「過去形?」「最近観れてないだけ」「じゃあ一緒ですね」その“同じ”が、妙に心地いい。「陶芸もたまに行きます」「え、陶芸?」「仕事で頭使いすぎると、無心でできるやつしたくなるので」知らない。そんな翔太。少し新鮮で、少し悔しい。「スポーツは?」「サーフィンは、まだよく行ってて」「ゴルフは付き合いでたまに」「金融っぽい」「金融なので」二人で笑う。「観る方は好きですよ、バスケとか野球とか?」翔太が続ける。「あ、ビリヤードとかもします。スポーツではないですけど」「それも知らなかった」翔太が少しだけ肩をすくめる。「聞かれてないので」責める言い方じゃない。でも、少しだけ胸がちくっとした。五年前。自分は本当に聞いてこなかった。翔太の人生を。ちゃんと。「じゃあ、私も今度紹介する」「何を?」「今の好きなもの」翔太が少しだけ目を上げる。「いいですね」その返事が、思っていたより柔らかかった。「昔好きだったものじゃなくて?」「今の」私は頷いた。「昔の私のことは、たぶん翔太もある程度知ってるけど」言いながら、少しだけ照れる。「今の私は、そんなに知らないでしょ」翔太はしばらくこちらを見ていた。それから、小さく笑った。「知りたいですね」低い声だった。その一言で、胸の奥が静かに揺れる。さっきまで辛さで熱かったはずの口元とは別の場所が、少し熱くなる。「じゃあ、今好きな本とか、映画とか、店とか」「店は助かります」「そこ?」「愛子が好きな店、普通に信用できるので」「雑な信頼すぎない?」「でも信頼してます」翔太の目は、やっぱり優しかった。五年前の話をした後なのに。むしろ、話したから少しだけ距離がほどけたみたいに。重い話をしたのに、気まずさではなく、少しだけ静かな親しさが残っている。そのことが嬉しかった。「あと」翔太がビールを置く。「アートバーとか、たまに行きます」「アートバー?」「飲みながら、絵を描くバーです」「あー、最近あるよね」「お酒飲み放題だし」「そこ推しなんだ」「大事じゃないですか」翔太が真面目な顔で言う。私は笑ってしまう。「飲み放題目当て?」「半分」「また半分」「半分は、愛子が行ったらどう描くのか気になる」その言い方が、何気ないのに少しだけ胸に残った。
최신 업데이트 : 2026-08-04 더 보기