも、もしここで自分がこの年内ラストの枠を予約してしまったら。 「年末の忙しい時期にわざわざ自分を指名してくるなんて、こいつ本気になってるんじゃないか」と、彼に気づかれてしまうかもしれない。シャワー室でのあの牽制し合うような会話があった手前、それはどうしても避けたい。 それに――もし今から予約しようとして、すでに他の誰かで枠が埋まっていたら。(そっか……レイさんは明日、誰かと年内最後を過ごすかもしれないんだ……) 見ず知らずの他の女の子を優しく抱きしめ、甘い言葉を囁き、あのとろけるようなキスをするのだろう。 そう想像しただけで、心臓がギリッと嫌な音を立てて軋む。勝手に傷つき、勝手に嫉妬している自分がひどく惨めだった。「……あー、もう! 考えるのやめやめ!」 りとはスマホをベッドに放り投げ、むくりと起き上がった。 本当は実家の九州に帰省しようかとも迷ったのだが、年末の帰省ラッシュで新幹線も飛行機も混んでいるし、何より親から「いい人はいないの?」と小言を言われるのが目に見えていて、遠いしめんどくさいなぁと早々に諦めていたのだ。 せめて美味しいものでも食べて、心を満たそう。 りとは立ち上がり、冷蔵庫の扉を勢いよく開けた。 中には、このおひとり様の連休を乗り切るためにスーパーで買い込んでおいた大
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17.キスしたかった

 すき焼きの鍋がすっかり空になり、締めに入れたうどんまで綺麗に平らげた頃。  ふと時計の針を見ると、時刻はすでに深夜の十一時を回ろうとしていた。「……すっかり長居してしまったな。そろそろ失礼する」 「あ、はい。お粗末様でした!」 鷲尾はクッションから立ち上がると、「少し待っていろ」と言い残し、一度自分の部屋へと戻っていった。  数分後、再びりとの部屋を訪れた彼の手には、可愛らしい小ぶりの紙袋が提げられていた。「すき焼きをご馳走になった礼だ。賞味期限が今日までで、一人では食べきれないと思っていたところだったからな」 そう言ってローテーブルの上に置かれたのは、デパ地下で行列が絶えないことで有名な、高級洋菓子店の瓶入りプリンが二つだった。  とろけるような滑らかな食感と、濃厚なバニラビーンズの香りで、若い女性を中心に爆発的な人気を誇っているスイーツだ。  しかし、その美しいプリンを見た瞬間、りとの胸にチクリと冷たい棘が刺さった。(これって……もしかして、女性のお客さんからの差し入れ……?) レイは、超人気のトップセラピストだ。休日のデートやホテルでの施術の際に、女性客から高価なプレゼントや流行りのスイーツを差し入れされることなど、日常茶飯事だろう。  つい先程まで、〝二人きりで鍋を囲む特別な時間〟だと浮かれていた自分の頭に、冷や水を浴びせられたような気分になった。  所詮、自分は数多くいる客の一人に過ぎない。彼にとって自分は、特別な存在でもなんでもないのだ。「……どうかしたか、甘崎。甘いものは嫌いだったか?」 「えっ? あ、いえ、そんなことないです。ただ……」 りとは唇を噛み締め、ずんと重くなった声でぽつりと呟いた。「……お客さんからの差し入れですか? だとしたら、私がいただくのはちょっと申し訳ないというか……」 あからさまに顔をしかめ、嫉妬を隠しきれない声になってしまった。  すると、鷲尾はピタリと動きを止め、黒縁メガネの奥の目をパチクリと瞬かせた。そして、少しだけ気まずそうに視線を泳がせると、コホンと小さく咳払いをした。「……客からの貰い物ではない」 「え?」 「仕事帰りに、デパ地下に寄って……俺が食べたくて買ったものだ。それも、わざわざ三十分並んでな」 その言葉に、りとは目を丸くした。「か、課長が、自分で買ったんです
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18.背徳的な遊び

 翌日、十二月三十日。 世間はすっかり年の瀬の慌ただしい空気に包まれている中、りとは昨夜送ったメッセージの通り、親友の乃々羽を呼び出し、街へと繰り出していた。 レイさんが他の女の子と会っているという残酷な現実を少しでも頭から追い出すために、「どうせ暇してるでしょ」と自ら声をかけて付き合ってもらったのだ。「もう、ほんっとに男なんてろくなもんじゃない! 今年の厄は今年のうちに全部落としてやるんだから!」 駅前の大型ショッピングビルに到着するなり、不倫男に騙されていたトラウマから完全にヤケになっている乃々羽の勢いは凄まじかった。 「付き合ってあげるんだから、私の買い物にもとことん付き合いなさいよ!」と息巻く彼女に手を引かれ、アパレルショップから雑貨屋まで、各フロアを端から端まで徹底的に練り歩く。りともそれに付き合いながら、自分用の冬物コートや、気になっていたデパコスをじっくりと見て回った。 一階のコスメフロアは、年末の自分へのご褒美を求める女性たちで賑わっていた。煌びやかなショーケースを覗き込み、りとはずっと気になっていた外資系ブランドの新作リップを試させてもらった。 美容部員に丁寧に塗ってもらったのは、冬らしい、ほんのりと色づく深みのあるプラムピンクのリップだ。鏡の中の自分は、普段のドジで子どもっぽい雰囲気から、少しだけ〝大人の女性〟へと背伸びできているように見えた。(これを塗ったら、少しは大人っぽく見えるかな……。年明けの仕事始めで、課長に会う時につけていこっと。……あっ、でも、ホテルで会う時に塗っていったら、キスした時、彼にも色がついちゃうかな……) 無意識のうちに〝彼〟との接触を想像してしまい、りとは慌ててぶんぶんと首を振った。忘れるために来たのに、結局何を見ても鷲尾の顔がチラついてしまう。 それでも、可愛いコスメを綺麗なショッパーに入れてもらった時の高揚感はりとの心を明るくしてくれた。 買い物の後は、そのまま駅前のカラオケ店に飛び込んだ。 「今日はもう、喉から血が出るまで歌うからね!」とマイクを握りしめる乃々羽とともに、二人は流行りの失恋ソングや、アップテンポなアイドルソングを次々と予約した。 タンバリンを叩き、大声で歌って、笑って、物理的に体力を消費する。 「クソ男には天罰が下れーっ!」と叫ぶ乃々羽に合わせ、りとも「そうだそうだー
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19.深夜のホットチョコレート

 日付が変わる頃、乃々羽と別れたりとは、冬の凍てつくような寒さの中を一人、自分のアパートへと歩いていた。「あーあ、飲んだ飲んだ……」 口から吐き出す白い息は、街灯に照らされてすぐに夜の闇へと溶けていく。親友の乃々羽と心ゆくまで愚痴を言い合い、カラオケで喉が枯れるまで騒いだおかげで、沈んでいた気分は随分と軽くなっていた。 年末で静まり返った住宅街の道を歩きながら、りとはマフラーに顔を埋める。 アパートの敷地内に入り、ふと自分の部屋の隣――鷲尾の部屋の窓を無意識に見上げていた。 電気はついておらず、カーテンの隙間からも光は一切漏れていなかった。真っ暗だ。(まだ帰ってないのかな。それとも、もう寝てる……?) 時刻は深夜の零時を回っている。もし彼が今日、女性向け風俗のセラピストとして出勤していたのなら、お客さんを見送り、そろそろ仕事が終わる頃かもしれない。 もしかしたら、そのままお客さんとホテルでお泊まりの時間を過ごしている可能性だって十分にある。 ズキリ、と。アルコールで麻痺していたはずの胸の奥が、再び嫌な痛みを訴えた。カラオケで発散したはずのモヤモヤが、彼の不在を突きつけられただけで簡単に蘇ってしまう。「……私には関係ないし! どうせただのお客さんなんだから!」 りとは冷たい頬を両手でパチンと叩き、自分自身に言い聞かせるように呟いた。彼が誰とどこで何をしていようと、部下であり客でしかない自分がいちいち気に病むことではない。そう、割り切らなければいけないのだ。 逃げるように外階段を駆け上がり、自室のドアを開ける。 暖房をつけてダウンコートを脱いだりとは、この鬱屈とした気持ちを少しでも紛らわすため、キッチンに向かった。 小鍋に牛乳を注いで火にかけ、細かく刻んだビターチョコレートをゆっくりと溶かしていく。とろりとしたところに、隠し味のブランデーをほんの少しだけ垂らした。 お気に入りのマグカップに注ぎ、仕上げに真っ白なマシュマロを浮かべてシナモンスティックを添えれば、甘くて濃厚な大人のホットチョコレートの出来上がりだ。 マグカップから立ち上る湯気と甘い香りに少しだけホッとしたりとは、部屋の窓を開け、ベランダへと出た。「うわっ、さっむ……」 十二月末の深夜の空気は、肌を刺すように冷たい。けれど、いろいろな感情で火照ってしまった頭を冷やすにはち
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20.年越し蕎麦

 十二月三十一日、大晦日。 世間が年越しの準備で慌ただしく動く中、りとは自室のベッドで大きなクマのぬいぐるみを抱きしめながら、今日も今日とて鷲尾のことばかりを考えていた。(課長……今日くらいは、実家に帰るのかな) ふとそんな疑問が浮かんだが、すぐに首を横に振る。 以前、ホテルで〝レイ〟に初めて施術してもらった時、彼が夜の世界に入った理由を語ってくれたことがあった。『家族が残した多額の借金があって、それをどうしても急いで返済しなければならなかったんです』 その言葉を思い出すと、彼の実家や家族関係は、親族が集まって穏やかに年越しを祝えるような状況ではないのだろうと容易に想像がついた。 だとすれば、今日も隣の部屋にいるのだろうか。 しかし――もし家にいたとしても。(あんな声聞かれて、しかも最中に名前まで呼んじゃって……もう絶対、顔なんて合わせられないっ……!) ベランダでのやり取りを思い出し、りとは「うわぁぁぁっ!」と声を上げてクマのぬいぐるみに顔を埋めた。自分の変態的かつ図々しい妄想が彼に筒抜けだったのだ。穴があったらブラジルまで掘り進めてから埋まりたい。「……そうだ。大晦日だし、年越し蕎麦を作ろう」 このまま一人で悶々としていても気が狂いそうになるだけだ。りとは鬱屈とした気持ちを紛らわすため、夕方、近所のスーパーへと買い出しに出かけることにした。 大晦日のスーパーは、営業時間が短縮されていることもあり、夕方の割引を狙う客たちでごった返していた。 人の波をかき分け、なんとか野菜売り場へと辿り着く。お目当ての長ネギを見つけ、スッと手を伸ばした――その瞬間。 同じネギに向かって伸びてきた大きな手と、自分の手がパシッと重なってしまった。「あ、すみま――」「……甘崎」 謝りながら顔を上げたりとは、息を呑んだ。 そこに立っていたのは、黒のチェスターコートを着こなした鷲尾冴臣その人だった。 まさかこんな激混みのスーパーで遭遇するなんて。気まずさで顔が真っ赤になりそうだったが、ふと彼の持っている買い物かごの中身に目がいった。 かごの中には、生蕎麦、立派なブラックタイガー、長ネギ、そして紅白のかまぼこが綺麗に並んで入っている。「か、課長も、ちゃんと年越し蕎麦食べるんですね……!」 完璧主義で合理的な彼のことだから、大晦日だろうが完全栄養食
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