「大丈夫だって思い込んでた自分が悪いって事は、自分自身が一番良く分かってるんだよ……」 左手の薬指。そこに嵌まるリングを撫でながら昴は続ける。「でも、下手に動けない状況だったんだ。どうしたら良いのか……」 愛しい妻との関係を壊す、この緑色の紙を破ってしまいたい。しかし、それをしてしまえば、きっと良くないことが起こることだろう。「千々石」 名前を呼ばれた秘書が、すっと黒いファイルを手渡す。「これはお前に預けておく」「はい」「頼むから、絶対に奪われないでくれ」 それはもう、命令では無く願いに近かった。「承知いたしました」 預かる責任は実に重たいものではあったが、こうなってしまった責任は千々石にもある。それが分かっているからこそ、彼は素直にファイルを受け取り頭を下げた。「信じてるからな」「分かっています」「……はぁ」 手元に残された緑色の紙が目の前から消えたことで、心配事の一つは先送りとなった。完全に解決するためには未だに時間が足りないためもどかしさは感じるのだが、その前に立ち塞がる問題を解決する必要があるせいで中々上手くはいかない。「それで」 千々石が時計を見ながら尋ねる。「どうするつもりですか? 昴さん」「…………」 今、昴に必要なものは、決定的な証拠である。 四埜杜繭と再開してから起こる様々なトラブルは、決して偶然などでは無い。そのことについては始めから気が付いていた。 一度や二度なら疑いを持つこともしなかったかも知れない。しかし、余りにも頻繁に起こる不可解な現象が続くのだから、これはもう必然と断定してもおかしくはないだろう。そして、その全てに四埜杜繭という女性が絡んでいることは分かりきっている。それなのに、彼女が関与をしているという事実。それを示す証拠だけが未だに見つからない。「少なくとも、この前の事故……あの時の証拠さえ押さえられれば……」 あの忌々しい記憶は、消えること無く鮮明に思い出すことが出来る。 愛する妻が蒼白になって病室に駆け込んできたあの日。四埜杜繭を送迎する目的で、車を走らせているときに巻き込まれた交通事故。それがきっかけで、妻との距離はどうしようも無いほど離れてしまった。 事故があってからというもの、一気に世間に広まったものが、昴と四埜杜の関係を匂わせる報道である。どちらも知名度があるせいで、
Last Updated : 2026-10-11 Read more