Alle Kapitel von ゴミとして捨てられた聖女、王国を奪う: Kapitel 11 – Kapitel 19

19 Kapitel

闇の女王は、遊びを選ぶ

 魔王ノリスは、城の高みから夜を見下ろしていた。 風に揺れる銀髪。  赤い瞳は、楽しげに細められている。「……ふふ」 思い出すのは、少し前の出来事だ。 あの聖女――ヒマリとの、二度目の対話。 ◆ 中層回廊。  結界の向こうで、ヒマリはひとり立っていた。 周囲に魔物はいるが、前に出てくる気配はない。  まるで、話すための場所を用意したかのようだった。 ノリスは肩をすくめて歩み寄る。「逃げなかったのね。偉いわ、聖女」 ヒマリは一歩も退かず、まっすぐに見返してきた。「今日はフェルマーも魔物もいない。  あなたと話したかったの」「ふうん?」 ノリスはくすりと笑う。  柱の陰にデーモン2、骸骨兵3。  ――あれで魔物を隠したつもりか。 城の機構に手を入れて来るかと思ったけど。  直接交渉しに来た。 でも、震えてもいない。  その事実が、少しだけ気に入らなかった。「で? 私の城を勝手に弄って、私の配下を浄化して――  次は何? 王でも奪うつもり?」 わざと、棘を含ませる。 ヒマリはきょとんとした。「……え?」 その反応が、あまりに素直すぎて、ノリスの方が拍子抜けする。  演技なのか、試しているのか判断が付かない。「ジギスムントよ。  あなた、王位を狙ってるんでしょう?」「え、全然?」 ヒマリは首をぶんぶん振った。「正直、捨てられた立場だし、興味ないよ。  下層を攻略したのも、私が生きる場所を作りたいだけで  ……恋とか政略とか、よく分からないし」 ノリスは思わず目を瞬かせた。(……は?)  何か勘違いしていたのか。  少し魔力で圧を掛けて確認する。「じゃあ、私とあの男を巡って争うつもりも?」「ないない。  むしろ、ノリスが狙ってるなら応援するわよ?」 ノリスの魔力を身に受けているはずなのに、  あまりに軽い調子だった。「今更どういうつもり!?」 今度はノリスのほうが声を漏らす。 ヒマリは少し困ったように笑った。「だって、あなた強いし綺麗だし。  もう、あなたのこと好きでしょ♡ 王様だって」 沈黙。 ノリスは数秒、言葉を失った。(……敵意が、ない?) 競争心も、嫉妬も、策略もない。  ただの事実確認のような目。「……あなた、私を警戒してないの?」「してるけど。敵とし
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シュルツ視点:亡命とヒマリとの初対面

 軍章を外した瞬間、私は王国の将軍ではなくなった。 私の中では、すでにすべてが終わっていた。 ノリス様は笑っていた。  あの人らしい、無邪気さの残る、残酷な笑み。「式はここでやるの。  魔王の婚礼に神父はいらないって!ね、素敵でしょ?」 ジギスムント様は、表情を変えず頷いた。 神父も誓約書もない婚礼など、国家として有り得ない。  陛下は百もご承知のはずなのに。 私はその場で理解してしまった。 この方は王たる資質を欠いている。  忠誠を捧げるべき主君の姿はなく、  遊戯を完成させるための駒同士の会話だ。 私は第二将軍として、  多くの戦場を見てきた。 裏切りも、粛清も、狂気も。 だが今の光景には、  それらとは別種の冷えがあった。 心が、最初から置かれていない。  ノリス様が本当に気づくのはこれからだ。 その夜、私は部屋に戻らなかった。 荷をまとめ、軍章を外し、剣だけを取った。  逃亡ではない。亡命だ。  向かう先は一つだけ。 ――ヒマリ。 彼女は最近、妙に名が挙がる存在だった。 無力と噂され、同時に魔王城を制したとも囁かれる女。 だが、事実魔物の被害は軽減していた。 不気味なほど、静かな中心。 私は情報網を頼り、  夜明け前の外縁拠点にたどり着いた。 魔王城を見渡せるだけの粗末な建物だった。  警備も、威圧も、誇示もない。 拍子抜けするほど、普通だ。  だが、聖女はここを会合場所に選んだ。 第二将軍である私を魔王城で受け入れるわけには  いかないのだろう。 扉を叩くと、すぐに声が返った。「はーい。どうぞー」 ……軽い。 中に入ると、ランプの下に少女がいた。 異世界人らしく黒髪だ。  年若く、可愛らしい奇妙な服を着ている。 危険な気配はない。  だが――なぜか、視線を逸らせなかった。 それが、ヒマリだった。「えっと。シュルツさん?」 私は片膝をついた。  軍人としての、最後の礼だ。「はい、私がシュルツ。  元・ブリュード王国第二将軍。  本日をもって、亡命を希望する」 沈黙。 だが、重くならない。「ふーん。将軍さんなんだ」  ヒマリは首をかしげた。「亡命ってことは、  ノリスとジギスムントのとこ、やめたの?」「…
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異常な日常

 フェルマー視点:シュルツという亡命者 報告を受けた瞬間、私は彼を「処分候補」に分類した。 元・ブリュード王国第二将軍シュルツ。 前線指揮、兵站管理、兵の損耗抑制――  いずれも一級。 優秀な亡命者ほど危険なものはない。  選択を誤ったときの破壊力が違う。 ヒマリは「一人で会う」と言い張った。  私は記録水晶を操作しながら、男の経歴を洗い直す。 不自然なほど、整っている。 武功誇示がない。  私怨による粛清がない。  部下の損耗率が異様に低い。 英雄でも、狂人でもない。 ただ、削られながら生き残ってきた男だ。 こういう人間は危うい。  次に何を信じるかで、世界の形を変える。 私は間者の可能性も考えた。  だが決定的に違う点が一つあった。 ――彼は、何も要求していない。 地位も権限も、情報も。  忠誠の証明すら、自ら差し出さなかった。 亡命者とは本来、信用と引き換えに何かを渡す生き物だ。 だが彼は違う。 疲れ切っている。 逃げたのではない。  壊れる前に立ち去ったのだ。 ヒマリが通した理由も理解できる。 彼女は浄化の時、直感でポイントを変える。  そして今回も外していない。 私は監視名簿に彼の名を記し、優先度を一段下げた。 代わりに注記を残す。 ―― 「支配すれば壊れる。  だが放てば、最も長く残る」  ―― 扱いづらい。  だが、最も価値がある。 それが、シュルツという男の評価だった。 ◆ シュルツ視点:魔王城の内部 目を覚ましたとき、鐘は鳴らなかった。 号令も、起床ラッパもない。 それなのに、拠点は静かに動いている。 廊下を何かが滑っていった。 ……雑巾? 違う。ゴーストだ。 その上に腹ばいで乗ったヒマリが、片手を振る。「おはよーございまーす……」「何をしているのですか」「掃除」 即答だった。「歩けばよいのでは?」「昨日走り回ったから疲れてて」 意味がわからない。 だが彼女はそのまま、すい、と曲がり角へ消えた。 私はしばらく立ち尽くした。 ――常識が通用しない。 だが、空気は穏やかだった。 ◆ 食堂らしき部屋に入ると、さらに異様だった。 長机の上に、食事が並んでいる。 だが配置が雑だ。 鍋、パン、果物、干し肉、薬
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魔王親衛隊、中層に降りる 前編

 中層での危険性を忘れ、 日常を楽しんでいるように見えるヒマリ達。 その和やかな雰囲気は、上層からの侵略によって終わりを迎えた。 回廊から立ち込める純然たる圧力。 意志を持った、冷徹な殺意。 中層の空気が、一瞬で重く淀む。「来たな」 フェルマーが冷や汗を垂らしながらも笑みを浮かべる。「隙を見せた甲斐があったわね」 ヒマリはそそくさと後方に避難しながら、魔王城へのアクセスを始める。「なんと、弛緩した軍の様子はすべて策略だったか」「ごめんなさい。フェルマーが秘中の秘だって言うから 口にできなくて」「無駄口を叩くな!上層の戦力をおびき寄せた 今が魔王城の制御権を奪う、最初で最後のチャンスだ」「了解した」 シュルツが低く呟き、剣を構えた。 その一言で、前線に線が引かれる。 上空で空間が歪み、二つの咆哮が重なる。「……ツインヘッドドラゴン」 フェルマーが静かに名を呼んだ。 だが、それは単なる二つの首ではなかった。 片方は紅蓮の鱗。 もう片方は蒼氷の結晶。 互いに反発しながら、完全な均衡を保っている。「……古代種か」 巨大な双頭の竜が、翼を広げて中層の天井を突き破るように降下する。 鱗は漆黒に輝き、二つの首が同時に息を吸い込む。 翼が一振りされる。 その風圧だけで回廊の壁が崩落した。 中層の天井が裂け、瓦礫が雪崩のように落ちる。 魔物たちが散り散りに逃げる。 紅の首が紅蓮のブレスを吐き出し 蒼の首が逆回転するように魔力を収束する。 二つの属性が螺旋を描き――融合。「結界、展開!」 フェルマーの声が響く。 半透明の多層結界が広がり、ブレスを歪める。 軌道が逸れ。 壁を抉り、床を焼き焦がし、氷結させる。 爆音と蒸気が充満し、結界が一瞬で三層破壊された。 フェルマーが膝をつく。「……一撃で、ここまでか」 被害は出たが、ドラゴンの侵入は防いだ。「……上層にこんな化け物がいたなんて」 ヒマリが歯を食いしばる。「ああ。よほど我々が目障りになってきたのだろう。 結界の安定させるまで敵を近づけるな」 フェルマーは前線に出ない。 だが、戦場の形を、彼が決めている。 次に現れたのは、影。黒い甲冑の騎士たち ――魔王親衛隊、シャドウ・ナイト。 黒い甲冑の中央。 一歩前に出他より一回り大きい影。
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魔王親衛隊、中層に降りる 後編

「もうひと踏ん張りか」  シュルツは剣を構え、ガーゴイルを切り払った。 床から無数の光の管が現れ、ヒマリに突き刺さる。 視界が反転し、世界が数式に分解される。 戦場の配置、魔力流量、損耗率、再生時間。  中層の全データが一瞬で可視化されていく。「……っ」 情報量が多すぎて脳が焼ける。 冷たい声が響く。 ――最適解を提示せよ。「……やめて……!」 膝が崩れるが、光は止まらない。 一本刺さるごとに様々な感情が入り乱れ、眩暈と共に  膨大な魔力が流れ込んでくる。「よしっ、魔王城がヒマリを認め始めた」(全然よくないよ……! 痛いし、頭が割れそう……!)「あの小娘に集中しろ! 制御権に干渉を始めているぞ!」 シャドウ・ナイトの隊長グリムが異変に気づき、隊列を再編。 楔形陣がヒマリに向かって突進する。 殺到するガーゴイルを、今度は骸骨兵たちが盾壁で受け止める。  骨が砕け散っても、再生して立ち塞がる。 ゴーストたちが風魔法で隊列を乱し、  透明な体でナイトの視界を奪う。 地に落ちたガーゴイルを、スライムたちが集団で包み込み、  酸で溶かし潰していく。 だが、 ついに、結界を破ったツインヘッドドラゴンが、  咆哮と共に中層に駆け下りた。 炎の首が持ち上がり、中層を焼き払おうとする。「いいぞ首が上がった、ガーゴイルは頼む!」  シュルツが剣を構え、飛び上がる。「魔法剣・氷結の刃!」  氷の剣気がドラゴンの炎首を狙うが、氷首がブレスで迎撃。「おおおおっ!」  シュルツが咄嗟に氷首に狙いを変え、首に一太刀を入れた。 ギシャァァァ!! 苦悶の咆哮を上げるドラゴンにデーモンが後ろから食らいつき  巨大な牙で翼を引き裂く。 だが、さらに後ろから親衛隊隊長グリムが追い付いてくる。「容易くやらせはせん」  グリムは静かに言った。「があっ」  次の瞬間、デーモンの背が斜めに裂けた。 黒い剣がデーモンの再生を阻害する闇魔法を帯びていたが  デーモンは嚙みついたまま離さない。 ここが勝負所とみたお互いの増援がドラゴンを中心とした  輪を作り、混戦が始まった。「邪魔をするな!   ヒマリ様の新しい時代が来るのだ!」「死にぞこない共が」  グリムは剣を抜こうと力を籠めるが
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魔王城中層 ―― 判断が先に走る

 ヒマリは常人なら死んでもおかしくない魔力波を  全身に注入されながら、違和感を抱いていた。(……軽い) 身体が、ではない。  思考が、軽い。 戦況に迷いが生じる前に、  次の選択肢が、すでに結果として浮かび上がってくる。 どの部隊が限界か。  進むべきか。  待つべきか。 考えた瞬間、  城がそれを採用済みとして受け取っている感覚。 そのとき、広間の奥で小さな魔力の乱れが起きた。「魔王城補助管、負荷上昇」 フェルマーが即座に反応する。「烈火演舞――」(必要ない) 彼は言葉を止めた。  指先の炎が消える。 次の瞬間。  補助管が破裂し、衝撃波が走る。 近くにいたガーゴイルが数体、吹き飛ばされた。 周囲の通路が即座に封鎖され、  別区画からサキュバスが投入される。「こんなことが…」  フェルマーがヒマリに振り返る。  いつもの尊大な口調だが、視線は忙しなく魔力波を追っていた。「何が?」「気付いていないのか。  ヒマリの指示が直接頭に流れ込んでくる。  今の指示に覚えがないのか?」 ヒマリは答えなかった。  自分でも説明ができなかったからだ。 戦闘は続いている。 隊長グリム。  魔王ノリス配下の親衛隊が、再編成されて突撃してくる。 ヒマリは息を吸った。 (前衛を下げて、左右を――) 命令を出す前に、魔物たちが動いた。  ゴブリンが後退し、骸骨兵が前に出る。 数体が無言で散開、囮に。  声はない。合図もない。  なのに――完璧な役割分担。 フェルマーが目を見開く。 「やはり違う。ヒマリは知識はあっても戦闘の素人だ」 シャドウ・ナイトの斬撃が走る。  本来なら防げたはずの攻撃を、ゴブリンがその身で受ける。 ゴブリン数体が真っ二つに。  血が散り、魔力が霧散する。 ヒマリの指先が痺れる。 (今の……私が許した?) 次の瞬間、突出した親衛隊の陣形がわずかに崩れる。  死角からデーモンの魔弾が通り、グリムが膝をつく。 上空のドラゴンが体勢を崩す。  天井の魔力脈が歪み、上昇気流が乱れる。  城が、勝手に有利に傾ける。(これで損傷軽微!?  でも、ここで止めたら……もっと死ぬ) 胸の奥で、何かがひび割れる音がした。
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最適解の向こう側

 中層中央、制御広間。  ヒマリは一人、魔王城の鼓動を見下ろしていた。 床下を走る魔力回路が、淡い白光となって脈打っている。  呼吸のように、規則正しく、迷いなく。(……安定してる) 疑いようのない事実だった。  戦闘直後とは思えないほど、城は静かで、整っている。 咆哮も爆音も消え、残るのは焼け焦げた床、  砕けた骨、淡く脈打つ結界の光だけ。「……被害、報告」 ヒマリが掠れた声で言った、その瞬間。 『不要です』 答えたのは、人ではなかった。 正確には――  ヒマリの頭の奥に、直接流れ込む情報。《損耗率:13%許容範囲内》 《戦力再編成:推奨》 《清掃工程:進行中》「……え?」 視線を巡らせる。 戦場の端で、スケルトンとゴブリンたちが  無言で死体を回収している。「ちょ、待って……!  私も手伝うから――」 一歩踏み出そうとした瞬間。『そのままで』 再び、声。《管理者は高負荷状態》 《移動は非推奨》 ヒマリは、はっと気づく。――自分だ。 正確には、  自分がそう思ったことを、城が先に処理している。「……フェルマー」 振り返る。 フェルマーは結界維持の反動で膝をつき、  口元を血を拭いながら戦場を睨んでいた。「今の……聞こえた?」「聞こえた」 即答。「正確には、君の判断ログを参照した自動処理だ」 フェルマーは現代用語を事もなげに口にする。「……それって」「君は命令していない。  だが、迷い、恐れ、犠牲を最小化しようと考えた」 彼はゆっくり立ち上がる。「城が最適解として実行しただけだ」 ヒマリは涙を拭う。「……私が、許した?」「厳密には、追認している」 その言葉に、シュルツが眉をひそめた。「勝利したのですぞ。  なぜ、喜ばれぬのですか」「勝ち方が問題だ」 フェルマーは即座に返す。「勝利条件が、人の意思から切り離され始めている」「中層、全区画の安全確認は完了した」 フェルマーの声が、広間に淡々と響いた。  彼は記録水晶を操作し、数値を読み上げていく。「魔力循環率、誤差〇・三%以内。  外部干渉、検出なし。  ノリス由来の闇属性反応も、基準値以下に抑制されている」 周囲にいた魔物たちが、ほっと息を吐いた。 小さな安堵の
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魔王城コア・同化

 中層の戦闘が沈静化した直後、  魔王城は自律的に軍の再編を開始した。 ヒマリは命令していない。  だが、城は理解している。 ――次に取るべき最適行動を。「前線部隊を三群に再編。  戦闘能力ではなく、制御適性で分ける」 淡々と読み上げるのはフェルマーだった。  彼の手元で、魔力の配列が書き換えられていく。「シュルツ隊は先導。  デーモン部隊は後方で魔法支援。  飛行戦力は展開せず、封印待機」「……敵が来ないわね」 ヒマリは前を見たまま言った。「当然だ」 フェルマーは即答する。「楽勝と思えた敵に壊滅的な被害を負ったのだ。  魔王ノリスが戻るまで、出てはこないだろう」 彼は一瞬だけ、ヒマリを見る。「それに、我らの目的は魔王軍壊滅などではない」 その言葉に、ヒマリは答えなかった。 彼女の視界には、  魔王城の最深部――中枢区画が半透明に重なっている。 そこへ至る回廊は、  かつて魔王玉座と呼ばれていた場所だ。「……クルス」 ヒマリは、その名を思い浮かべる。 前魔王。  この城を作り、支配し、  そして今は――コアとして存在している。「制御権を掛けた争いになるわね」 ヒマリは、誰にともなく言った。「でも、戦う必要はないはず。  制御権はすでに私のもの」 フェルマーは小さく頷く。「ああ、魔王城は既に君に傾いている。  後は意思の問題だ」 軍勢は音もなく進む。 そして―― 中枢区画に辿り着いた。 そこはもう、城ではなかった。  壁も床も物質ではない。 魔力の脈動が、巨大な心臓のように鼓動し、  周囲の壁から出る巨大な光の管に支えられている。 その中心に―― 女が座っていた。 魔力で編まれた玉座。  そこに腰掛ける細い身体。 長い黒髪は重力を無視して宙に揺れ、  光の粒子が王冠のように頭上を巡っている。 白い肌。  広い額と高い鼻。中性的な輪郭。 左右対称の整いすぎた顔立ち。 だが、その瞳だけは違った。  深い闇を湛えた捕食者の紫瞳。 前魔王クルス。「……来たのね」 魔王城とは違う柔らかい肉声。 だが、どこか低く――  性別を断定させない響きだった。「好き勝手にやってくれたわね」「あなたが、選択しなかったからでしょう?」
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魔力循環の乗っ取り 魔王城からノリス追放

 コア同化から、数時間後。 魔王城中枢の急造作戦室には、重く張り詰めた沈黙があった。 投影水晶に映るのは、城全体を巡る黒い魔力の流れ。  ノリスの闇魔力によって構築された、巨大な循環構造。「……最終確認するわ」  ヒマリが、静かに口を開く。「魔王城の制御権は私にある。  でも、城を動かしている血液は、まだノリスのもの」 彼女は光の流れと闇の流れが絡み合う図を指さした。「この闇の循環を切らない限り、   ノリスは何度でも城を取り戻せる」 フェルマーが淡々と頷く。「だから君は、魔王になる」「……支配者になる、って意味?」「違う。魔王城そのものになる」 ヒマリは、わずかに唇を引き結んだ。「始めるわ」 中層から上層へ流れる、主魔力ライン。 フェルマーの術式によって、  それは黒く、粘ついた光として浮かび上がる。「魔王城からの魔力供給が途絶えた親衛隊は弱体化している」「だが、ノリスが戻るまで例え一角でも死守するはずだ」 ヒマリは小さく頷く。「いくよ」 白い光が生まれ、そっと触れた。 ぶつけない。押し返さない。 読み取り、受け止め、組み替える。 欲望を否定するのではなく、 「生きたい」 「壊されたくない」という根源へと再配列する。 闇が、抵抗をやめた。  白が、静かに染み込んでいく。「第一ライン、乗っ取り完了」  フェルマーが即座に告げる。 城が、わずかに震えた。 黒い流れの一部が、淡い白に変わっていく。  ◆ 同時刻。 魔王城に戻ったノリスは、眉をひそめた。「……あら?」 胸元に手を当てる。「私の魔力……薄くなってる?」 不快そうに唇を歪め、立ち上がる。 黒い霧が巻き上がり、その身を包んだ。「不意打ちで潰すつもりだったけど、  面白いことするじゃない」 次の瞬間、彼女の姿は上層へ飛び立つ。 上層、魔王王座回廊。 そこには、待ち構えるデーモン部隊がいた。 浄化と再調整を受けた彼らの魔力は安定し、瞳には迷いがない。「ノリス様……いえ」 一体が、静かに言う。「元・主よ。ここは通せません」 ノリスは細く笑った。「裏切り者たち。  ……なるほど、浄化されたのね」 次の瞬間。闇が炸裂した。 圧倒的な魔力が通路を薙ぎ払い、  数体のデーモンが吹き飛ば
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