土曜日、いつもの時間にインターホンが鳴った。玄関を開けると、灯が革靴を脱ぎ、いつもの位置に揃える。「こんにちは」「こんにちは」 灯は鞄を持ったまま、そのまま書庫へ向かった。階段を上る足音が、二階の奥へ消えていく。瑠衣はその足音を数えるように聞いてから、台所へ引き返した。 シンクの前に立ち、蛇口をひねる。水音が響く中、棚から急須を取り出した。棚には似たような缶が二つ並んでいる。ひとつは普段使っているもの、もうひとつは先週買い足したばかりのものだった。買い足したときは、まったく違う場所にしまうつもりだった。忙しさにまぎれて、結局隣同士に並べてしまっていた。 蓋を開け、茶葉をすくう。急須に入れ、湯を注ぐ。手順はいつもと変わらなかった。頭の中では、朝のメールのやり取りが繰り返し流れていた。返信の来ないチャットの画面。空欄のままだったスケジュール表。それらが順番に浮かんでは、また同じところに戻ってくる。窓の外で鳥の声がしたが、それすら遠く感じた。 湯気が立ちのぼる。瑠衣はふと、自分の手元に目を落とした。手にしている茶筒の柄が、いつも使っているものと違っていた。「あっ」 声が漏れたときには、もう湯を注ぎ終えていた。急須の中で、見慣れない色の茶葉が開き始めている。瑠衣は茶筒を持ち直し、蓋に書かれた文字を確かめた。棚の二つの缶を見比べる。よく似た形をしていて、朝の忙しさの中では取り違えても不思議はなかった。急須の蓋を開け、中を覗き込む。今さら茶葉を取り出すこともできず、瑠衣はそのまま蓋を戻した。茶葉の香りだけが、いつもと違う立ち方をしていた。 湯飲みに注ぐ。いつもより色が少し濃かった。盆に乗せ、書庫へ向かう階段を上る。一段ごとに、湯飲みの中で茶がわずかに揺れた。踊り場の窓から差す光に、湯気が一瞬白く光った。 書庫の扉を開けると、灯はいつもの椅子に座り、本を開いていた。棚に並んだ本の背表紙が、午後の光を受けて淡く並んでいる。湯飲みを机に置くと、灯はページから顔を上げ、口をつけた。 一口飲んで、動きが止まる。「今日は、少しだけ味が違いますね」 責める響きはなかった。ただ事実を確かめるだけの声だった。瑠衣は湯飲みを見つめ、頭を下げた。「すみません。別のものを入れてしまいました」「大丈夫です」 それだけだった。灯はもう一口飲んでから、本に視線を戻した。ペ
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