ジギスムントと別れ、 回廊の角を曲がった瞬間、足が止まった。 息がうまくできない。 胸が、まだ熱い。 その時―― 「王女様っ……! さっきの……!」 「きゃあ……!あの距離、あの腕っ……!」 後ろから、ネイを始めとする侍女たちが小声で騒ぎながら追いついてきた。 アリシアは、ぴたりと振り返った。「……あなたたち」 ネイはビクリと肩を震わせた。「回廊で跳ね回るなんて、はしたないわ。 王宮の者としての自覚を持ちなさい」 叱責の声は静かだったが、芯があった。 侍女たちは一斉に頭を下げた。「も、申し訳ありません……!」 「つい、嬉しくて……!」 アリシアはため息をつきかけて―― ふと、ネイの手元に目を落とした。 指先に、衣装の残布がまだ少しだけ付いていた。 昨夜、灯りが消えなかった理由を思い出す。 針を持つ手。 小声で相談し合う声。 自分が眠った後も、続いていたはずの時間。(……この衣装を、私のために) 胸の奥が、じんわりと温かくなった。 さっきとは違う種類の温かさだった。「……でも」 アリシアは、少しだけ声を和らげた。 「この衣装、とても綺麗よ。 あなたたちが丁寧に仕立ててくれたのが分かるわ」 ネイは顔を上げ、目を丸くした。「お、お気に召しましたか……?」 「ええ。 ジギスムント陛下も……綺麗だと、言ってくれて……」 言いかけて、アリシアは慌てて視線を逸らした。「と、とにかく……ありがとう。 あなたたちの仕事は、ちゃんと伝わったわ」 侍女たちは、今度は静かに、深く頭を下げた。「王女様のお言葉……励みになります」 「次は、もっと素敵な衣装をお作りします」 アリシアは小さく頷いた。「期待しているわ。 でも、回廊ではしゃぐのは……本当にやめてね」「は、はいっ……!」 侍女たちはネイに纏められ、頬を赤らめながら散っていった。 ◆ 一人になった。 アリシアは、そっと壁に背を預けた。 石壁の冷たさが、火照った体にゆっくり染み込んでいく。 さっきまで、ジギスムントの腕の中にいた。 冷たい指が顎を持ち上げ、 逃げられない距離で落とされた口づけ。 逃げようと思えば、逃げられた。(逃げなかっ
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