石壁の冷たさが、背中から骨へ染み込んでいた。 湿った空気が肺に重く、片目は見えない。 右肩から先も、もう存在しなかった。 それでも、不思議と痛みは薄い。 痛みを感じる余裕すら、心のどこかから消えてしまっていた。 アレクシスは石壁にもたれ、浅く息を吐く。 差し込む光は少なく、鉄格子の向こうには誰の気配もない。 足音が響く。 規則正しく、迷いなく。 やがて石扉が開いた。 現れた男を見て、アレクシスはゆっくり顔を上げる。 ジギスムント。 かつてのブリュード王国の王。 そして――すべてを奪った男だった。「生きているか、公子」「……どうにか」 掠れた声だった。 ジギスムントは数秒、黙ってアレクシスを見る。 観察し、値踏みする目。 その視線は、冷徹だった。 アレクシスは唇を動かす。「……ロンデルは」 だが、最後まで言わせなかった。「滅んだ」 迷いのない断定。「ロナ公妃は戦死。 公宮は陥落。 ロンデル公国は崩壊した」 空気が止まる。 (――あなたは、生き残るの) 母の最期の声を思い出す。 叫びも涙も出なかった。 ただ左手の爪だけが、掌へ深く食い込んでいく。 胸の奥で何かが静かに崩れ落ちた。「……そうですか」 声だけは震えなかった。 ジギスムントの目が、わずかに細くなる。「泣かないのか」「泣けば、戻りますか」「戻らん」「なら、無駄です」 即答だった。 その声には、もう以前の弱さがなかった。 いや、正確には――削ぎ落ちていた。 ジギスムントが、小さく笑う。「いい顔になった」 石椅子を引き、向かいへ座る。「では、試そう」 冷たい蒼い瞳が向けられる。「お前は、なぜロンデルが落ちたと思う?」 アレクシスは沈黙した。 感情を押し殺す。 考える。 ただ、生き残るために。「僕の力が足りなかった……だが、戦力差ではありません」「ほう」「最初から、壊す順番が決まっていた」 脳裏に、炎の街が浮かぶ。「内部構造を知っている者がいた」「あるいは――」 一瞬、言葉を止める。「誰かが、魔物を誘導した」 ジギスムントの口角が、僅かに上がった。「及第点だ」 アレクシスは顔を上げる。 そこで初めて理解した。 この男は、答え合わせをし
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